第16話 矜持(きょうじ)

 クラブハウスを出てゆるやかな坂を下っていく。


 そのさきに見えるのは巨大な青色で、はこ型の建築物けんちくぶつ

 それはナナが通ってる黒鳥学園こくちょうがくえん小学校の校舎よりも大きいことはたしかだよね。


 パパの話によると、カルディ府中フットサルプラザパート2は二階建ての建物で、一階、二階ともにフットサルコートが一面ずつあるの。

 コートの広さは、たて約四十メートル、よこ約二十メートルの公式試合仕様こうしきしあいしよう


 以前、フットサル日本代表チームがこのコートを練習場所として使ってたこともあるんだって。


 そしてパパはこう言ったの。

 「このコートの床は人工芝とちがって独特だから、慣れるのに少し時間がかかるかもしれないな」

 「どういうこと」

 ナナはパパにたずねる。

 「床のひとつひとつが、青い小さな正方形のブロックでできていて、とてもかたいんだよ」

 「ふーん。なんでそんなこと知ってるの、パパ」

 「かなり前に、ここでプレーしたことがあるんだよ」

 「そうなの?」

 パパはけっこう、なぞが多い。


 さらにパパは次のような話もしてくれた。


 カルディ府中は大昔から存在するプロサッカークラブである。

 このクラブはサッカーにフットサルのエッセンスも採り入れる、というチーム方針なの。

 そのため、小中学生年代にはフットサルのれんしゅうも、しっかりさせてるらしい。


 ちなみにサッカーは十一人制、フットサルは五人制。ルールはだいたい同じだけど、試合の進め方がけっこうちがってるって感じかな。

 たとえばサッカーにはスローインがあるけど、フットサルにはない。代わりにライン上にボールをおいてけるの。

 ほかにもちょこちょこちがいがあるんだよ。


 また、ここの選手たちは「自分たちの体には『青い血』が流れている」ってじまんしてる。

 それはWEリーグに所属する女子チーム(彼女たちもプロ契約選手けいやくせんしゅがほとんど)にも受けつがれてる。

 女子選手のお姉さまは自分達を「レディースブルー」って言ってるんだって。


 「なにそれ、パパ。どういう意味」

 「パパもよく分からないが『自分達はちがうんだ』っていってるんじゃないかな」

 「……」

 「大人のことばで、それを『矜持(きょうじ)』っていうんだよ」

 「……大人ってたいへんだね」

 ナナはパパにそう言ったの。


 パパと話しながら歩いていたら、フットサルプラザパート2の入り口にたどり着く。

 なかに入ってみるとフリースペースがある。

 そこにナナと同じようなビブスをつけた女子が、ナナとGKもふくめて五人いたの。


 それとは別に、あきらかにカルディ府中アリーナのスクール生だってわかる連中もいる。

 なぜって、青に白のチェックがはいったユニフォーム着てる女子が、あっちにもGKをふくめて五人いたから。


なんかヤバくなってきたかも。気合い入れなきゃって思うナナだったんだ。

 

 



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