第13話 ひとまずの勝利、そして宴。
「投了なさりませんか、ハンスさん。僕はあなたと違って殺し合いは望みませんので」
僕は、脚部を大破したハンス機に対して降伏勧告をする。
今回の戦いはあくまで試合、殺し合いでは無い。
更に必要以上に機体を壊す趣味も無い。
……しかし、どうしてハンスさんは僕を殺しに来るような攻撃をしてきたんだろう? 何処かで恨みでも買ってたかなぁ。園遊会の時は、そんな感じしなかったんだけど。
【グヲォォォ!】
突然、「ローレシア」から咆哮が響く。
その声はハンスのものでも無いし、もちろん観客や僕、ヴィローの声でも無い。
続く咆哮、それは闘技場内をビリビリと振動させるほどの音量。
そして、その声は悲しみと共に激しい怒りを感じさせる。
……。一体、これは誰の声? ヴィローのはずないし??
「イーシュ、黙れ!」
ハンスの叫びで、謎の咆哮がピタリと止まった。
…イーシュ? ローデシアじゃないの? あ、制御仮面のレベルが機体と大きく違うってヴィローが話していたよね。じゃあ、今のが仮面の声か??
「分かった、今は負けを認めよう。だが、トシよ。機体の性能差で勝ったことを忘れるな。次はこうも行かぬぞ」
ハンスは負け惜しみじみた事を呟いた。
「『ローデシア』の投了宣言にて『ヴィロー』の勝利! 優勝はトシ・ドウ殿のものとなりました!」
「わー!」
審判員さんの宣言で僕の優勝が確定した。
「ふぅ。ヴィロー、お疲れさまでした。しかし、ハンスさんの最後の言葉、そして謎の咆哮。気になるよね」
【おそらくはマスターのご想像通りかと。エヴァ嬢の存在も実に気になります。ご依頼どおりリリ姫とエヴァ嬢の顔の認証比較をしてみましたが、90%一致しました。誤差は年齢差と肌、眼や髪の色くらいでしょうか?】
エヴァさんがリリと「同一」の存在であるなら、機体「ローデシア」をコントロールしていた制御仮面が「ヴィロー」と同格の可能性もある。
僕同様、エヴァさんを「誰か」から「預かった」のであれば。
「この事は、リリやアカネ姉さんにも秘密にしておいて」
【御意。事がはっきりしないと憶測では話せないですから。リリ姫に、ご自身の『生まれ』をお話するのもまだ早いですし】
僕は、機体回収用ギガスに持ち上げられて運ばれる「ローデシア」を見る。
「マスター!?」
「道具風情がワレを心配するなど、不必要だ」
機体から降りたハンス、心配して駆け寄るエヴァさんに対し不機嫌そうにして無視する。
二人の関係は、あまりよさそうにも見えなかった。
……あの態度はどういうことなんだろうか? ハンスさん、エヴァさんを大事にしていないなぁ。女の子に対して道具だなんて酷い言い草だよ。
「おにーちゃん。優勝おめでとー!」
「トシ坊、やったね。リリちゃん、走ったら危ないよ」
大きな声で叫びながら闘技場内に走ってくる、リリの姿がモニターに拡大投影される。
アカネさんも苦笑しながらだが、リリの後から走ってきていた。
「とりあえず、今は勝利を楽しもう。ヴィロー」
【そうですね、マスター】
僕はコクピットを降り、飛び込んできたリリをしっかりと抱きしめた。
◆ ◇ ◆ ◇
「今日は若き勇者が我らの仲間になった日。盛大に祝おうではないか!」
決勝戦の翌日。
僕、リリ、そしてアカネさんはアルテュール・ファルマン伯爵に呼ばれ、宴に参加している。
……ハンスさんはエヴァさんを連れて、とっとと街から離れたみたい。彼の正体は気になるんだけど?
