第4話 ベビーカー

 ナナは黒鳥学園通こくちょうがくえんどおりをはさんでむこうのスーパーマーケットを見てた。

 スーパーは歩道から少しおくまった場所にあり、わかい母親ふたりが立ち話をしてたの。

 そばに五歳くらいの男の子とベビーカーがあって、その中で赤ちゃんがすやすや寝てる。


 男の子はベビーカーを軽く押したり引いたりしてた。

 すると、何かのひょうしで男の子が足でベビーカーの後輪こうりんのロックをはずしてしまう。


 男の子はボーッと立ったまま。

 赤ちゃんの乗ったベビーカーが、ゆるやかなしゃめんの歩道を下りはじめた。

 若葉台駅わかばだいえきの方から大型トラックがやってくる。

 ベビーカーはゆっくり下っていく。

 男の子が母親のスカートをつかみ手でひっぱった。

 大型トラックがどんどん近づいてくる。

 ベビーカーも前に進んでる。このままだと車道でトラックとぶつかっちゃう。


 「ゴロウ、ボール!」


 ナナはとっさに、ゴロウのサッカーボールを網ごとひっぱりもぎ取る。

 すぐさま右足のインステップキックでまっすぐな弾道だんどうのボールをベビーカーの前輪ぜんりんに向けてけった。

 ボールがすごいスピードで飛んでいく。


 「きゃー」


 母親がとつぜん叫ぶ。


 「キィーッ」


 大型トラックが急ブレーキをかけるが、止まりきれない。

 視界からベビーカーが消えてトラックが止まった。

 「バカヤロウ、気をつけろ!」

 トラックの運転手がどなり声をあげる。

 母親が金切り声をあげて現場へとむかう。


 スーパーマーケットからも店員や客が出てきて、ようすをうかがっていた。

 ナナは目をこらして、ベビーカーとトラックを見る。


 ベビーカーはトラックとの衝突寸前しょうとつすんぜんにサッカーボールとぶつかり反動はんどうで止まってた。

 かんいっぱつで、トラックに引かれなかった。

 でも赤ちゃんは大声で泣いてる。


 「オッ、オレのボール?」


 ゴロウがサッカーボールのゆくえを追う。

 サッカーボールはだ円形えんけい変形へんけいし、そのすきまから中の黒いゴムができたてのやきもちのようにはみ出てた。


 八日市場駅ようかいちばえきの方からFCわかばのスクールバスが、バス停『黒鳥台こくちょうだい』にとうちゃく。

 「ゴロウ、行くよ」

 ナナとゴロウをのせたスクールバスがしずかに現場げんばを去って行った。




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