第11話 武闘大会決勝戦、いよいよ始まる。

「お集りの皆さま。いよいよ第40回、ラウド機神武闘大会。決勝戦が開始されます。それでは主催者、アルテュール・ファルマン伯爵様より一言お言葉をお願い致します」


 今日は決勝戦。

 既に闘技場には僕の駆る『ヴィロー』、そしてハンスさんの操る『ローレシア』がお互いギガス五歩分ほど舞台中央から離れて立っている。


 ……なんか見てたら黒い『ゴリラ』って感じだよね。まあ、僕もヴィローの映像とか本でしかゴリラを見た事無いけど。何処に住んでいる動物だったんだろうね? オデッセアには沢山木々が生えた場所なんて、何処にも無いのに?? 人類が生まれた場所らしいけど、そこは何処?


「おにーちゃん、やっちゃえー!」

「トシ坊。旦那の力を見せつけてやりな」


 観客席で手を降りながら叫ぶリリ。

 横に座るアカネさんも、今日は大きな声で声援してくれる。


 ……今日は、上空に偵察ドローンを展開済み。周囲の声もちゃんと拾ってくれるんだ。


「ここに集まりし民の皆々。我らは共和国を名乗る野盗の群れから絶えず侵略を受けておる。彼らは非道に民を殺し、プラントを我が物にしようとしておる。だが、ワシや我らにはギガスという力、民を守る剣がある! この場に立ちし二人の若者。どちらも優秀なギガス乗りである。彼らの力も借り、我らが領地と民を簒奪者さんだつじゃから守ろうではないか! それでは勇者の戦いを見守ろうぞ」


「おー!」

「わー」

「伯爵様、バンザイ!」


 伯爵の声が拡声魔法で闘技場内に大きく響く。

 観客席いっぱいの観衆は、伯爵の呼びかけに声援で答えた。


【好き勝手言ってくれますね、伯爵様は。貴方たち貴族連合が民を弾圧をしなければ、我々も派遣されずに済みましたのに】


「こういうのは立場が違えば変わるんだよ、ヴィロー。伯爵には伯爵なりの、そしてこの街の普通な人々にも彼らなりの『正義』はあるんだ」


 貴族連合の側からすれば、共和国は敵。

 自分達の持つ領地や民、プラント、既得権を奪いにくる簒奪者。

 それらから自らの領地や民を守るのが、彼らの「正義」である。

 そして、その考えは領主のみではなく支配・保護されている民も同じ。


 ……それでも虐げられて泣く人々がいるのなら、今の悲劇を少しでも正す必要はあるんだ。領主が少しでも人々を救う努力をしてくれる人だったら、僕は逆に助けたいよ。


 ここ、ラウドの街でも上流階層。

 闘技場の観客席に今座っている様な、表の街に住む人々は良い暮らしをしている。

 その犠牲になっているのがスラム街の貧しい人々。

 先日も数少ない水や食料を奪い合い、暴動を起こして無関係な店舗を破壊。

 領主軍によって制圧されていた。


 行政側が暴動を制圧すること事態、伯爵側の行為に誤りはない。

 より大きな暴動になれば、僕らが助けた親子の様な更に罪のない人々が巻き込まれてしまうから。

 ただ鎮圧にギガスまで使った為に、怪我人どころか死者まで多く出てしまったのが問題なだけだ。


 ……いくら困っていても暴動を起こして無関係な店舗を襲って奪うのは、どんな状況でも間違っているよ。デモして領主に直接文句を訴えるのなら納得するけど。同じ民衆、弱者同士で傷つけあってどうするんだ!


「悲しいなぁ。人同士が傷つけあうのって……。弱者同士でも更に弱いものをイジメていくんだから。それに伯爵は、聞いていたほど悪人じゃなかった。ちゃんと民を守りたいって言ってくれた。誰もが、やり方を間違えている。僕も『ヴィロー』という力で違う『正義』を押しつけるんだ……」


 僕は悲しみの連鎖に悲しくなり、ヘルメットの中で涙をこぼしてしまう。

 僕自身も、間違った『正義』を振り回している事に気が付いたから。


【マスター。人の世に問題が何処にでもあるのは、しょうがないかと。後は、皆がそれをどう正していくのか。最初の一歩が大事です。我々は、その切っ掛けになれば良いですね。何、私も協力しますので、少しでも多くの人々を救いましょう】


「ヴィロー。慰めてくれてありがとう。僕、頑張るよ」


 僕はヘルメットのバイザーを上げ、涙をぬぐった。


「そうだ。僕はリリと一緒に幸せをみんなに広げよう。だから、今は戦う!」


 僕は、ぎゅっと操縦スティックを握る手に力を込めた。

 ヴィローの力で、少しでも誰かの涙を止める為に。


 ……うふふ。僕、リリの事をもう天然娘とかアホ天使様って馬鹿に出来ないや。


 まだ審判員の人からの前説が続いている。

 その間に、僕はドローンやヴィロー自身の『眼』から入る情報から敵ギガスの事を少しでも探る。


 ……戦う前なのに、妙に冷たい感じがする。操縦士の殺気は、まるで淡々と敵を殺す事しか考えていないような? それに仮面というか機体からも何か感じるぞ?


「ヴィロー、嫌な予感しかしない。今回は守りから入らずに、一気に勝負賭けよう」


【ですね、マスター。私のカンですが、機体自体は主機含めて最近組まれたモノですが、制御仮面は古強者ふるつわものと思われます。D級と考えず、一気に倒してしまいましょう】


 機械がカンを言い出すのは不思議だが、僕も同じ意見だ。

 目の前の敵は、絶対見た目以上に強い。

 こちらの手の内が読まれる前に無力化すべき。


「それでは、お二人とも宜しいでしょうか? では、決勝戦開始!」


「ヴィロー。今日は一気に「ナヴァグハ最大出力」モードまで上げるぞ。行けぇ!」

【御意、マスター。殲滅モードへ移行】


 審判員さんの試合開始合図と共に、僕はヴィローのスロットルを全開に回す。

 タービン音が大きく高くなっていくが、ある域超音波から聞こえなくなる。

 偽装装甲の隙間から金色のマナの光を吹き出し、ヴィローは構え持った両手持ちメイスを前にして敵ギガスへ突進していった。

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