第21話 覚醒、ヴィローチャナ!

「リリ、ヴィロー。大丈夫?」


「わたしは、だいじょーぶ。ビームはヴィローで全部受け止められたよぉ―。味方にビームによる被害なし。あれぇ、射線上に居た敵ギガスがやられちゃってるの?」


【私も今のところ支障なし。ただし、各部がオーバーヒート状態で防御機能に難ありです。魔力マナプール残量は七割残っています】


 僕は敵からの分解光線砲ディスインテグレーターを、仲間を庇うために射線に割り込んでヴィローで受け止めたが、少々の被害で済んだ様だ


【魔力シールドは、しばらく展開不可能。偽装装甲の半分が融解し関節可動域が狭くなってます。更に装甲表面結界フィールドスキンも半分が消失、結界復活まで720秒必要です。今から、急速冷却を開始します】


 ……防御能力が半減したのは少々痛いか。けど魔力残量に問題が無いなら、このまま継続戦闘しよう。


 目の前のモニターが遮光から緑単色の暗視モードに戻ったが、溶けた偽装装甲が動きを邪魔して歩くのにも支障が出ている。

 機体の各部から蒸気が吹き出し急速冷却をしているが、満足に動けない内に襲われたら大変だ。


「おにーちゃん、すっかり囲まれたの!」

【このままでは危険です。マスター!】


 サブモニターに表示されたドローン撮影。

 上空からの俯瞰ふかん映像では、ビームを防ぐために敵前に突撃したヴィローが孤立化しているのが表示されている。

 すっかり敵ギガスに囲まれていて、大ピンチ。


「こうなったら! ヴィロー、敵を出来るだけ引き付けてから装甲パージしてアレやるよ! リリ、引き続き情報支援をお願い」


【御意! モード、現状維持。一気に勝負しましょう】


「うん、おにーちゃん」


 蒼い単眼をマスクの下に輝かせる黒い機械騎士。

 斧らしき得物を構え、ヴィローを囲みこんでくる。


【おかしいですねぇ。敵全機から大量のマナ、魔力は感じますがパイロットの生命反応が読めません。それに先程は制御仮面がある頭部を失った機体が動いていました。外見からしてC級クラスとは思いますが、何もかもが不自然です。戦場への登場もいきなりですし】


「確かに全部が不思議だよ。かといって手加減してじっくり観察している余裕も暇もないし、数が多すぎて油断して勝てる相手じゃない。今は確実にコクピット部を狙って倒すよ」


 サブモニターやメインの全天モニターから見える限りで八つの光点がヴィローを取り囲んでいる。


 ……僕に対して多数の敵がマークしてくれるのなら幸い。味方への負担が下がるからね。


「一斉に斧で殴ってきそう。おにーちゃん!」


「ヴィロー、六臂ろっぴ展開!」


【了解】


 ヴィローを取り囲んでいたうち、四機が頭上に構えた斧を振り下ろしてきた。

 それに対し、僕は二対四本の副腕を展開。

 がっしりとそれぞれの副腕が敵の斧を受け止めた。


「お前ら如きの攻撃、副腕で十分さ。ヴィロー、ここで装甲を強制パージ!」

【待ってました】


 爆裂ボルトの火薬が炸裂し、ヴィローの上に覆いかぶさっていた偽装装甲がはじけ飛ぶ。

 そして夜明け前の闇夜に輝くマナの光。

 ヴィロー本来の白銀な魔法金属ミスラル装甲が発光した。


「視覚を暗視から輪郭強調モードへ。ヴィロー、抜刀! 必殺、四方斬撃!」


 両腰の鞘から、左右の腕で赤く輝く刀を引き抜くヴィロー。

 ヴィローを中心にして周囲に赤い軌跡が四方、敵ギガスの中を飛ぶ。


 蒼い眼の敵ギガスの動きが止まる。

 そして腹部コクピット付近に赤い線が走ってそこから胴体がずれだした。

 ドスン、と四体の機械騎士が腹部から水平に両断。

 真っ二つになって転がったギガス、切断面が赤熱溶解していた。


「このまま、大砲まで一気に切り抜けるぞ。もう撃たせない!」


 一瞬で味方機が僕にやられたのを見て躊躇したらしい敵機。

 その隙を付き、僕はこのまま殲滅するように切り付けた。


「十文字切り! 渦旋斬撃! 魔力弾乱れ打ち!」


 囲んでいた敵を全て撃破し、そのまま分解光線砲ディスインテグレーターを持つ奴らに突撃をかます僕。

 ヴィローのモニターには、魔力切れで擱座かくざしているらしい二機のギガスから大砲を奪う様に取った新たな二機が大砲を構えようとしているのが映った。


「大砲を撃つのに魔力が二体でも足らないから、交代して撃つつもりか。でも、遅い! 疾風怒濤!」


 僕は、ヴィローに突撃技をさせる。

 渦巻くオーラを纏ったまま敵に突撃、一気に四機の敵ギガスを吹き飛ばしバラバラにした。


「大砲、もーらい! ヴィロー、これ使える?」


【はい、デバイス情報はありますので、制御プログラムをインストールしてくだされば】


「じゃあ、わたしがやるね。デバマネ、インストール!」


 リリが後部座席から呪文を詠唱し、制御プログラムを組み立てていく。


 ……やっぱり、リリって凄いな。機体制御や部隊の指揮管制しつつも、新しいデバイス用の魔法プログラムをその場で組み立ててインストールするんだもん。


 普段は脳天気な天然アホ娘だが、ここぞという時の爆発力は無敵な美少女。

 『生まれ』は特別だけれども、心根はとっても優しい普通の女の子だ。


 ……リリはいつも笑顔でアホやっててほしいな。ごめんね、人殺しの手伝いをさせちゃって。


「インストールできたよ。連続照射は三秒まで。一気に勝負しちゃう、おにーちゃん?」


「そうだね。可哀そうだけど、こいつらはここで全滅させる!」


 僕は、ヴィローに分解光線砲を構えさせた。

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