第12話 死闘! ローレシア戦。
各部から蒸気と余剰マナを吹き出して突撃するヴィロー。
巨大な鉄の固まり、両手持ちメイスを前に掲げて敵ギガスに突撃をする。
「うぉぉぉ!」
僕も咆哮を上げながらヴィローを駆る。
「……!」
しかし、僕の放つ初撃を敵D級ギガス「ローレシア」は両腕を闘技場床石にドンと叩きつけ、反動で後方へと高くジャンプして回避した。
「へぇ。人間じゃできない動きをするんだ」
【マスター。機動が人型の物ではない為、動きが読めません。ご注意を】
僕は迂闊に踏み込まず、いつでもメイスを叩きつけられるように右肩口に構える。
そして回り込むように歩きながら、徐々に距離を詰めた。
「……この程度か? 残念だ」
ぼそりと低い声が敵機体から聞こえる。
そして次の瞬間、ドンという衝撃音が闘技場内に響く。
僕、いや、正確にはヴィローの視覚から敵機が消えた。
「消えた!? 何処?」
【真上です!】
僕はヴィローの声を聴いた直後、視線を上には向けずに機体を地面へと転がる様に動かした。
「今のを避けるか。なら、まだ遊べそうだ」
ヴィローが避けた跡、そこの石床には敵ギガスの巨大な拳が突き刺さり、大きな
……おい! 今のは完全に殺す攻撃だぞ!? あんなのを喰らったら頭部だけじゃなく、コクピットも潰されちゃう。
【そんな馬鹿な!? 瞬間魔力値が、D級はおろかA級を超えていました。どうやって、そんな事を】
「手品の種が絶対にあるはず。ヴィロー、なんとかして調べて」
僕は視線を敵から外さず、ゆっくりと機体を起こす。
ヴィローは、敵ギガスの動きや出力増大が信じられないらしい。
僕にとっても、今まで倒してきたA級のどんな機体よりも面前のギガスが怖い。
最初から殺す気の攻撃、それも想定外の攻撃。
「あ、遊ぶとは一体何を言っているんですか?」
「そんなの言葉通りだ。今までオマエがやってきたようにな!」
僕の呟きをマイクが拾う。
そんな小さな声にも反応し、ハンスさんが吐き捨てる様に言葉を放った。
「な、なんで……?」
僕が思わず叫んでしまうが、その時。
再び、敵機体が再び視界から消えた。
「ちぃぃ!」
【マスター!】
ザワっと背筋に悪寒が走る。
僕はヴィローの指示を待たずに、カンと悪寒に任せて前方向に全力ダッシュした。
「ほう。反応が思ったより早い。機体性能だけで勝って来たかと思えば……。簡単に殺せないなら、遊ばせてもらおうか」
振り返ると、地面を拳で
そこは、先程までヴィローが立っていた場所。
「ローレシア」の顔面、不気味な鬼の面の下。
そこから、ゆらりと漂う青い光が二つ見える。
……鬼面の下に本当の制御仮面がある? やはり、只のD級じゃないんだ! それに僕を殺す気満々なんて?
「さて、何処まで凌げるか?」
「くぅ」
再び、「ローレシア」が視界から消える。
僕は必死にヴィローを地面に転がしながら回避。
「まだまだか。では!」
「あ、危ない!」
またまた死角からの攻撃。
やけっぱちになり、僕は死角じゃない方向にダッシュ。
今度も、ぎりぎり攻撃を回避できた。
「ここまで避けるか。やはり機体性能が今までの雑魚とは違うな」
「ほ、褒めても何も出ないよ」
僕は息を切らしながらも、ローレシアから目を離さない。
一瞬でも油断したら、頭部どころかコクピットごと。
巨大な拳で叩き潰されるに違いない。
【マスター、分かりました。敵は特別な方法で瞬間的に出力を上げて行動をしている模様。主機の出力性能から推定しますに、魔力キャパシタに一旦ため込んだものを一挙放出していると予想されます。なので、いくら制御仮面がA級以上の高性能品でも連続の高速機動は無理なはずです】
そんな時、ヴィローが敵の種明かしをしてくれた。
……道理で毎回、攻撃前に動きがしばらく止まっているんだ。だったら!
