第17話 リリの説得と暴走。

「もー、アルおじちゃんのバカぁぁぁ! なんで、皆戦うのよぉぉ!」


 リリの叫びで、今にも突撃しようとしていたギガス達の動きが止まった。


「どうして皆、仲良くできないの? 戦いなんて良いこと、何もないの!」


「そ、そうはいうがな、リリちゃん。今回、ワシらは攻められておる。奴らを倒さぬと領民が殺されてしまうのじゃ」


「そんなことないもん! おにーちゃんが共和国の偉い人と話し合って、攻めないって約束させたんだもん!」


 リリは泣きながら、どうして戦いが起こるのかって伯爵に訴えた。

 その剣幕に騎士団の方々もバツが悪そうにしている。


 ……あーあ、言っちゃったよ。でも、ここいらで僕の立場を見せるのは良いかもしれないや。


「約束というが、それを共和国の簒奪者さんだつしゃ共が守るという保証は……。ん? ど、どういうことだ。リリちゃん。トシ殿が共和国軍と通じていたとは?」


「それは、こういう事です、伯爵様。僕は、共和国軍に雇われた傭兵。ラウドには密偵として潜入したのです」


 リリの天然発言にしばし惑わされる伯爵。

 リリと話しているうちに、僕が共和国側の人間とようやく気が付いた様だ。


「な、なんじゃとぉぉ! トシ、お前はワシを騙しておったのか!?」


「最初は騙して貴方を討ち取るつもりでした。ですが、貴方や騎士団の方々とお話していて、そんな気は無くしました」


「では、何ゆえに今もワシらが元に居る? 戦闘中にだまし討ちをするつもりだったのか!?」


 ……騙していたのかって言われるのは辛いよね。確かに最初は騙すつもりだったにせよ。


「いえ、そんなつもりは毛頭ありません。僕は伯爵様の人柄を知り、共和国側にラウドへ攻め込むのを辞める様に説得しました。しかし、あちらも馬鹿に頭が固く、先に攻撃しないと事だけをなんとか約束させたのです」


「それを直ちに信じろと?」


「事実、今も共和国軍は動きを止めています。まあ、先に動いたら、共和国だろうが僕が容赦しないとは宣言してますが」


 僕は、ヴィローの顔を共和国側に向けて圧をかける。


「アルおじちゃん、信じてよぉ。わたし、皆が戦うのは嫌なのぉ」


 僕の発言を中々信用してくれない伯爵。

 といって逆の立場なら、僕もいきなりは信用しないだろう。


 ……だったら、話を聞かせる為に『力』を見せるしかないけど、どうしよう?


「そうもは言うがな、リリちゃん。ワシには立場も責任もある。いきなり、話し合いたいといって軍隊で来られて、どう信用しろと?」


「でも、伯爵様はおっしゃられてはいませんでしたか? 貴族連合とは縁を切りたいと」


「トシ殿。確かに今の貴族連合は正直好かん。だがな、貴族連合やその背後に居る秘密結社からワシらが縁を切られたら、領民の生活に不都合が生じかねん。それだけは、なんとしても避けねばならぬのだ」


 伯爵の言い分には、ちゃんと理がある。

 領民を守る事が最大目標。

 貴族としての責務を大事に思う彼らしい話だ。


「ファルマン伯爵は話をする気が無い。交渉決裂というのか。ならば仕方がない。共和国軍、進軍開始!」


「もー! 共和国のおじちゃんは黙ってて! どうして誰も彼も、おにーちゃんの話を聞かないの!? わたし、もう怒ったのぉ!」


 共和国からの最後通告に、とうとうリリがブチ切れた。


「ヴィロー。わたし、今から『暴風雨テンペスト』の魔法を使うから、せーいっぱい増幅お願いね」

【御意】


「ちょ、二人とも。そんな過激な事は辞めて……」


「もう、遅いもん。分からずやの人は全員、ずぶ濡れになればいいんだもん」


 リリが詠唱を始めると、ヴィロの上空。

 今まで雲一つない青空だったのに、真っ黒な雲が湧き渦を巻いてどんどん大きくなっていく。

 そして雷も鳴り始めた。


 ……元々、リリの魔法能力は洒落にならんのに、絶好調のヴィローで増幅したら死人続出しちゃう!


「おい、トシ殿。リリちゃんを早く止めるんだ。このままでは街にも被害が……」


「トシ。わ、分かった。全軍、進軍停止だ。こんなところで暴風雨になんて出くわしたら全軍壊滅してしまう!」


 上空の様子に慌てだす伯爵、共和国の両軍。

 後、もう一押しでなんとか説得までは行けそうだ。


「でしたら、お互い武力行使なしで会談に応じて頂けますか? そうでしたら、僕はリリを説得して辞めさせます」


「わ、分かった、トシ殿。話だけは聞こう。だから、リリちゃんにやめさせてくれぬか?」


「こ、こちらも了解した。トシ、リリ嬢を止めてくれ!」


 双方の指揮官から泣き言まじりの了承が得られたので、僕はため息をついた。


「ふぅ。リリ、ここいらで機嫌を直してくれないかい? 皆、戦わずに話をしてくれるって言ってくれたぞ? ヴィローもマスターの僕を無視しちゃダメだって」


【残念ですが、私が最大級に保護すべきはリリ姫です、マスター。リリ姫が泣くような事を、私は行いたくありません】


「もー。分かった、リリ。また甘いお菓子でも買ってあげるし、添い寝でも頭ナデナデでも何でもやってあげるから、機嫌直して」


 僕は後部座席へ振り返り、拝み倒す様にリリに魔法停止を懇願する。


「……。添い寝にお菓子とナデナデ、毎日。後、キスしてくれたら許してあげるもん」


「キスは勘弁してよ。他は全部、毎日してあげるからぁ……」


 僕はひたすら頭を下げ、リリに懇願をした。


「……しょうがないの。アルおじちゃん、共和国の人。もう戦っちゃダメだよ?」


 結局、騒動はリリの暴走で最悪の事態は免れた。

 誰しも、泣く女の子の暴走には敵わないのだ。

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