「ありがとうございます、皆様。僕、いえ、
……ああ、複雑な心境だよぉ。僕、こんなに喜んでいる人たちと戦いたくないんだ。
借りものの騎士服に身を包む僕を、ラウド騎士団の皆が囲ってくれている。
中には僕が準々決勝で倒してしまい、筆頭騎士団から降ろされてしまったコザンさんもいる。
「申し訳ありません、コザン様。貴方の座を奪うような事をしてしまい……」
「ははは! なに、気にすることは無いぞ、坊主。いや、トシ殿。貴公は俺と正々堂々と戦い勝った。そしてその後も騎士として正しく戦い、優勝した。ならば、それで良い」
ドンドンと僕の背を叩きながら喜ぶコザンさん。
試合中とはあまりのギャップに、僕は彼の言葉にうなづくことしかできない。
「実際、強い者が味方になるのを喜ばない者はいないさ。それに俺も第二小隊の隊長を伯爵様から仰せつかった。これからは同輩だぞ!」
……ああ、辛い。どうして、ここの人達は良い人ばかりなんだぁ。
知らなければ、殺しても何も思わない。
しかし、人として見てしまった、知り合ってしまった。
その上、その人の笑顔を見てしまえば、もう殺せない。
殺したくない。
「あ、ありがとうございます、コザン様」
僕は内心の動揺を見せないよう、必死に笑顔を取り繕った。
向こうでは、伯爵とにこやかに会話をしているリリがいる。
「そうなのですか? それは面白いお話ですの、伯爵様」
「しかし、リリ嬢は美しいですな。あ、別にワシはトシ殿からリリ嬢を奪う気は無いから安心すると良い。記念に今日のドレスを進呈しよう。お気に入りと言っていたからな。そこの美人な整備士さんにも同じく贈ろう」
「ありがとう存じます、伯爵様。わたくしの様な整備士など下々まで、お気を使われなくてもですわ」
お付きのアカネさんも真紅のドレスを纏う姿は、普段とは全く違う。
伯爵に、貴婦人っぽく礼を返している。
「ありがとー、アルおじちゃん! あ、すいません。伯爵様」
「いやいや。リリちゃんに『アルおじちゃん』って呼ばれるのは嬉しいぞ。ワシも、子を妻と共に亡くして二十数年。未だ、孫の顔も見れぬまま。だから、リリちゃんの笑顔は実に嬉しいのだよ」
ドレスを進呈してもらったのが、嬉しかったのか。
リリは普段の調子で、伯爵の手を握って満面の笑みを返してしまう。
おじちゃんと呼ばれても気を悪くするどころか、好々爺の笑みを返す伯爵。
……事前情報でも伯爵は、出産時の事故で恋愛結婚だったお后様とお子様を亡くしてからは後妻を
ますます伯爵を憎むことが出来なくなった僕。
以前、僕が捕縛したアンリ・オスマン子爵は、こことか比べ物にならない程の悪政を行い民を苦しめていた。
また、アンリに従う騎士も領民を笑いながら踏みつぶしていた。
……だからこそ、敵として躊躇なく討ち取れた。けれど……。
「トシ殿がおれば、共和国軍なぞ怖くない! 我が領土、我が民を俺達で守り抜くんだ!」
「おー!」
僕の周囲で、わいわい話す騎士達。
彼らは皆、騎士としても立派な上、領民を守る事にプライドを持っている。
……あーあ、嫌だ。絶対に彼らを殺したくないよ。どうしたら、上手く誰も傷つけないように出来るんだろうか? 共和国の方も立派な人が多いし、どっちの味方も出来ないや、僕。
「トシ殿、楽しんでおられるかな? リリ嬢は実に可愛いのぉ。ワシ、彼女を養女にしたいくらいだよ。もちろん、トシ殿も娘婿としてワシの一族に入ると良い」
リリとアカネさんが女性たちに囲まれたのを見て、僕の方に歩み寄ってくれた伯爵。
冗談半分なのか、リリと僕を一族に加えたいと
僕は、内心の動揺を誤魔化す事が出来ず、思う事を伯爵に尋ねてみた。
「伯爵様、少々お尋ねしたいことがあります」
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