第4話 武闘大会 準々決勝! 開幕。

「ハリーくん、こっちだよぉ!」

「は、はい!」


 半径百メートルほどの巨大闘技場。

 武闘舞台を囲む観客席の中、真っ白なフード付きローブを被った少女が手を振って少年を呼ぶ。


「こんな前の方の席、良いんですか、リリお姉さん?」


「だいじょーぶ。ここ、武闘大会参加の関係者用席だもん。キミもおにーちゃんに賞金を賭けたんだから、おにーちゃんの仲間だよ。あ、アカネおねーちゃん。こっちだよぉ!」


 顔を赤くするハリーを、無理やり自分の横に座らせたリリ。

 今度は更に大声で叫びながら、遠くで人探しをしている黒髪の女性に向けて手をぶんぶん振った。


「ふぅ。リリちゃん、あんがと。ここに来るまで街道が混んでてトレラーでの移動大変だったよ。さて、ヴィローの旦那の調子はどうかねぇ?」


「昨日は、機体が重いとか武器がダサいとか。文句ばっかり言ってたよ、アカネおねーちゃん?」


「そうかい。後でアタイがしっかりとメンテしなきゃね。で、この坊やは?」


 リリよりも大柄で、メリハリのある体形の若い女性が少年を挟み込むように観客席に座る。

 腕まくりをしている袖から、しっかりしているも日焼けした女性らしい肌が見える。

 また上着の胸ぐりから、豊満な胸の谷間も垣間見えた。


「この子はね……」


 リリは、アカネにハリーの事情を説明する。


「そういう事かい。坊や、よーく見ておきな。男が命を懸けて戦う姿を」


「う、うん」


 華奢で可憐なリリ、スタイル抜群で姉御肌のアカネ。

 タイプ違いの美女二人に挟まれて、ハリーは更に顔を赤くした。


「あ! おにーちゃんが入場するよ。トシおにーちゃん、がんばれー!」


 リリは、闘技場の扉からボロ布マントを被ったヴィローが登場するのを見て、大きく手を振った。

 また反対側の扉から真紅の装甲を持つギガスが登場した。


「相手はアイツかい。ふーん、見た感じC級の至って普通の量産機。魔力炉も機体も最近の後付けだね。制御用仮面と上手くマッチしていないや。こいつがココの騎士団標準機かい?」


「おねーちゃん。前から不思議に思ってたけど、どうして直ぐにギガスのクラスが分かるの? 金ぴかなA級以上とD以下は、なーんとなく分かるけどBとCの違い、わたしには分からないの」


 アカネは、敵である赤い騎士機体に機械を向ける。

 リリは、何かの計器を見ているアカネに以前から思っていた疑問を尋ねた。


「D級は首が無いし寸胴だから分かりやすいよね。あれ、制御用の仮面レベルが低いから完全人型を制御できないのさ。CとBとの違いは、主機エンジンの魔力炉がオリジナルかどうか。制御仮面は同じくらいのモノが多いけど、オリジナルじゃない魔力炉はパワーが低いんだよ。今、アタイが見ているのは魔力計。これで機体のポテンシャル、蓄えているマナ総量が見えるのさ」


 アカネは、丁寧にリリや少年に機体の違いを説明する。


「Bくらいになれば、主機のパワーが中々に凄い。だから、オリジナルに搭載されていた特殊装備が使えるから少々手ごわいかな。魔力弾を撃ちだしたり、地面を滑空ホバー移動したりね」


「じゃあ、ヴィローがトリプルAって言われているのは、全部オリジナルのままだからなのね」


「ヴィローの旦那は、制御用仮面が更に上級。人と会話なんてするギガスなんて、沢山のギガスを見たアタイでも旦那くらいだよ。あ、坊や。今の会話は他言無用ね。キミを助けてくれるギガスとお兄ちゃんが強いって事だけ覚えてて」


「は、はい!」


 二人の美女に挟まれ顔を覗き込まれた少年は、更に顔を真っ赤にした。


「さあ、旦那の活躍を見ようじゃないか。アタイもさっき、賭博商の兄ちゃんに旦那の勝利を賭けてきたし」


 三人が見守る中、F級の機体に乗った審判員が闘技場の真ん中に立つ。

 そしてアナウンスを開始した。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「皆様。本日は領主、アルテュール・ファルマン伯爵様もいらしています。皆様、拍手をお願い致します!」


