第16話 朝焼けの発進!

「全機、発進準備だ! お前ら、敵を落とせ。命は落とすなよ!」

「了解」

「GO! GO!」


 早朝四時、日が昇る前の騎士団駐屯地。

 そこでは、多くの機械じかけの巨人騎士が待機している。

 そこに多くの人々が群がり、しばらくした後に巨人、ギガスが立ち上がった。


「リリちゃん。君も行くのかい? どうして戦場に女の子が行かなきゃならないんだ? 戦うのは騎士だけで良いんだよ」


「ありがとう、お兄さん。大丈夫だよ。わたしね、おにーちゃんとずっと一緒に行かなきゃいけないの。そしてね、みーんなを守るの」


 リリがヴィローに搭乗しようとしている時、整備員のお兄さんが心配して声を掛けてくれた。

 だが、リリはいつも通りの笑顔でお兄さんに大丈夫と声を返した。


「ご心配、ありがとうございます、お兄さん。僕、絶対にリリを守って見せます。リリ、シートベルト締めてヘルメットはちゃんと被ってよ」


「うん、おにーちゃん。じゃあ、行ってきますね」


 僕はヴィローを起動、立ち上がらせる。

 追加装甲がガチガチとぶつかり、動きも重い。


【各機能、起動確認。偽装装甲による関節駆動以外は各部問題無し。なお、リリ様の搭乗により魔力ゲイン130%上昇しておりますので、ご注意を、マスター】


 ……やっぱり装甲が動きの邪魔しているなぁ。本気の動きをする時は装甲をパージしよう。しかし、リリが乗るとパワーアップが凄いねぇ。


 今は周囲に人が多くいる為、ヴィローは大きな声を出さない。

 こっそりと僕とリリに聞こえる程度で話してくれる。


「今日は誰も死なせない! いくよ、ヴィロー、リリ」

【御意、マスター!】

「うん、おにーちゃん」


かがり火に照らされて鈍く輝く騎士達の重装甲。

 続々と色とりどりな機械騎士ギガス達が起動し、蒸気を上げながら整列をしていく。

 戦闘開始前の緊張感。

 勇壮な機械騎士が立ち並ぶ高揚感。

 いつもは単独戦闘が多い僕とヴィローだが、こういう集団戦も悪くないと思った。


「おにーちゃん。アルおじちゃんの機体が来たよ」


「あれが伯爵の駆るA級ギガス『バーグマー』か」


【重装甲で防御力に長ける機体ですね。しかしながら脚部に機動スラスターを多く配置し、ホバー移動も可能なので機動戦も可能。電磁騎馬槍プラズマ・ランスを主兵装に使い、攻防に隙が無い良き機体でございます】


 立ち並ぶ騎士団機体の前を優美な歩みで進む「バーグマー」。

 盾を持たず騎馬槍ランスを持つ純白の重装甲機体。

 曲面を描く白磁装甲の上には金色の縁取り彫刻エングルービングが丁寧に成されているが、配色が良く上品な感じに仕上がっている。


 ……伯爵、自らの出陣。騎士団の士気を上げる意味もあるだろうけど、自身が最強の旗機フラグシップを駆る。貴族の責務ノブレス・オブリージュに忠実な伯爵さまらしいね。


 「バーグマー」は集う騎士たちの前に立ち、巨大な槍の石突をガツンと地面に叩きつけた。


「我がラウド騎士団よ! これより我らが領地、領民を守るための戦いに参る。簒奪者さんだつしゃ共に、我らが決意を見せようぞ。皆に武神の加護があらんことを。各員、出陣!」

「おー」


 伯爵の出陣宣言にて、各機が移動を開始する。

 僕も、その中に紛れて戦場になる砂漠に足を進めた。


「おにーちゃん。ここからどうするの?」


「後は共和国の動き次第かな? 一応、向こうから講和勧告をしてくれる段取りだけど……」


【正直なところ、うまくいくはずも無いでしょうね。武力外交として大軍で押しかけてきたとて、侵略側からの不平等勧告など聞き入れられるはずも無し】


 僕は進軍の歩みを一定にしながら、どうすればいいのか悩んだ。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 朝日に照らされた色とりどりの装甲をまとうC級主力ギガス「トネール」が、主戦場になるであろう砂漠に一列で並ぶ。

 それぞれ剣や槍、斧。

 更にはギガス用の大砲や機関銃を装備している。


「伝令! 共和国軍、前方約四キロにおいて進軍を停止しました。また火砲を準備する気配も見られません」


「ふむ。確かにワシの機体の『目』でも、その様に見えるのぉ」


 どうやら「約束」通り、共和国軍から手を出すことはない様だ。

 なら、後はこちらを上手く説得させれば誰も死ぬことはないはず。


「では、こちらから名乗り上げしようぞ! 共和国を名乗る簒奪者さんだつしゃ共! 聞こえるか!? ワシはラウド領主、アルテュール・ファルマン伯爵である!!」


 戦列の最前線に立っていた伯爵機。

 そこから魔法で拡声された大声で名乗りを上げた。


「お前たちは、我が領地を侵略しておる。何の目的で軍勢を送って来たのか!? 返答次第では容赦せぬぞ!」


「名乗り上げ、見事なり。私は共和国派遣軍指揮官、フレデリク・マルチノ大佐である。我々は貴公と会談に参った。我らの話を聞いてくれぬか?」


 共和国側からも拡声器を使って指揮官さんが問いかけを返す。

 ちゃんと僕の話を聞いていたのか、宣戦布告ではなく話し合いに来たと言ってくれてはいる。


 ……それで話を聞いてくれたらいいんだけど?


「いきなり武力で脅して話を聞けとは、無礼者め。どうして簒奪者、盗賊らの話なぞ我らが聞かねばならぬ。やはり愚かもの達だったか。者ども、無礼者を一掃せよ!」


「おー!」


 ……あー、やっぱり交渉決裂しちゃったかぁ。僕が止めなきゃ!


 立ち並ぶ機械騎士たちから上がるタービン音が高くなる。

 それぞれが武器を構え、突撃しようとしていた。


「すいま……」


 騎士達の突撃を制止する為に、僕が声を上げようとした時。


「もー、アルおじちゃんのバカぁぁぁ! なんで、皆戦うのよぉぉ!」


 僕の背後に座るリリから、大声が飛び出した。

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