第14話 ファルマン伯爵との問答。
「伯爵様、少々お尋ねしたいことがあります」
「なんだ? トシ殿には何でも答えようぞ」
僕はアルテュール・ファルマン伯爵に疑問を尋ねた。
「無礼な事とは思いますが、現在の貴族連合と共和国の戦争について何かお考えがありますのでしょうか? 僕自身、多くの領地を旅しましたが、こちら以外の貴族連合の領地は失礼ながら圧政が行われ、民が酷く苦しんでいました。逆に共和国側では、民自ら政治に参加しています」
「ほう。中々に核をついた質問をしてくるのぉ。流石はトシ殿だ」
僕のかなり
「正直、ワシも他所の貴族共はどうかと思っておる。いくら偉そうにしても貴族だけで社会は回せぬ。かといって共和国の様に政治を行うにも、民は愚かで低い方にすぐに流れてしまう。先日のスラム街での暴動も悲しいかな、その流れよ。討伐も仕方無しだった」
「伯爵様もお気づきでしたか。なれば僕も安堵致します。高貴なる者は民の見本であらねばならぬし、民は民なりに学ばねばなりませんですよね」
伯爵は、ちゃんと今の社会の問題点について気が付いていた。
賢い伯爵なら、もしかしたら僕の提案を聞いてくれるかもしれない。
僕は、今までの経験で得た考えを意見具申してみた。
「伯爵様。もし良ければ僕の意見具申をお聞き願えないでしょうか?」
「うむ。聞いてみようぞ、トシ殿」
……少しでも世界を良い方向に変えよう。このまま、僕はここを去れば上手くいく。共和国にも、ここは放置しておこうと話をしてみよう。
「大事なのは『教育』なのでは無いかと思うのです。貴族は貴族の、民は民としての行うべきことがございます。しかし、それを学ばず既得権のみを追及、またはより弱きものを虐げては社会はより悲惨なものになっていきます」
「ふむ、確かに一理ある。ワシらも貴族や騎士に対しては高貴なるものの心構えは教育しておる。それを民にも行うという事か?」
「はい。街中に教会併設の治療院を見ました。そこに平民への教育を行う学校を併設してはどうでしょうか? 子供たちが登校してきたら、昼の給食を配り費用は無料とします。そうすれば、何処の親も通わせるのに
この街でも、ある程度以上になる年齢の子供たちは労働をしている。
更に幼い
殆どの平民一般家族は夫婦共働きだけでなく、家族全体で労働をしている。
そうしなければ、暮らしていけないからだ。
……でも、これで子供たちが学ぶ機会を失っているのは勿体ないよね。
「その費用はワシが出せばよいという事じゃな。確かに食い扶持ちが一人分浮くし、教育を受ける事で後に単純作業ではなく、より高収入な高度職業に付けるという訳か。その中にはワシの仕事を手伝えるものも生まれると」
「流石は伯爵様。お察しの通りでございます。そうなれば暴動なんてする必要もなくなります。馬鹿な事をするより勉学に励む方が良い生活を出来ますからね。またより社会をよくすることに気が付く子供も増えていくでしょう」
僕自身、傭兵時代に様々な事を「師匠」から教わった。
ギガスの整備・操縦方法、社会の仕組み、数学に科学、物の考え方。
元から読み書きとギガスの事はある程度両親から教わっていたけれど、それ以外は全て師匠のおかげだ。
「ふむ。警備に兵を出して死者を出すよりも好ましいわい。正直、ワシもスラム街の扱いに苦慮しておった。彼らの大半は他所の街を追い出され、ラウドの富のおこぼれを求めて来た者達。死の砂漠に追いだす事も出来ず、かといって治安悪化をするので暴徒を撃たぬわけにもいかぬ」
「そういう事情があられたのですね。スラム街の存在に不思議だったのですが、納得しました」
スラム街の人々と表町の人が雰囲気からして大きく違うとは思っていたが、他の街からの流れ者が済みついていたのなら納得。
彼らの扱いが難しいのも理解できる。
……これ、共和国内でも起きているんじゃないかな? 何処も移民問題は大変。僕も全部を知っている訳でもないし。
「しかし、何処でそこまでの知識や考えを得たのだ、トシ殿? 普通、その若さで得られるものではないぞ?」
「おにーちゃんは凄いんだもん、おじちゃん」
僕の横では、いつのまにか来ていたリリが僕の腕を捕まえて自分の身体に押し付ける。
周囲の女性の興味を持った目が、伯爵と高度な論戦をしている僕に向いているのを察知しての嫉妬&牽制であろう。
……焼きもちは可愛いけど、胸押し付けるのは辞めて欲しいなぁ、リリ。
「僕は、幼い頃に両親と死に別れました。その後、奴隷商に捕まり、とあるギガス傭兵団に戦奴として送られました。幸い、そこにいました『師匠』。女性騎士くずれの人に大事にしてもらい、様々な事を学びました」
……嘘は言っていないよな。両親との死に別れの原因が、貴族の横暴って言っていないだけで。
「そうか。トシ殿が年齢に似合わぬギガス操縦技術、そして高度な知性を持っている理由が分かった気がする。随分と苦労したのだな。ではリリ嬢とは、その傭兵団で出会ったのかな?」
「いえ。残念ながら傭兵団は貴族同士の抗争に巻き込まれ、僕を含めてわずかな者以外は全て亡くなりました。師匠もその際に僕を庇って……。リリとヴィローとは、その後各地を放浪していて、その途上で出会ったんです」
伯爵に話す傭兵団の最後からリリとの出会いにも、嘘はない。
嘘をついて師匠の事を汚したくないから。
「合い分かった。トシ殿の考え、今後の参考にさせてもらおう。今日はトシ殿やリリ嬢とゆっくり話せて良かった。今後も宜しく頼むぞ」
「御意」
僕は内心で泣きながら伯爵に頭を下げた。
◆ ◇ ◆ ◇
「おにーちゃん、やりにくくなっちゃったよね」
「そうだね、リリ。僕、伯爵様の好意を裏切りたくないよ」
宴が終わって宿のベットの中。
一緒に寝たいというリリと同じ
……もちろん抱きしめるとかキス以上は無し。無垢なリリはちゃんと清い身体のままじゃなきゃ、『鍵』の資格を失くしたら大変だもの。辛抱は辛いけどね。
リリの暖かさと甘い匂い、柔らかい肢体を感じながら僕は思い悩む。
どうすれば、誰も彼も泣かせずに終わらせることが出来るのか。
「おにーちゃん、だいじょーぶ。アルおじちゃんなら、話したら分かってくれると思うの」
「そうだったらいいよね」
僕はぎゅっと抱きつくリリの頭を撫でながら、思慮した。
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