 審判員が拡声器を使い、闘技場中心でアナウンスをしている。

 僕は拍手が鳴る中、ヴィローの視線を伯爵が座っている貴賓席に向けた。

 そこには、恰幅が良く一見優しそうなオジサンが座っていた。


【マスター。領主の事は詳しくご存じですか?】


「いや、あんまり。父さん達を直接殺した貴族とは同じ派閥だし、父さんが殺される原因になった事故の現場にも居たけど直接の仇じゃないからね。ただ、仇のオスマン伯爵とは友人だったらしいし貴族連合の重鎮かつ資金源だから、共和国の為にもここいらで倒しておきたいよ」


 ……それに、ここからの資金は秘密結社にも流れているって話だし。噂レベルじゃ、貴族連合を裏から操っているのがその結社らしいけど。


 僕は、昨日見た一見繁栄しているラウドの表通りと裏のスラム街との違いを思い出す。

 僕らが助けた少年ハリーを家まで送った際、スラムで見た人達の事は忘れられない。


 ……生きるのがやっとな人達が、更に争ってわずかな食料や水を奪い合うのは見たくないや。その上、貴族が民衆を弾圧をして反逆者を皆殺しにしているのは絶対に許せない!


 騒然としているスラムでは、僕らの目の前で暴動が発生していた。

 誰もが食料や水を奪い合い、露天商などを襲う。


 そんな暴動を起こしている人達に向けて、城からやってきたE級ギガスに乗った治安維持部隊が、銃や武器を使い鎮圧。

 僕が見える範囲でも、死傷者が多数出ていた。

 僕は思わず助ける為に飛び出しそうになったが、リリと少年に手を掴まれて仕方なく我慢した。


【まずは目の前の騎士モドキを倒しましょう、マスター。こいつは領主お抱え騎士。一方的に倒して、愚か者な領主の顔に泥ぶちかけるのです!】


「賛成! じゃあ、戦闘ヴァジュラモード起動!」


【御意、マスター!】


 僕の指示を受け、ヴィローから放たれるタービン音が大きくなる。

 そして、魔力炉の出力も一気に戦闘領域まで駆け上がる。

 本来の機体装甲から発生する光が、偽装装甲の隙間から溢れるのが、全天モニター越しに見えた。


「準々決勝 第三試合。対戦カードをご紹介します! 赤コーナー、前回優勝者。ラウド騎士団筆頭騎士コザン・ジリベール。駆るは騎士団主力機『トネール』」


 赤い騎士は片手剣を上に掲げ、騎士の礼をする。


「対する挑戦者。流浪の戦士トシ・ドウ。駆る機体はクラス、原型機など正体不明ながら、ここまで勝ち上がってきたラッキースター、ヴィロー!」


 僕は礼代わりに、両手持ちの大型メイスをドスンと床石にぶつけた。


 ……しっかし、ちゃんと共和国で公式に『偽造』された身分証明書に書かれているから怪しまれないんだよな。『名無しの権兵衛ジョン・ドウ』って書いているのにね。


 アナウンスで、僕やヴィローの偽名が呼ばれている。

 本名やヴィローの正体がバレたら、貴族連合内で指名手配な僕、神話級機体のヴィローヴィローチャナは大会参加などさせてくれないだろうから。


「ルールはどちらかがギブアップするか、戦闘継続が不可能になるか。もしくは弱点たる頭部を破壊するかで勝敗を決めます」


 審判員から、試合の勝利条件が再度説明される。

 頭部の制御仮面が破壊されれば、ギガスはうんともすんとも動かなくなる。


 ……魔力炉は機体の奥深く。コクピットの真下にあるから破壊しにくいんだよね。


「意図的なコクピット破壊、操縦者の殺害は失格行為。遠距離武器も失格とします」


 殺し合いじゃないよってポーズのルールが説明される。

 ただ、「過失」や「事故」で簡単に人は死ぬ。

 ハリーの父親の様に小型機体で戦いを挑めば、大型ギガスの剣やメイスは、いとも簡単に機体頭部どころかコクピットごと叩き潰す。


 ギガス身長の倍くらい離れて対峙しあう僕と敵。


「では、両機とも準備良いですか……? それでは、試合開始!」


「うぉぉ!」


 真紅の装甲を持つ敵騎士は試合開始の声を聴いた途端、咆哮を上げ一気に主機出力を上げる。

 そして右手に持つ片手持ち両刃剣を頭上に掲げ、騎士盾カイトシールドを前にして突撃してきた。


「いくよ、ヴィロー!」

【御意!】


 僕はスロットルを全開にし、操作スティックをぎゅっと握った。

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