第18話 幸せな会談。

「伯爵様。この度は貴方様を騙す様な事をしてしまい、申し訳ありませんでした」


「いや、まあ。トシ殿にも事情があった訳だし、ワシも短気だったよ。あ、リリちゃん、すまない。ワシが悪かった。ごめんなさい」


 ……伯爵様も横でプンプン状態のリリは怖いんだねぇ。僕も怖いんだけど。


 僕とリリは、伯爵様と会談をしている。

 これまでの事、これからの事を話し合うためだ。

 僕と伯爵は、笑顔がとても怖いリリにビクつきながら話している。

 もう一回、リリの機嫌が損なった際、僕は止める自信が正直無い。


 ……それを分かって伯爵様や騎士団、共和国軍は大人しくしているんだけどね。リリが怒ったら何が起きるか分からんもん。天変地異くらい起こしそうな魔力持ちなんだから。


 とりあえず、伯爵様と共和国の間で戦闘は無しの方向で落ち着いた現状。

 リリがせっかく降雨する状態まで雲を集めていたので、僕はヴィロをラウドの街の貯水池まで移動、頭上で渦巻いていた積乱雲から多くの雨を貯水池に降らせた。


 ……ただでさえ貴重な水資源。有効活用しないとね。


 そののち、共和国側から会談に参加する事務官たちが来たので、急遽ラウド側は受け入れる事となった。

 今はお互いの事務方が協議し、お互いの落としどころを決めている。


「本当の名は、トシミツ・クルスというのか。しかし、トシ殿。あの時の事件でご両親を亡くされていたとは。ワシは何も知らずに……。すまない」


「いえいえ、お気になさらずに。四年前のあの時、伯爵様はオスマン伯爵の園遊会に来客として呼ばれていただけですし。それに事件の張本人、アンリ・オスマン子爵は僕が先日捕らえました。彼は領民を人とも思わぬ弾圧をしていたので、容赦なく叩き潰せました」


 僕が自らの本名、そして両親と死に別れ戦奴になった経緯を伯爵に話すと、伯爵はすまなそうな顔をしてくれた。


 確かにファルマン伯爵様とオスマン伯爵とは友好関係を結んでいたとはいえ、僕の事に関しては無関係。

 それに勝手に事故を起こして僕の両親に罪を押し付けたアンリは既に捕縛済み。

 後は、僕の両親に直接手を下したオスマン伯爵を倒すのみである。


 ……アイツが貴族連合の盟主だものね。でも、裏に存在する秘密結社『ラハーシャ』も一緒に倒さないと。


「アンリが捕縛された話は聞いていたが、トシ殿がやったか。なるほど、殺さずに捕縛するのはトシ殿らしい。ワシらと共和国の戦争も納めてくれたくらいだからな。ありがとう、友の子を殺さずにいてくれて」


「いえいえ。実は最後までアンリは殺す気でした。随伴の騎士は全て殺しましたし。ただ、最後になって妹の行方に繋がりそうな事を話していましたので、聞き出すために殺しそこねただけです」


「そんな事言ってても、おにーちゃんは優しいもん!」


 いくら口で嫌いだと言いながらも、友人の息子が死なずに済んだことに伯爵様は感謝してくれた。

 過去に子供を失っている伯爵様としては、愚か者でも知人の子供が死ぬのは嫌なのだろう。


「で、今後ワシらはどうすればよい? トシ殿ならどうするかな? 差し当って妹君のことは、ワシの方でも調査しておこう」


「ご配慮、ありがとうございます。僕みたいな若輩者の意見で宜しければ。とりあえず領内の政治体制は現状のままで良いと思います。スラム街など対応が足りない個所については、せっかく人員を持ってきてくれているのですから共和国に任せてみるのはどうでしょう? 彼らの政治理念が民による政治であるなら、民の困窮は放置できないでしょうし」


「おにーちゃん、それってバチ被せじゃないの? 共和国の人達がおにーちゃんを信じてくれなかった分、怒っているんでしょ?」


 ……リリ、よく気が付いたねぇ。面倒ごとは言い出しっぺに被せるに限るよ。人手だけは十分にあるんだからね。


 今回、共和国がラウドに攻め入るって言い出さなければ、僕が苦しむことも無かった。

 それに今は攻めたらダメだって意見すら聞いてくれなかった。

 なら、その責任は全部共和国側で取ってもらうに限る。


「フハハ! トシ殿もお人好しだけではないのじゃな。確かにスラムの対応は正直人手が足りておらぬ。そこを助けてくれるのなら、ワシも歓迎じゃよ」


「後はプラント維持の技術者の派遣ですね。貴族連合や結社に頼らなくても暮らしていけるのなら、問題無いですし」


 双方の落としどころとして、ラウドは貴族連合を抜け共和国に対し友好関係を結ぶと共に、共和国に一部資金援助をする。

 共和国は友好国となった伯爵様の領地を貴族連合や結社から守る為に人員や物資を供与する。

 おそらく、こんなところで落ち着くのではないかと僕は思っている。


 ……事前にリリと一緒に共和国側指揮官の方に面会して、存分に脅しておいたからね。僕との約束を破りそうになったんだもの。


 既に歓楽街では共和国軍の人々が遊びに来ており、嵌めを外した方は街中警備の騎士団にお灸をすえてもらっている。

 また、街の酒場では騎士と共和国軍の兵士達が自分達のギガスの自慢話をして酒を酌み交わしているとも聞こえてきた。

 再開したギガスでの武闘大会でも共和国から参加した上に、多額の掛け金も動いたらしい。


 ……というか、リリの『やらかし』がかなり広まってて、街中ではリリのファンクラブが出来たとも聞こえるのは怖いよね。


「しかし、リリちゃんは可愛くて恐ろしいのぉ。街中の噂で聞いたのだが、治療院に居た死を待っている者達を全員救ったのが可愛い妖精さんだったらしいが……」


「……。ええ、伯爵様。全ては、この脳天気アホ娘でございます。変に目立つ行動はしたらダメと教えてはいますが、結局暴走しちゃうので僕も困ってます」


「あー、おにーちゃん。また、わたしをアホって言ったぁ。わたし、みんなを助けたかっただけだよぉ」


 既にバレバレなので、今日はフードもウイッグも被らないリリ。

 文句を言いながらも満面の笑みが、僕や伯爵様の心を癒してくれた。


「よしよし、リリちゃん。ワシがトシ殿に文句をいってやろうぞ。お主、少しくらいは乙女心というものを理解せよ。朴念仁のままでは困るのはトシ殿じゃぞ」


 僕らは笑顔で戦いを終えた。

 これは全てリリのおかげ。

 こんな幸せがずっと続けばいい、そう僕は思った。

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