第20話 戦乱、暁の出撃!

「急げ! 既に戦いが始まっているぞ!」


「回せ―! 急速起動。壊れるまで回せ―!」


 僕とリリが戦闘用衣装に着替え、騎士団詰所のハンガーに行くと、そこは既に戦場。

 蒸気が至る所から吹き上がり、タービンが高速回転をする音も響く。

 かがり火に照らされているギガスに沢山の整備員さん達が群がり、立ち上げを行っていた。


「トシ坊、リリちゃん!」


「アカネさん。ヴィローは直ぐに出られますか?」


「ごめん。他の機体を見てて、まだ偽装装甲を外していないんだ。ただ、戦闘には一切問題無し! このまま行けるよ」


 ヴィローのところに居たアカネさんに声をかけると、出動には問題はないが、偽装装甲が外されていない。


「ありがとうございます。このまま出撃。敵次第では現地で装甲をパージします。リリ、行くよ」

「うん。アカネおねーちゃん、行ってきます」


 僕はリリの手を取り、座っているヴィローの手足を昇りコクピットへ向かう。


「二人とも、気を付けて。ご武運を」


「アカネさんも早く非難してね。リリ、シートベルトとヘルメット。ヴィロー出るぞ」

【御意!】


 まだ夜明け前の砂漠。

 遠くで炎が上がるのが見え、時折爆音も聞こえてくる。


 僕はヴィローを立ち上がらせ、一旦詰所ハンガーから機体を外に出す。


「ヴィロー、偵察ドローン射出! 敵の情報を確認しろ」

【了解です】

「おにーちゃん。わたし、情報支援するね」


 ヴィローの背中から偵察ドローンが二機射出され、夜空高く飛んでいった。


「トシ殿。騎士団でも無い貴公に出陣を願い、すまん」


「いえいえ。僕も今はラウドを守る騎士です。今、敵の情報を集めていますから、しばしお待ちを。あ、分かりました。リリ、騎士団の皆の機体に情報共有を」


「りょーかい」


 ヴィローの横に白磁の重騎士、伯爵様の駆るバーグマーが来てくれる。

 僕はドロ―ンからの情報を味方機たちに共有した。


「こ、これは? 敵の位置が分かるぞ、トシ殿」


「皆さんにヴィローが入手した情報を提供してます。どうやら三十体以上のギガスが現れた様です」


 リリが操作した情報が、サブモニターに表示される。


 ……他の機体でもモニターの一部にドローンからの偵察情報が表示されているのかな? 強制ハッキングってヴィローは言ってるね。


 戦っている味方と敵が緑色の単色画面グリーンディスプレイの中、上空から見られた形で表示される。

 そのうち、味方の共和国軍の機体や人は白い輪郭で、敵ギガスらしき機体は赤の輪郭で強調表示されている。


 ……ヴィロー曰く、パッシブ暗視映像と熱赤外線映像を合わせているって言っているけど、チンプンカンプンだよぉ。


「共和国軍がかなり苦戦している様です。僕は先行して敵機を強行偵察してきます。伯爵様と騎士団は後から無理せずに来てください」


「あい、分かった。トシ殿、リリちゃん。くれぐれも無理はするでないぞ」


 僕は伯爵様に後から来てと提案し、ヴィローの向きを戦場へと向けた。


「リリ、ヴィロー行くよ。モード・ヴァシュラ!」

「はーい」

【御意!】


「トシ・クルス。ヴィローチャナ、参る!」


 一気にスラスターを吹かし、ヴィローはホバー移動で戦場へと向かった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「うわぁぁ! こいつ、頭を落としても止まらないぞ!」


 指揮系統が失われている共和国軍。

 各個が個別に戦っているのだが、元から遠距離砲撃主体の構成な遠征軍であったため、いきなり接近戦に持ち込まれて苦戦をしている。

 戦車は走り回って大砲を撃つが、高機動なギガスには中々当たらない。

 遠距離用自走砲や歩兵に至れば、ギガス相手には逃げるしかない。

 眼に見える範囲でも炎と機器の残骸、バラバラになった遺体が戦場に転がっている。


 ……ちきしょぉ。沢山の人達が死んでいる。許さないぞ!


「おにーちゃん……」

「ああ、目の前の敵から落としていく!」


 僕は共和国のD級ギガス「セルヴィトール」が首無しの敵ギガスと組み合っているのに横から割り込んだ。


「ふん!」


 真っ黒と思われる装甲の重騎士ギガスの横腹に容赦なく大型メイスをぶち込む。

 メイスはコクピットらしき部分にめり込み、ズドンと吹っ飛んで動かなくなる敵ギガス。


「D級ギガスの操縦士さん! 今、指揮系統はどうなってますか?」


「あ、はい。いきなりギガスに襲われまして、指揮官たちがいましたテントが真っ先に潰されました。今は各個、なんとか戦っていますが混乱していて劣勢です」


 僕が助けた共和国D級ギガスの操縦士に話を聞くと、真っ先に指揮系統が襲われた様だ。


 ……いくら深夜だと言っても、接近してくるギガスの大軍を監視部隊が見逃すはずないよな? それに初手で指揮系統を潰すなんて、戦術がしっかりしているぞ。とりあえず、今は指揮系統を治そう。


「リリ、大変だけど共和国軍の指揮管制もお願いできる?」


「わたしとヴィローなら出来るよ。一緒に広域治癒もしちゃうの。さあ、いっくよー」


 ヴィローから緑色の暖かい風が広がっていくのが、モニターからも見える。


「え、凄い! 怪我人が治っていく。それにギガスのモニターに戦場の状況が表示されてます」


 ……共和国軍の機体にはアカネさんの手が入っているし、伯爵のとこのギガスも同じ。アカネさん曰くバックドアを仕込むのもお手の物だって。


「では、無事な皆さんに連絡しましょう。こちら、共和国傭兵ギガス、ヴィローチャナ。トシ・クルスです。今から僕の機体から共和国の皆さんに戦闘指揮をします。各個、協力して敵機に当たってください。まもなくラウド領の騎士も救援に来ます。ここで踏ん張ってください!」


 僕は拡声機能を使って、戦場で戦う味方に叫ぶ。

 ここで敵を抑え込まないと味方が総崩れになり、軍勢がラウドの街に流れ込んでしまう。


 ……戦えない人々が戦乱に巻き込まれるのだけは、何としても阻止しなきゃ。


「おにーちゃん、二時の方向。高マナ反応あり。……あ! これって分解光線砲ディスインテグレーターだぁ」


 視界を二時方向に向けると、騎士ギガス二体が大砲らしきものを抱えているのが見えた。


「くそぉ、遠い。今からダッシュして間に合うか! ヴィロー!」

【御意! スラスター全開!】


 僕は、敵大砲へと高速ダッシュをした。


「魔力チャージの完了を確認。射線にいるみんな、避けてぇ!」


 必死に味方へ退避指示を飛ばすリリの声を聞きながら間合いを図るが、まだヴィローから敵は遠い。


 ……ちきしょぉ、間に合わない。だったら!


「こうなったら! ヴィロー、ここでビームを受け止める。モード・ナヴァグラハ!! 魔力シールド前方へ円錐状に多重展開。機体装甲の表面結界フィールドスキンに慣性制御も全開!」


【御意! お二方、対閃光・対衝撃防御を】


 立ち止まったヴィローに防御姿勢を取らせた瞬間、目の前のモニターが真っ白な閃光に覆われた。

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