第18話 トラック

 「では、二列に並んでください」

 スクール生五人とセレクション生五人がそれぞれ一列ずつに並ぶ。

 「フットサルコートを一周します」

 女性フィジカルコーチのかけ声でジョギングをはじめた。

 列のせんとうを走るのは、もちろんフィジカルコーチ。


 コートの四つのすみっこの内側に、丸い小さなコーンが四分の一半円状にたくさん置かれてる。

 そうすることによって、陸上競技りくじょうきょうぎのトラックのようになってた。

 なので、ナナたち二列はジョギングしやすい。


 走ってると、あらためて思うのは、足うらに来るゆかの感触かんしょくのちがいかな。

 人工芝は、天然芝ほどではないけれど、すこしクッションがある。

 だから足うらにはそれほどズシンとはひびかない。


 だけど、このフットサルコートは足うらの感触かんしょくがかたくて、かかとにガチッとひびく。

 小学校の体育館のゆかよりかたいかも。


 「ジョギングのまま両うでをふりながら上げ下げしてください」

 コートを一周し終わる頃に、フィジカルコーチは手本を見せながらせんとうを進んでく。


 ナナたちはコーチのまねをしながら、両うでを上下にふってまっすぐジョギング。

 そしてカーブにさしかかると、またジョギングのみで走る。


 「はい。では、うでを肩のところまで上げて、左右にふりながらジョギングです」

 カーブが終わりまっすぐなラインコースにさしかかると、コーチの指示が出た。

 ナナはそんなに走ってないのに、少し息が上がってきたの。

 カーブにさしかかって、またジョギングのみで走る。


 しばらくしてまっすぐのコースに近づいてきた。

 「次に股関節またかんせつを回します。右足を上げて外側から内側に回していきます。これを左右こうごにやりましょう」

 ナナはコーチのまねをして、リズムよく左右の股関節またかんせつをそとからうちに回していく。


 「はい、さらに股関節またかんせつを内側から外側に回します。左右こうごにやりましょう」

 ナナはタップしながら左右の股関節またかんせつをうちからそとに回していく。


 まっすぐなラインコースが終わりに近づいてきた。ここでフィジカルコーチが、

 「さいごにぜんりょくで三周走り抜きましょう」

 と言いながら、トラックのコースを外れた。


 同時に、スクール生五人が一気にスピードを上げて走っていく。セレクション生は完全に出おくれちゃった。

 ナナはスクール生たちを必死に追いかける。


 息を止め全力で走るナナ。ひたいにジワッと汗がにじんでくる。

 が、そんなこと気にしていらんない。

 とにかくナナの目の前の二人を追いかけなきゃ。

 両足をフル回転させていくナナ。これ以上ないっていうくらいのスピードで。


 トラック一周し終わるまでに二人抜いた。あと三人。ここで抜けなければナナのアピールする場がなくなる。

 ぜったいに抜く。抜いてやる。

 

 ナナは息を止めていたのをやめる。

 呼吸がいきなり荒くなってきた。

 「はっはっ」っていう呼吸音がナナにもきこえる。

 でもここががんばりどころ。

 太ももを交互に高く上げる。両手の指先をピンと伸ばして思いっきり振りながら。


 二周目の終わりに二人抜いた。残りは一人。


 もう死ぬ気で足を回転させるナナ。

 今にも太ももが引きちぎれるんじゃないかっておもうくらいで。

 視界しかいに最後の一人が入ってきた。

 いける、抜けるよ。

 最後の最後で息を止めるナナ。

 そのまま全力で両足を使いこの青い地面をけっていく。

 

 そして三周目のゴール手前で、さいごの一人を抜いた。


 なんとかトップでゴールできた。足を止めてひざに手をつく。

 「ハアハア」いって呼吸が止まんない。

 でもうれしさが少しずつこみ上げてきた。


 「はい、ではクールダウンしましょう」

 フィジカルコーチの声がコート内にひびき渡る。


 ナナはまるで合格したかのように、意気ようようとクールダウンのジョギングをしちゃったの。

 でもこれがあまかった。 

 








 

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