第34話 受付にて

 夏休みが終わる八月三十一日、夕方五時。

 パパが運転する車でおっさんSCスタジオパークに到着。


 この前、パパのスマホにれんらくがあったの。

 ナナを必ず第二回おっさんSCレディースU15のセレクションに受けさせてくださいって。


 だからこんどはママにパソコン入力の手続きをしてもらった。パパじゃないよ。


 そのあいだにナナはFCわかばの練習でからだの調子をととのえる。

 でもセレクションのことはみんなにだまっておいた。


 そしてむかえた第二回セレクション当日。

 からだの節々があちこちコキコキいってるの。筋肉もいつものかんかくじゃない。


 やっぱりきんちょうしてるのかな、

 ちょこっとだけ、だれかにたすけてもらいたいって感じ。パパじゃないよ。


 

 「ナナ、何こわい顔してるんだ。しっかりしろよ」

 ナナはうしろをふりむく。

 なんとゴロウと高杉君がいる!

 「どうしてふたりともここにいるの」

 「かぜのうわさでナナがセレクションうけるってきいたんだ、なっ高杉」

 ゴロウが高杉君にしゃべる。

 「そっ、だったらおれたちふたりでおうえんしにいこうかって」


 「ふたりともありがとう。ナナ、ぜったいがんばるから」

 ナナのむねにギュッとくる。ただふたりはグラウンドの中には入れないらしい。


 「おれたち、むこうの土手でおうえんするよ。あっ、そうそう受付は向こうみたいだぞ」

 ゴロウがしれっと話す。

 「なんで受付の場所知ってるの」

 ナナはゴロウにたずねる。なんかへんだな。

 「まあ、いろいろあってな。じゃあな」

 ゴロウはそう言い残して、高杉君とともに土手のかいだんへとむかっていった。


 ナナは受付にむかって歩いていく。すると、あってはならない顔を見つけてしまった。

 じぇじぇじぇ、タクが受付係やってる。


 「はい、次の方、申込用紙もうしこみようし同意書どういしょを提出してください」

 タクがひとごとのようにナナに言ってきた。

 ナナは何も答えず、タクに同意書どういしょ申込用紙もうしこみようしを手渡す。

 「はい、『スズキ・ナナ』さんですね。なかへお入りください、にもつはクラブハウスのロッカーへどうぞ」


 なにが「なかへお入りください」よ。ナナのテンションはガタ落ち。

 あのふたり、タクになにか仕込まれてきたな。


 こんなことで、どうようしてちゃいけない。

 逆に集中力ましてきちゃった。


 ナナはクラブハウスで練習着にきがえる。

 二回目だから気がちょっとラク。

 にもつはコインロッカーにおしこんだ。

 サッカーシューズとレガースを手に持ち、クラブハウスをあとにする。

 

 さあ、これからだよ、これから。

 スズキ・ナナ、行きまーす!


 


 

 



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る