「分かったよ、ヴィロー。じゃあ、こっちはモードを『
……ヴィローだって一戦闘毎に関節部軟骨パーツを交換しているんだ。だったら、骨格フレームに強度余裕が少ないD級なら、もっと早く限界が来るはず。
先程まで聞こえない速度で回っていたヴィローのタービンが遅くなり、音が聞こえだす。
また機体からあふれる余剰魔力の光や冷却用水蒸気の量が減ったのがモニター越しに見えた。
短い脚にくらべて長い両腕の拳を床に付け、
「出力を落とすとは正気か? 最高出力でも避けるのがやっとなのに、動きを自ら遅くするとは愚かなり。そんなに殺して欲しいか?」
僕らの様子を見て挑発するような言葉をぶつけてくる。
【こちらの作戦をどうぞ、マスター】
なので、僕もヴィローの提案してきた「ワナ」を仕掛けた。
「そっちの口車には乗らないよ。だって、いつも真正面からは攻撃してこない卑怯者なんだからね。試合見てたら、毎回死角からの攻撃しかやってこない。余程、真っ向勝負に自信が無いんだろう。根性無しの卑怯者相手なら、こっちが不調でも負ける気はしないよ」
……コレに乗ってくれるかな? 向こうも長期戦はしたくないだろうし、今の台詞でこっちの調子が悪くて遅くなったと思い込むだろうからね。
「言わせておけば! ガキが死ねぇ」
……やった! ワナに掛ったぞ
僕の言葉が図星だったのか、両腕で地面を叩いた反動で真正面から突進してくる「ローレシア」。
しかし、真正面から来てくれるのなら対応は楽。
「今だ!」
【御意】
ギリギリまで引き付けて、僕はヴィローに指示を飛ばす。
僕のスティック&ペダル操作に対し、即時に反応してくれたヴィロー。
脚力だけでなく腰や肩、脚部のスラスターまで総動員して、一気に左前方向にステップダッシュした。
気絶しそうな横Gの中、僕は「ローレシア」が突っ込んでくる場所。
機体の右側に大型メイスを置いておいた。
「ぐおぉ!」
メイスを持つヴィローの両腕に強い衝撃が伝わる。
そしてガキン、ドカンという大きな音がした。
僕は、音がした方を振り返った。
「ぐ……。オマエ、図ったな!?」
「ええ、狙ってましたよ。案外と沸点が低いようで」
視線の先、右足が半分ひしゃげた「ローレシア」が舞台の上で転がっていた。
【予想通りでしたね、マスター。やはり、高速移動中には方向を変える事が出来ないご様子】
おそらく移動先を事前に設定し、ため込んでいたマナを四肢の駆動フレームに注ぎ込むことで高速移動を可能にしているのだろう。
そうすることで制御負荷を下げていたに違いない。
……他の試合でも動き回って、死角からの攻撃を繰り返していたからね。今回も最後以外の攻撃が死角からの重い一撃。自覚がある事を指摘されたから怒った訳か。
【制御仮面のレベルは高いようですが、機体スペックが全く追いついていません。なので、奇襲攻撃で勝負をつけてきたのでしょう。しかし! 私とマスターの絆の前では敵では無いのです。えっへん】
ヴィローは自分の提案した作戦が大当たりしたので、大喜びし偉そうにしゃべる。
「さて、その足ではもう高速移動は無理ですよね。投了なさりますか、ハンスさん。僕は、貴方と違って殺し合いは望みませんので」
僕はメイスを肩に担ぎ上げ、敵に降伏勧告をした。
……どうして僕を殺しに来たんだろう? 正体がバレた訳でも無いし?
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