第25話 伯爵の矜持、僕は……。
「ここまでコケにしてくれたんだ。楽には殺さんぞ、ファルマン、トシ……」
まるで地獄の底から出している様な恐ろしい声で僕らを脅すブラフマン。
彼の駆る黒曜石の輝きを放つ神話級ギガス「イシュヴァーラ」。
僕らの連続攻撃で、装甲がやや煤けてはいるものの可動に問題はなさそうだ。
「く。どうしよう。あれ以上の攻撃力を出せる方法なんて……」
今の僕らの最大攻撃をまともに喰らって、まだ動けるのは脅威だ。
……ヴィローも分解光線砲は受け止めたけど、それ以上に硬いなんて!
「トシ殿。君はリリちゃんと一緒に一旦後方へ下がりなさい。ここはワシの領地で、君らはワシの子供みたいな存在。しばし、ワシの戦いを見ているのじゃ! ブラフマン殿、一騎打ちでどうかな?」
「舐めてくれるな! まあ、良いわ。元よりオマエは粛清対象。オマエの無残な死骸を見せれば、誰もが降参するであろうよ」
「伯爵様!」
「アルおじちゃん!」
伯爵様が愛機「バーグマー」で僕らの前に立ち、イシュヴァーラに向かって
「ブラフマン。我が騎士団を傷つけ、リリ嬢を侮辱したお主をワシは許さん。もうワシは貴族連合にも戻らんし、結社とは縁を切る! まずは盟主のお主を倒して、子らへの土産としようぞ!」
「フン! たかがA級機体でワレが神話級機体に勝てるとでも思うのか? 凡人共は歳を取れば甘くなっていかぬ。オマエのような愚か者は貴族にあらず。ワレ、直々に首を取ってやろうぞ!」
お互いに一騎打ち、一撃勝負の構え。
百メートルほど離れて攻撃の準備をする。
地上に降り立ったイシュヴァーラは両腕をぶらりと下に下げる。
一見隙だらけの構えだが、殺気がどんどん増大している。
対するバーグマーは騎馬槍を前に向け、一気に突進をする準備。
お互いの機体から発するタービン音や蒸気がどんどん増していく。
「どうして僕を戦わせてくれないんですか? このままじゃ伯爵様が!」
「我慢してください、トシ殿。伯爵様は、我らがマスターは貴方がた二人に希望を見たのです。ここは辛抱してくださいませ」
僕らは騎士団の人達のギガスによって、飛び出さない様に抑え込まれている。
いくら伯爵様が凄腕のギガス使いであっても、敵の能力が圧倒的に上で使い手も弱くないのでは、はっきり言って勝算は低い。
「でも、このままじゃ伯爵様が!」
「我慢してください。我らだって、我らだって……」
泣き声になりつつ、ヴィローを抑え込む騎士団のお兄さん方。
僕は彼らの思いを受け取り、この勝負を見守る事に決めた。
「リリ。今は辛抱しよう。でも、伯爵様が危ないときは……」
「うん。アイツ、わたし前から大嫌いなの。エヴァさんを大事にしていないんだもん!」
すっかり、いつも通りに見えるくらいには復活したリリ。
もうリリを泣かせない。
そう、僕は心に決めた。
「リリちゃん、トシ殿と幸せになるんだぞ。さあ、戦女神の加護は我にあり! 行くぞ!」
「来い! 愚か者」
ドンと、地響きをさせて戦闘が開始した。
一気に踏み込むことで、地面に大きな穴をあけて突撃する伯爵機。
各部から火花と蒸気を吹き出しながら、騎馬槍を突き出す。
槍も周囲に稲光と魔力の渦を造りながら、眼前の敵を貫こうとした。
迎え撃つ結社盟主機。
無造作に右手を前に差し出す。
避けようともしないし、力も変に込めていない様にしか見えない。
ドカンと大きな音がした後、衝撃波による砂塵混じりの突風が激突した二機を中心に吹き荒れた。
「え! 槍を指先で受け止めるなんて!?」
右手人差し指、中指と親指で騎馬槍をひょいと掴む。
「うぅぅ。ワシの渾身の一撃が……」
「この程度の一撃でワレを倒せると思うとは甘い。じゃあ、死ね!」
殺気が膨れ上がったと思うと、いきなり伯爵の駆る機体の手足が飛んだ。
いや、何かによって機体の手足が全て切断されてしまった。
ドスンと尻もちをつく達磨状態な伯爵機。
もはや逃げる事も出来ない。
「アルおじちゃん! おにーちゃん、わたし!」
「ああ、ごめんなさい。皆さん!」
僕は一気にスラスタージャンプし、囲み込んでいた騎士団の機体を飛び越える。
そしてそのまま、漆黒の神話級機体に両手に握った刀を打ちおろした。
「ふん! この程度か? 神話機体ともあろうものが」
……なんだ? この違和感は? あ!?
「ヴィロー! 緊急機動! リリ、ごめん」
刀の切っ先が黒曜石な装甲に触れた瞬間、僕はとてつもない寒気を首筋に感じ、機体を横滑りさせるように移動させた。
「ほう。カンは良いのか。それとも攻撃を見切れたのか? 前の戦いでもワレの攻撃を見切っておったな?」
凄まじい横Gに苦しむも、なんとか滑る様に着地した僕。
ヴィローの右手に持つ刀に目を移すと、切っ先が折れ飛んでいた。
【マスター。敵機の攻撃が分かりました。指先が高周波ワイヤーになってます。画面上で強調表示してみますが、ご注意を】
「あれで、おじちゃんの機体を壊したんだ!」
モニターを凝視すれば、敵機の左手指先から伸びる何かがある。
その何かは再び指先に戻っていた。
「さあ、リリを。『人形』を渡せ!」
迫りくるイシュヴァーラ。
僕は、絶対に負けられない戦いを挑む。
「お前なんかにリリは絶対に渡せない。リリは僕のお嫁さんなんだから!」
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