第11話
「コホン」
ユリアさんは手を口元にあてて可愛らしく咳ばらいをすると、そのまま真剣な表情でケルンに言葉を発した。
「それでケルン様、こちらについてはどうされるおつもりなのですか?」
彼女はそう言いながら、一枚の紙をケルン様に対して提示した。
私はそれが何かと一瞬だけ考えたけれど、すぐに思い出すことができた。
あの家を追い出されるとき、お父様が笑いながら私に投げつけてきた紙。
それを見たリーゼが、この上なく楽しそうな表情を浮かべていたもの。
私と彼女たちとの関係を、終わらせると証明するもの。
「あぁ、そうだった。ご丁寧にこんなものまで用意しているとは、君を閉じ込めていた連中はたいそう良い性格をしているらしい。ぜひ早急に会いに行って話をしたいものだね」
…丁寧な口調で話す彼だったけれど、その裏ではこれ以上ないくらいの怒りの感情を抱いているように感じられた…。
「君がいた家の人々が君の事を幸せにしているというのなら、僕はその者たちの事を丁重にもてなすつもりでいたが…。これを見る限り、どうやらその期待は全く裏切られてしまったようだ。…セレシア、後の事はすべてこの僕に任せてほしい。君を虐げた人間たちには、それ相応の…、いや、それ以上の天罰を与えなければならない。それを執行するのに、僕以上に相応しい人間などどこにもいないのだから」
「ケルン様…。で、でもいったいどんな天罰を…?」
私の発した疑問に、彼は笑みを浮かべながら明るい表情で答えたのだった。
――――
「た、大変ですお母様!!お父様!!ケルン王子からこんな手紙が急に!!!」
焦りを隠せないリーゼは夢中で屋敷の中を駆けていき、二人のもとを目指す。
そこにセレシアを前にするときのような彼女の余裕は全くなかった。
「王子から手紙?そんなはずないじゃない、いたずらよいたずら…。ねぇ、あなたもそう思うでしょう??」
リーゼが持ってきた手紙を見ることもなく、ラフィーナはリーゼの言葉を本気にはしなかった。
ゆえにリーゼが差し出してきた手紙はエルクがその手に取る形となったが、そこで彼はこれ以上ないほどその表情を青く染めた…。
「…っ!?こ、この封印!?ま、間違いない…!この手紙は間違いなく王子が直接発したものだ…!」
「な、なんですって!?」
「ど、どうしましょう!?」
書類が本物か偽物かを判断する能力が高いがゆえ、エルクはすぐに手紙の正体を見破った。
エルクならばすぐに気づくだろうと見越して、ケルンは手紙を差し出したのだろう。
手紙が本物と知るや否や、ラフィーナは先ほどまでの余裕さをすべて失ってしまう。
それほどに王からの手紙がもたらしたインパクトは大きかった。
「…じゃ、じゃあ、開けるぞ…」
ややその手を震わせながら、エルクは慎重に手紙を開封していく。
中には一枚の紙が入っており、短くこう記載されていた。
――――
以下を通知する。
ケルン・アルバートとセレシア・マグノリアは婚姻関係となった。
以上
――――
一枚の紙切れに記載されたほんの短いその一文は、彼らの心を揺さぶるには十分なものだった。
「ど、どういうこと!?なんであいつ…お姉様が急に婚約を!?しかも相手がケルン様!?ありえないわありえない!!!」
…リーゼがひそかに狙っていた相手こそ、まさにケルン王子であった。彼女はその可能性をつぶさされてしまった上に、その相手がこれまで見下し続けていたセレシアだったのだ。
「ちょ、ちょっとまって!!まつんだ!!」
そんな中、動揺しながらもエルクは大きな声を出して二人を制する。
「…これはつまり、俺たちもまた王族に入れるということなんじゃないのか!?だってそうだろう!名目上セレシアは我々の家族だ!セレシアがケルンと結ばれるというのなら、俺たちだってその仲間入りだ!そうだろう!」
エルクのその言葉を聞いて、二人はいっせいに色めき立った。
「そ、そうよそうよ!!そうじゃないと不公平だわ!!」
「…セレシア、たまには役に立つじゃない…。私たちを王族の中へ導いてくれえるだなんて…♪」
「だろう?本当に二人が結ばれるというのならそうならなければ筋が通らない!二人が結ばれるという話が何かの間違いなら、それまでの話!俺たちにはなんの損もない!!」
すっかり機嫌を取り戻している様子の3人だったが、大切なことを失念してしまっている。
自らが彼女に手渡した、絶縁書の存在を…。
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