第15話 迫る共和国。

「おにーちゃん、そろそろだよね。通信出来る距離まで来てくれているかな?」


「うん。多分、今日明日には領境まで来ているから繋がると思うよ」


 宴の翌日。

 僕とリリ、アカネさんはヴィローの格納倉庫まで来て、共和国側との通信に挑戦している。

 戦争を止める為、共和国側と打ち合わせをしなくてはならないからだ。


 ……どうやら伯爵も貴族連合とは縁を切りたいみたいだし、なんとか出来るかも。その前に障害になる秘密結社を倒さないとだけど。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 昨晩、大分酒が回った頃。

 伯爵は、僕に対し随分と愚痴を吐いていた。


 ……護衛の騎士さんたちも愚痴を止めないところを見るに、別に秘密でも無いし、気持ちは伯爵様と一緒なのね、多分。


「ワシだって、あんな外道な奴らとは正直、早く縁を切りたい。だがな、連合よりもアイツらが邪魔をする。実際な、ワシらが持つプラントだけでは、この街の富や民は維持できん。アイツら、結社が送ってくる資材が無くてはどうにもならんのだ!」


「伯爵様。結社とは噂に聞く秘密結社『ラハーシャ』ですか?」


「ああ、そうだ。流石はトシ殿。彼らが送ってくれる魔力炉や制御仮面無くしてはギガスを運用することも出来んのだ。その上、プラントの維持管理も彼ら頼りなのだよ。ちきしょぉ、ワシらだけで生きていけるのなら、とっとと縁切りしたいわい!」


 ……高度な魔法・科学技術を秘密結社が独占しているって話だよね。噂では、この世界に人が『落ちて』きてから、ずっと人類を裏から支配してきたとか。共和国側でも、完全に結社の正体を掴み切れていないけど。


 殆ど水の無い砂漠世界では、プラントの恩恵がなくては人は生きていけない。

 だが、プラントも無限に動くことはできない。

 なんらかのメンテを必要とすると聞いている。


 ……詳細は僕も知らないけれど、結社に命綱を握られていたら裏切るのは難しいよね。


 貴族連合が圧政を繰り返し民を使い減らしても軍勢が維持できているのは、背後に結社の存在があるから。

 既存のプラントをなんとか維持する事しかできないが物量に勝る共和国が、貴族連合に勝てないのも主戦兵器であるギガスの質にある。

 C級以上を多数保有する貴族連合に対し、殆どがD級の共和国ではギガス戦で勝負にならない。


 ……騎士同士の一騎打ち、集団での乱戦。全てギガスが無いと出来ない。ギガスの性能と操る騎士の腕が戦争の勝敗を大きく決めるのは、昔からだね。


 その後もお付きの人に止められるまで、延々と僕とリリ相手に愚痴を吐く伯爵。

 貴族連合や結社に対する思いだけでなく、跡継ぎ問題でも頭を悩ませていたらしい。

 跡継ぎ候補としてメイドに産ませて認知した青年を指名したらしいのだが、めんどくさいと逃げられたとか。

 彼は街中で「信用置ける大事な」仕事を父親の為にしてくれてはいるものの、貴族の狭苦しい生活が嫌だそうだ。


 ……貴族連合や結社に送る上納金を預かる仕事だって言ってたけど、一体誰だろう? でも、リリや僕を跡継ぎにしたいという気持ちの理由は、なんとなく分かったよ。伯爵様は、随分と寂しかったんだね。


「とにかく、リリ。今は共和国と話を付けて攻めてくるのを止めよう」

「そうだよね。戦争はわたし、だーいっきらいなの!」

【私も同意見です。戦いはむなしいですもの】


 僕らは、ヴィローのコクピット内で各種設定を触る。

 ヴィローの横では、アカネさんが指向アンテナを調整中。


「あ、繋がったの! 共和国前線CPコマンドポスト? こちらヴィロー1。聞こえますか?」


”こちら前線CP。V1、感度良好です〟


 どうやら上手く通信が、こちらに進行してきている前線部隊の命令指揮所と繋がった様だ。


 ……魔法による超空間+電波+暗号通信だから、傍受も解読も難しいってヴィローは言ってるけど、僕にはちんぷんかんぷんだよぉ。


「今後の作戦について御相談したいことがありますので、指揮官殿と繋いでくださいませんか?」


〝分かりました〟


 ……後は、僕の説得と動き次第だね。さあ、誰も泣かせないぞ。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「トシ殿。こちらにいらっしゃいましたか。申し訳ありませんが、機体ごと騎士詰所に来て下さいますか?」


「はい、分かりました。今から起動準備をしますので、少々お待ちください」


 通信が繋がった日の夕刻。

 ヴィローのところで整備をしていた僕らの元に、伯爵の伝令が来た。

 急ぎ騎士団の元に来いとの話だが、おそらく共和国の軍勢が領内に進攻してきたからに違いない。


 ……結局、軍勢は止まってくれなかった。僕の言葉だけじゃ、伯爵は貴族連合から離れると信じてもらえなかったんだ。


 ただ伯爵側からの攻撃が無い限り、共和国からは絶対に攻撃をしないという約束は取り付けた。

 話を聞かないなら、僕は全部バラシて伯爵側に付くと脅した効果は最低限あった様だ。


「リリ、今日は一緒に乗ってくれない? 今回は全開運転で『手加減』しなきゃだし。ごめんね、また怖い思いをさせちゃうのに」


「もちろん、一緒だよ。気にしないで、おにーちゃん。わたしも、皆を守りたいもん。それにね、ヴィローとおにーちゃんが一緒なら、無敵だよ」


 僕に飛びつき、満面の笑みを与えてくれるリリ。

 僕は彼女の優しさ、そして強さに感動をした。


 戦場に赴き、自分へと剣を向けられる恐怖。

 その中で殺しに来る相手の命も大事に思い、出来る限り殺さずに倒す。

 そんな戦いを、これまでも。

 そしてこれからも続ける。


 ……それが、『彼』からヴィローチャナとリリを預かった僕の運命だから。それにリリの笑顔を守る為だったら、僕は絶対に負けないよ。


「アカネさん。すいませんが、僕たちの荷物を纏めて脱出準備をお願いします」


「あいよ。アタイはトレーラーでいつでも逃げられる様にしておくね」


 僕は、アカネさんに別行動を頼む。

 彼女には、この先もヴィローを見てもらわなくてはならない。

 安全地帯に避難してもらわないと、この先困ってしまう。


【マスター。暖機運転終了。いつでも発進可能です】


「おにーちゃん。ヴィローのサブシステムの起動も確認したよ。指揮管制は任せてね」


「じゃあ、リリ、ヴィロー行くよ。通常モードで起動。そのまま、歩いて騎士団詰所まで」


 僕たちは戦場へと脚を進めた。

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