第6話 僕のワガママ、お節介。
【では、私は先に帰ってきます。残る試合は飛ばしているドローンで見ておきますので、マスターとリリ様はごゆっくり】
……ヴィロー、不可視になる飛行偵察ドローンを二個持っているんだよね。おかげでいつも敵の偵察が楽になるよ。
「二人、いや三人とも、ここで待ってな。アタイがヴィローの旦那を倉庫に送ってから、迎えに来るよ」
アカネさんの運転するトレーラーに乗ったヴィロー。
僕、リリ、ハリーくんは、ヴィローが闘技場を去るのを見送った。
◆ ◇ ◆ ◇
「じゃあ、賭け金を取りに行こうか、ハリーくん。君一人じゃ不用心だから一緒にね」
「うん」
僕とリリ、ハリーくんは一緒に準々決勝の最後、第四試合を見た後。
迎えに来たアカネさんの運転する魔力自動車で賭博商に向かった。
「おお、昨日のガキか。凄い事になったな。最終オッズは十二倍まで行ったぞ」
妙に機嫌の良い店員の兄ちゃん。
僕の顔を見て、にんまりしてくれた。
「ありがとうございます。では、払い戻しをお願いします。入金は半分を僕の口座に入金を。残り半分は一旦現金インゴットで」
僕はお金の半分を個人ID紐付き口座に入れてもらい、残りを現金にした。
……少し重いけど、ハリーくんに渡したりする現金も必要だしね。
「また、来てくれよな。ヴィローの操縦士さん。掌のタコ見たら操縦士だってのはすぐに分かった。俺も、妙に自信ありげなお前が気になって調べたのさ。そして、
「あれ、店員さんが仕事中に賭け事しちゃっていいんですか?」
「ここは俺が仕切っている店。オヤジ、いや領主様からの公認だから、俺がやりたいようにやるだけさ、坊主。はっはは!」
どうやら店員ではなく、賭博商の店長だったらしい兄ちゃん。
タダ者では無かったらしく、僕がヴィローの操縦士だったのも見抜かれていた。
……すっかりバレバレかぁ。まあ、共和国の
どうやらお兄さん、個人的に僕に賭けてくれていたそうで、懐が暖かくなって嬉しい様だ。
アカネさんも掛け金を払い戻ししてもらい、賭博商を皆で去った。
「じゃあ、ハリーくんの家に行こうか。で、聞きたいんだけど、お母さんの薬は何処で貰うの? 病院のお医者さんに聞かなきゃ、今のお母さんに合う薬が分からないよね?」
「えっと、前は街中の教会付属な治療院に通ってたんです。でも、母さんが歩きにくくなって、それからは通ってないんだ……」
悲しそうに母親の病状悪化を話すハリーくん。
治療院に最近行けなかった理由は、お金だけでなく母親を治療院まで連れていく移動手段が無かったのもあった様だ。
「じゃあ、ちょうどいいから、アタイの車で坊やのお母さんを治療院まで送ろう」
「ですね、お願いします。アカネさん」
「アカネおねーちゃん、さっすがー」
「皆さん、ありがとぉ。どうして僕の為に、こんなに助けてくれるのですか?」
ハリーくんは、不思議そうな顔で僕らを見上げる。
何のゆかりの無い僕らが、彼を助けるのが理解できないのだろう。
「トシおにーちゃんはね、底抜けのお人好しなの。それにね、正義のミカタ。ヒーローはね、泣いている子供をほっておけないの!」
「おいおい、リリ。僕は決してヒーローのつもりはないよ。だって、この街の人全部を救う力は、まだ僕には無いからね。ただ、せめて見える範囲、手が届く範囲は助けたい。そう思うだけさ」
「まったくアンタら
僕は、決して優しく立派な人間ではない。
復讐の炎に駆られ、幾人もこの手で殺してきた。
命乞いする貴族を踏みつぶした事もある。
そして悪徳貴族への怒りのあまり、無辜な人達ごと街を焼きそうになった事すらもある。
「大丈夫だよ、アカネおねーちゃん。トシおにーちゃんは、わたしのだーい好きなお兄ちゃんだもん」
しかし、僕はリリに救われた。
無邪気で愛らしくて、優しいリリ。
両親の仇討ちに明け暮れていた僕の心を救ってくれた存在だ。
……ああ、僕は二度とリリを泣かせない。そして、僕と同じ様な悲劇を絶対に阻止してやるんだ!
「あ。ありがとう。お兄さん、お姉さんたち。僕、僕、絶対に皆の事忘れないよ!」
「別に僕らへ恩返しはしなくても良いよ、ハリーくん。今度は君が誰かを助ければ良いからね」
僕は、また泣き出した少年の涙をそっと拭った。
◆ ◇ ◆ ◇
驚いて好意を固辞するハリーくんの母親を僕らは
「この度は、わたしや息子の為にご尽力いただき、なんと申したらいいのやら。感謝に堪えませんし、どの様に貴方がたに恩義をお返ししたらと……」
「いえいえ、お母様。これは、ただのお節介でワガママ。気まぐれとでも思っておいてください。僕自身がやりたかっただけですから」
僕は恐縮しっぱなしのお母様に、僕のワガママ、好意の押し付けでやっていると話しかけた。
実際、これは一時的なお節介でしかない。
この先、彼らの人生を全て面倒見ることなど、僕には不可能なのだから。
ただ、明るい未来につながる一歩になってくれればとも思う。
「母さん、このお兄さん達。本当に良い人なんだ。僕ね、こんな立派な人、みんなを助けるヒーローになりたいや」
「そうね、ハリー。貴方ならいつか成れるわ、きっと」
……それでも、一人でも今後の人生を照らす灯りになれるならワガママでも本望かな。ただ、僕はそんなに立派じゃないぞ。
僕は、お母様に頭を撫でられているキラキラとした眼のハリーくんを見、彼が今後人々を助けられる存在になれたら良いなと思った。
「皆様、本当にありがとうございます。この御恩、本当に一生忘れません」
「だから、覚えておかなくて良いんですって。恥ずかしいなぁ」
脚を引きずり、手も庇いながら歩くハリーくんのお母様。
三十代そこそことまだ若いのに、かなり状態が良くないみたいだ。
指先が変な形で固まっているのも、気になる。
治療院の玄関で話し合っていた僕ら、何気なく治療院の扉を開いた。
そして広がる惨状に戦慄した。
「こ、これは一体!」
「先生! この人、バイタルが取れません!」
「先生、こちらの患者さん。出血が止まらないのぉ!」
治療院の待合室、そこは野戦病院の様相をしている。
ソファーは簡易ベットに。
床にもマットや厚手の布を敷き、そこには血に染まった包帯を巻かれた人達が多数寝転がる。
中には包帯も足らないのか、下着の切れ端らしき布で傷を抑える者も多い。
部屋の空気も血と膿の匂いで充満していた。
「ま、待ってくれ。私一人では手が足らない。あ、申し訳ありません。現在、新たな患者をお受け入れは出来ないんです。見ての通り、今は昨日スラム街で発生した災害の怪我人対応で精一杯なので」
医務官らしき男性が女性看護師さん達の間を飛び交いながら、投薬したり、治癒魔法を使ったりで治療をしている。
彼は僕らを見て、命に関わる急病では無いと判断。
受け入れが無理と申し訳なさそうに話した。
「おにーちゃん。わたし、こんなの見ていられない。昨日は我慢してたけど、もうイヤ! ごめんね、治癒魔法使うの!」
「ちょ、リリ! ちょっと待って」
僕が止めようとしたが間に合わず、リリは呪文詠唱を始めた。
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