第9話 リリと一緒、夜の園遊会!

「今宵は、この宴にて勇者二人を招いた。彼らが、いずれ我ら貴族連合の剣として、愚かな共和国とやらな烏合の衆を討ち果たす事であろう!」


 準決勝二試合が行われた翌日の夜。

 決勝に勝ち上がった僕、そしてもう一人の男が呼ばれた園遊会が領主主催で行われている。


 ……準決勝、僕は戦うまでも無く勝ってしまったんだ。D級ギガス『ブルホーン』を駆るチームは、僕と筆頭騎士の試合見て棄権しちゃったよ。


 対戦相手が試合前に逃げるのも、十分にあること。

 ことギガスを動かしたり、修理するのには多くの人員と資金・資材を必要とする。

 一試合ごとに少々の報奨金は出るが、ボロボロになった機体を治せるほどのお金にはならない。

 区切りの良いところで棄権をし、被害を小さくするのもギガス運用チームとしては、まっとうな考え方だ。


 ……戦わずして勝ったのは、僕としても楽で嬉しかったけどね。ヴィローは、戦いたかったと文句言ってたけど。


 領主主催の園遊会に呼ばれた僕。

 こういうパーティには女性パートナーを同伴するのが通例なので、僕はリリにお供をお願いした。


「では、リリ姫。わたくしめのお手をどうぞ」

「はい。お兄様」


 僕は、着飾ったリリをエスコートして豪華な調度品に飾られた宴会会場に入る。


「うわぁ。綺麗なシャンデリアなの!」


 リリが見上げて天井にある豪勢そうなシャンデリアを綺麗と褒めるが、僕にとってはリリの方が何倍も綺麗だ。


「ねえ、お兄様。わたくし、こんな綺麗なの見るのは初めてですわ!」


「領主様、美術関係の趣味だけは良いみたいですね。変に金ぴか趣味じゃ無くていいですし。借りた衣装も素敵です」


「ええ。わたくし、このドレス気にいりましたの。お兄様、今度同じものを買ってくださいませ」


 ひらりとドレスの裾を躍らせるリリ。

 貴族相手用に習ったカテーシーを気品高く行い、言葉使いも姫様っぽく高貴。

 普段よりも更に眩しすぎて、僕の目に入れるのはもったいないくらいだ。


 リリ、目立つ長耳とプラチナブロンドの髪はアカネさんに準備してもらっていた薄茶色の長いウイッグの中。

 その編み上げたウイッグは、後頭部で白銀のバレッタで纏められている。

 目元の少しアイメイクにより、いつもの瑠璃色の瞳が更にパッチリと輝いて見える。

 肌色に合ったファンデーションとパウダーを塗った上で、頬には淡いチークが入り、透明感があり瑞々しい肌を演出している。

 可愛い唇にはパールピンクの口紅、ぷっくりプルプルで視線が思わず引き付けられてしまう。


 リリ、普段は乾燥防止に化粧水や保湿クリームくらいしか使っていないみたい。

 しかし、今日はアカネさんが本気モードで、リリにお化粧をしてくれている。

 なので、普段以上の美少女っぷりが周囲の目を引く。


 ……アカネさん。塗装も上手いけど化粧も上手いんだよね。自分は普段化粧しないけど、リリのおめかしをする時はいつも本気モード。可愛い子を更に可愛くするのが趣味って言ってたっけ?


 また、領主から借りた美しいパーティ用なローブデコルテが、これまたリリの可憐さに拍車をかけている。

 淡いピンク色のドレスを纏ったリリ、月夜に舞う花の妖精にも見えた。

 夜用ドレスらしく鎖骨付近のデコルテや肩から脇回り付近の肌が少々見えるも、まだ幼さが抜けないリリからは色っぽさよりは可憐さを感じる。


「おとぎ話の中の妖精さんみたいですわ」

「あれほどの美姫は、貴族の中でも見たことが無いぞ?」


 来賓客の注目は、全てリリに向けられる。

 至って普通な童顔の僕と超絶美少女なリリでは、はっきりいって釣り合いは取れない。

 僕も借りものながら、豪華な騎士服をまとってはいる。

 だが完全に衣装に着られている状態で、美しくドレスを着こなしているリリとは大違いだ。


 ……僕、もっと立派になってリリの添え物にならないようにならなきゃ!


「では、ご紹介いたしましょう。こちら、強豪ギガス『ヴィロー』を駆るまだ幼き騎士、トシ・ドゥ。横に控えし可憐な姫はリリ嬢です」


 演台にまで案内された僕とリリ。

 領主アルテュール・ファルマン伯爵が自ら僕らを紹介してくれた。

 お抱え騎士を撃破された際には、ヴィローの事を怒りの目で見ていた彼。

 しかし、今は笑みを浮かべつつも、僕を自陣に引き入れようと少々下心の垣間見える表情だ。


 ……筆頭騎士や主力機を撃破されたら普通は怒るのだろうけど、それだけ強い相手なら味方に引き入れる程の度量はあるんだね。流石は貴族連合の金庫番。計算高いよ。


「そして、黒きギガス『ローレシア』の若き黒騎士。ハンス・ナーメンローゼ。パートナーはエヴァ嬢」


 領主を挟んで、僕の横に並ぶ青年。

 僕よりは少々年上の印象がある黒髪、黒い眼。

 どこか鋭い刃物のような印象を感じる冷たい美形だ。


 そして彼の横に立つは、青きローブデコルテを纏う美しい姫。


 濃い金色の豊かで長い髪を纏め、高く結い上げている。

 ムラの無い小麦色でなめらかそうな健康的な肌。

 まるで満月のような金色の瞳、そして淡いピンクの唇。

 リリよりもメリハリがあって、くびれが大きい美しい肢体。

 リリのドレスよりも大きく開くデコルテには、大きな双丘の谷間も見える。


 ……リリよりも少し年上かな? でも金髪に褐色肌は珍しいね。何処かで顔を見た気もするけど、綺麗な子だなぁ。胸はリリよりも間違いなく大きそう。


 僕の視線がエヴァさんの胸元に思わず向いてしまった時、足先から痛みが頭まで飛び込んでくる。

 視線を足元に向けると、僕の靴にリリのヒールが突き刺さっていた。

 リリの顔を見ると、せっかくのお化粧が台無しになるくらいのふくれっ面。


「おにーちゃんのエッチ!」

「ご、ごめん、リリ」


 僕は咳ばらいをしつつ、視線をリリに固定する。

 普段見せない嫉妬。

 リリの焼きもちが見れただけでも、今回のミッションに参加した事に価値があった。

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