瑠璃光の復讐者（リベンジャー）～両親を悪徳貴族に殺され、妹と生き別れになった僕。運命の出会いをした美少女と共に機械巨人を駆り、世界を救う！～

第２３話 恐怖！ 漆黒の魔神。

「くぅ。リリ、大丈夫？」

「うん、わたしは大丈夫。ヴィローも異常なしだけど……。あ！」

　上空に舞う漆黒の巨人、いやギガス。

　それは真下、僕らに沢山の火球を撃ちおろしてきた。

「トシ殿。一体、何が起こったのか……。ぐぅ。こ、これは！」

　僕は上空に魔力シールドを出来るだけ広く展開ししつつ、直ぐ近くにいた伯爵機を庇った。

　何回もの爆発がシールド上で起き、僕らの上にも衝撃や火の粉が降りそそいだ。

　しかし、僕らから遠い場所。

　シールドで守り切れなかった範囲では、そんな事ではすまされない地獄絵図が広がっていた。

「お、俺の腕は何処だぁ」

「熱い、熱い。ぎゃぁぁ」

「眼が見えない。一体何が起こったんだぁ！」

　シールド範囲外には、共和国の兵士や彼らを救おうとしていたラウドの兵たちが多くいて、彼らが犠牲になった。

　千切れた腕を探すもの。

　身体が燃えていて暴れるもの。

　視覚を奪われて、手探りで逃げ惑うもの

「く。くそぉぉぉ！　おい！　飛んでいる奴！　何がしたいんだぁ！　ヴィロー、アイツを落とす。フルパワーだぁ」

　僕は怒りに任せ、機動スラスターを全開にしてジャンプした。

【マスター！　敵の魔力量が異常です。私の倍以上なんて！】

「おにーちゃん、落ち着いて！」

「落ち着いてなんて居られるかぁ！　ヴィロー。　必殺、十文字切りぃ！」

　黒曜石じみた装甲を纏（まと）う飛行ギガス。

　マント状の装甲の下から両腕を出している。

　それを目がけて飛び込んだ僕は、高周波の刃を撃ち込んだ。

「何！　うわぁ！」

　しかし、ヴィローの一撃は突然展開、ばらばらになったマント装甲に邪魔される。

　更に板状になった沢山の飛行装甲が、ヴィローに激しくぶつかった。

【このままでは落ちます！　姿勢制御をします】

「おにーちゃん。落ち着かないと勝てないよ！」

　敵によって弾き飛ばされた僕が駆るヴィロー。

　落下しながらも、なんとか姿勢を整える。

　僕は怒りに燃えつつも、敵がタダモノでは無い事に気が付いた。

　……あの攻撃魔法も普通じゃないし、それ以上に飛行できるなんて！　ヴィローですら普段は滑空が精一杯なのに？

「ご、ごめん。ふぅ。リリ、敵の情報を頼む。ヴィロー、しばらくは防衛気味に戦うぞ」

「うん！　任せて！」

【御意。敵はおそらく私以上の神話級機体。御油断なさらずです】

　一旦、深呼吸をしつつも敵の動きを観察する僕。

　本来なら追撃をしてきてもおかしくないのに、敵は飛行する小さな装甲を展開しつつ全く動かない。

　……ヴィローを舐めているのか？　それとも、自分の方が圧倒的に強いから相手にしないとでも思っているのか？

　無事、着地するまで手を一切出してこない敵。

　僕は、このままでは埒（らち）が空かないと声をかけてみた。

「オマエ！　お前は何の目的で僕らを攻撃してきた！？　何か言えよ！」

　僕の叫びにも、ただただ空中で見下ろす、いや見下してくるだけの敵。

　その様子に僕は、何か不気味なものを感じた。

【グワハハハハハ！】

　突然、狂気じみた笑い声を放つ敵ギガス。

　その声に、僕は聞き覚えがあった。

「その声、『ローデシア』から出ていたものじゃないか。じゃあ、まさか？」

「全くこらえ性が無い奴だな、イシュヴァーラ。その通りだよ、トシ。しかし、ゾンビ兵では数多くても役に立たんな」

　僕の呟きを拾い、また別の聞き覚えがある若い男の声が空中のギガスから聞こえた。

「アルテュール・ファルマン！　お前はワレら結社を裏切り、貴族連合に反逆した。その行為、万死に値する！　そしてトシ。お前は持っているな、『鍵』を。それをワレに寄こせ！」

「その声はハンス！？　じゃあ、やっぱりあの時の声はそのギガスの制御仮面の声だったのか？」

　……やっぱりハンスも選ばれた操者だったんだ！　なら、エヴァさんもリリと同じ存在。だったら、その機体（ギガス）もヴィローと同クラス以上か！

「ハンス？　ワレはそのような愚かな名前ではない！　ワレの名は、ブラフマン。ブラフマン・ザ・ダークスターである！」

「ば、馬鹿な。その名前は結社『ラハーシャ』の盟主が名乗っていたはず。以前、面会したときは今にも死にそうな老人だったぞ？　なら、代替わりしたのか？」

「ファルマンよ。以前、面会した際に脅していたのが効いておらぬのか？　裏切りは死だと。ふはは！　ワレは神秘の秘術にて若返ったのよ」

　伯爵が酷く驚くが、どうやら空を舞うギガスを操る者は見た目通りの人物では無かったらしい。

　伯爵が過去面識のあった結社盟主と年齢が大きく違うのだが、同一人物と本人が言う。

　……リリを『生み出す』くらいの技術が大昔には合ったらしいけど、結社はその一端を解読したのか？　そういえば、結社は高度技術を秘匿しているって話だし。

「ブラフマンだったか。どうしてオマエなんかにリリを渡さなきゃならない？　この世界の為にも、オマエみたいな悪魔には絶対にリリは渡せない！」

「ほう。娘が『生きた鍵』であることは知っていたか、トシ。ならば話は早い。早く渡せ。さもなくば、オマエを殺す！」

　……リリの存在をやっぱり知っていたのか。治療院での広域治癒魔法で結社にリリの事がバレてたんだな。

「誰が渡すかよ。ヴィロー、こいつは生かしておけない。ここで倒す。リリはシートベルトしっかり締めて！」

【御意！　私の存在価値はリリ姫を、かのような悪鬼から守る事でございます。かならず倒しましょう！】

「おにーちゃん。わたしが『鍵』ってどういう意味なの？　ヴィローも何か知っているの？」

　僕はヴィローを戦闘モードに持ち込むが、リリが疑問を叫ぶ。

「そ、それは……」

「ふはは！　そうか。おかしいと思っていたが。ワレが持つエヴァ同様、リリも道具。造られた存在でヒトでは無い人形なのに、妙に大事にしていると思ったぞ」

「い、言うな、ワイズマン！　リリ、違うんだ。君は……」

「違いはせぬ。リリ、お前は古代人によって造られた人形。生きている『鍵』なのだよ。ワレが古代人の英知を全て手に入れるためのな！」

　僕が言葉を遮るが、ブラフマンは叫ぶように話してしまう。

　リリが普通の人間ではない事を。