第5話 敵騎士との戦い。ヴィロー、格の違いを見せつける!
「うぉぉぉ!」
怒声を上げながら突っ込んでくる真紅の敵ギガス「トネール」。
ヴィローの全天モニターやヘルメットの
……確かにマナ総量は大したことは無いし、C級量産型だから剣と盾だけ警戒していたら良いとは思う。それでも油断は大敵! 一応、操縦士は筆頭騎士らしいからね。
僕はヴィローを斜め後方へ大きくステップバックさせ、強烈な初撃をなん無く
ヴィローを狙っていた敵の片手剣は、ヴィローの
【
「そう言ってやるなよ、ヴィロー。C級量産機じゃ主機の出力不足で機体装甲をそこまで分厚くできないんだ。だから、仕方なく盾が大型化しちゃうんだよ」
僕は、避けた敵の斬撃で砕かれる石畳からの破片をマントで弾きながら、ヴィローを軽やかに扱い敵の攻撃を
時々は、両手持ちの大型メイスで敵の振るう剣先をガチンと弾いてやる。
「おにーちゃん、がんばれー!」
ヴィローの聴覚センサーに、リリの声が飛び込む。
サブモニターにはリリ、昨日会った少年ハリー、そしてアカネさんが一緒に関係者席に並んで座っているのが映った。
【リリ姫が応援してくださるのですから、恥ずかしい勝ち方は出来ませんね。マスター】
「そうだね、ヴィロー。じゃあ、そろそろ本気で攻め始めるよ」
【御意!】
敵騎士の攻撃を数分間いなし続けた僕。
おかげで敵の攻撃パターンがヴィローにより解析され、もはや手の内はバレバレ。
足先、腕先の動きから、どんな攻撃を繰り出してくるかまで全部お見通しだ。
更に、敵機体は最初からエンジン全開で動かしていたので、関節部が赤熱化しており、数か所からパチパチと火花が出ている。
またオーバーヒート状態を強制冷却させるため、各部から冷却水が沸騰して蒸気が吹き出していた。
……C級じゃ冷却能力にも限界あるしね。
「では、えい!」
僕は敵の振り下ろしてきた片手剣に対し、大型メイスを横からドカンとぶち当てた。
すると、指関節が既に限界だった敵機体の手から片手剣が吹き飛び、闘技場武闘台の端、石床にグッサリ突き刺さった。
「このまま一気に決めるよ!」
【御意!】
後は、必死に機体を守ろうとして前に突きだされる大型の騎士盾に対し、僕は容赦なくドカドカと大型メイスを叩きつけた。
両手持ちの大型メイスからの重い一撃を、片手持ちの盾でいつまでも凌げるはずも無い。
更に片手剣を失ってからの重量バランス急激変化に、敵ギガスの制御中枢は姿勢制御が追いつかないらしい。
敵機体の足元は、フラフラとおぼつかない。
しばらく撃ち込んで入れば、ガキャンと高い音を立てて盾が敵機の手から吹き飛んだ。
後は何もできず、尻もちを打って後ずさりする敵ギガス。
領主お抱えの優勝候補、騎士団の筆頭騎士が何もできないまま敗北寸前。
僕ら以外は誰も予想外の圧倒的な試合に、観客からは言葉も出ないらしい。
ギカスの放つ作動音以外、闘技場から音が消えた。
「コザン卿。騎士道精神に乗っ取り、貴方に降伏勧告を致します。ギブアップなさりますか?」
静かな闘技場の中。
僕は、大型メイスを腰を抜かした敵機体の顔目掛けて突きつけ、外部向けスピーカーで問いかけた。
このまま、敵の機体頭部を破壊して勝利するのは簡単。
だが、雇い主の領主共々、民衆を弾圧する支配者側のプライドを叩き潰すため。
そして正々堂々と戦い勝ったと観客に証明するために、僕は降伏勧告をした。
「ち、ちきしょぉぉ! お、俺を馬鹿にするなぁ。俺は筆頭騎士なんだぞぉ!」
破れかぶれなのか、敵ギガスは尻もち状態からジャックナイフ機動で飛び起きる。
そして、ブンと壊れかけた右拳をヴィローの顔に向かってぶつけてきた。
そんな悪あがき自身は、僕も嫌いではない。
戦う中で、泥や恥辱にまみれてでも愛する者の為に必死に戦う姿は好きだ。
「残念……」
だからこそ、そんな攻撃は既に読み切っている僕。
ヴィローを左前半身にさせて、敵のパンチをヒョイとかわす。
そして右下に一旦降ろしていた大型メイスを、左上にブンと凪いだ。
ガキンという激突音の後、ドンと闘技場床の石畳に金属製の物が落ちた衝撃音が響く。
そこには、兜を被った機械騎士の頭部が半分ひしゃげて落ちていた。
「し、勝者。トシ・ドウ! お、大番狂わせ。ゆ、優勝候補コザン様、敗退致しましたぁ! オ、オッズは十倍を超えています」
今まで静かだった闘技場内に、悲鳴と声援、怒声が大きく鳴り響く。
僕は、そんな声を他所に大型メイスを頭上に掲げ、静かに勝利宣言をした。
「おにーちゃん、やったぁ!」
「ヴィローの旦那、流石!」
観客席でリリやアカネさんが大喜びしているのが、メインモニターの望遠映像で見える。
また彼女達の声もヴィローが怒声や歓声の中から拾いだし、僕の耳に届けてくれる。
「ぐ、ぬぬぬ。一体どうなっているのだ、コザンは? 我が騎士団の騎士は、どうしてああも弱いのか!」
貴賓室で手に持つ錫杖を床にたたきつけ、怒り悔しがっている領主の姿が拡大表示されたサブモニターで見え、唇の動きを読み取ったヴィローが字幕付きで表示してくれた。
【いい気味でございます。民衆を力で弾圧していた者が、より強大な力で押しつぶされるのですからね】
「ヴィロー。一応、僕たちは正義の味方のつもりだから、力に酔わないようにね。実際、『錦の御旗』の上で行使される『正義の力』程やっかいなものは無いから」
貴族達は自らが正しい、『正義』だとと思い込み、力を行使する。
彼らは反抗した民衆たちを、ギガスを使い文字通り踏みつぶしてきた。
だからこそ、僕もヴィローの持つ強大な『力』に酔わない様にしないといけない。
「さて、帰ろうか。ヴィロー」
【ですね。今回は軽く動いただけですが、関節軟骨は危険域まですり減ってます。早くアカネ殿にメンテしてもらいたいです。まあ、次の試合は偵察のために偵察ドローンを残しておいて見ておきますが】
僕とヴィローは騒然としたままの観客席に向けて一礼をした後、リリ達が待つ場所に凱旋した。
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