第22話 哀悼! 悲しみの勝利。
「リリ、何処を狙ったら一番効果があって味方に当たらない?」
「ちょっと待ってね……。モニターに射線を書いたよ。そこに合わせて三秒間で薙ぎ払って! マナコントロールやマナのリバースファイヤーは、わたしが制御するの」
【では、私が姿勢制御とシア解放を。トリガーはマスターに任せます。脚部アイゼン起動、視界を対閃光モードへ移行】
僕は愛機ヴィローチャナに敵から奪った大砲、
戦場には、まだ多数の敵ギガスが存在する。
ここで一掃出来れば、僕らの勝利に近づく。
……殺すのは嫌だけど、こいつらは無残に仲間を殺し過ぎた。それにここで倒さなきゃ、今度は街が焼かれる!
戦場に転がる味方の残骸を見て、僕はぐっと奥歯を噛みしめる。
「チャージ完了まで後、三、二、一。どうぞ、おにーちゃん!」
「当たれー!」
僕は、モニターに表示されたターゲットマークに合わせてトリガーを引いた。
遮光されたモニターが、純白で覆われる。
放たれた光線は、同じく分解光線砲を構えようとしていた三体のギガス一瞬で消し飛ばす。
「うぉぉぉ!」
光線を右方向、モニターに表示された指示ラインに沿ってぐいっと凪ぐ。
大砲から伸びる光の剣は、僕に向かっていたギガス二体を消滅させる。
「よっこいしょぉぉ!」
光が消える直前、共和国の戦車に斧を振り下ろそうとしていたギガスの上半身をぶった切った。
「はぁはぁはぁ」
僕は逆流してくる魔力や心的負荷に耐え、切れた息をなんとか戻そうとする。
……ここまでで、十五機撃墜か……。くそ。
【お疲れさまです、マスター。当機の前方に敵影なし】
「おにーちゃん、お疲れ様なの。アルおじちゃん達の騎士団も救援に来たから、これでなんとかなったわ」
視線を後方に向ければ、伯爵機を先頭にラウド騎士団が残り少なった敵ギガスに攻撃を敢行している。
「じゃあ、僕らもこのまま殲滅戦に移ろうか。大砲は補助腕に持たせておいて、切りにいくぞ」
【御意!】
ヴィローは両手に刀を持ち、残る敵ギガスに突撃した。
◆ ◇ ◆ ◇
朝日が昇る頃、戦闘は僕らの勝利で終わった。
炎が各所で燃える中、真っ赤な朝日に擱座した機械騎士達が照らされる。
「おにーちゃん、お疲れ様でした。悲しいね……」
「ありがと、リリ。うん。こんなに殺したくはなかったよ、僕」
【マスター、お気になさらずに。一方的に襲ってきた相手に対し、正当防衛をしただけです。マスターが戦わないと、もっと被害が大きくなっていました】
僕の苦しい心情をリリとヴィローを読んで慰めてくれる。
人を殺したくないから、共和国と伯爵様の間を上手く取りなした。
しかし、謎の軍勢により共和国軍に多数犠牲が出てしまったし、守る為にとはいえ僕が沢山敵を殺してしまった。
襲ってきた敵ギガスの総数はCからB級と推定される物が三十六機、概ね装甲大隊クラスの軍勢だった。
最初、迎え撃った共和国はD級が十二機、C級三機。
他は、自走榴弾砲や戦車、歩兵からなる混成独立大隊。
突然の夜襲を喰らったため、指揮系統は壊滅。
ギガス以外の部隊は半数以上が損失した。
……ギガスもD級が七機も失われたんだ。
後半から参戦したラウド騎士団、総勢二十機。
僕が戦場で暴れていたので混乱していた敵ギガスを、必ず複数機で囲みこんで撃破していたから被害は無かった。
【撃墜スコアーですが、共和国軍が七機、ラウド騎士団が九機、残り二十機が私だけで倒した事になりますね】
……分解光線砲があったから一気に殲滅できたけど、僕は今日だけで二十人も殺したんだ……。
「トシ殿、ありがとう。貴殿が多数敵を撃破してくれたおかげで、無事勝利できたよ。だが、すまない。殺したくないトシ殿に殺しをさせてしまって……」
「いえ。お気になさらずに、伯爵様。これはヴィローを預かった僕の使命ですから」
多くの機械騎士「トネール」を従える騎馬槍を構えるA級ギガス「バーグマー」。
そこから伯爵様の声がして、僕の事を褒めつつも慰めてくれた。
「しかし、凄いなぁ。たった一機で二十の
「はい。これが本来の姿、ヴィローチャナです。僕はリリを守る為にこの機体を預かってます。それで、すいませんが共和国の人々は……」
「あい、分かっておる。幸いな事に事務方と最高指揮官殿は、ワシらと打ち合わせをしていたので無事だ。傷ついた者達は全てワシの街で面倒を見ようぞ」
「ありがとうございます。これで僕も安心です」
敵であったからもしれない共和国軍の人も助けてくれるという伯爵様。
政治的配慮もあるのだろうが、嬉しい事だ。
「伯爵様、そしてトシ殿。お忙しいところ、申し訳ありません。緊急のご報告がございます」
そんな時、騎士団の一人が伯爵と僕の前にギガスを
「先程、撃破した敵ギガスのコクピットを確認のために開きましたが、そこにはミイラ化した遺体しか乗っていませんでした。気になって他のギガスも確認しましたが、全て同じでした」
「なんだって? じゃあ、僕らはミイラやゾンビと戦っていたの?」
「うむ。これは普通では無いな。いきなりの空間跳躍、そしてミイラ兵。もしや、これは結社の企みか?」
伯爵様は今回の攻撃が結社のモノと推理している。
【マスター。私も伯爵様に同意見です。かのような未知の技術は、共和国ではありえず。貴族連合の手のモノでもあり得ないでしょう】
……謎が謎を呼ぶけど、詳細は後だね。まあ、人殺しじゃなかったのは幸い。今は救援が優先だよ。
「分かりました。情報ありがとうございます。とりあえず詳細は後で調査しましょう。では、僕も救援に参ります。ヴィロー、モードを通常に。リリは怪我人を集めた後に広域治癒をお願い」
【御意】
「うん!」
両手の刀を腰の鞘にしまい、ヴィローを擱座した機体の回収に向かわせたとき。
「おにーちゃん! 十一時の方向、上空100。大規模魔力反応!」
【マスター、魔法攻撃が来る!】
コクピット内に警報がなり、リリとヴィローが警告を放つ。
「魔力シールド、二十メートル上空に円形広域に多重展開! 急げ―!」
僕は視線を上にあげつつ、味方を守るべく防御シールドを広範囲に展開する。
明けきらない朝の空、上空に浮かぶ黒い人型が視線を上にあげた僕の目に映る。
朝日を受けて輝く
僕や味方達がいる戦場に撃ち降ろしてきた。
「うわぁぁ!」
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