第10話

彼と私の関係は、突然に引き裂かれた。

それは私の家族と彼の家族とで、ピクニックに行っていたときの事。

ローゼスはどうしても私と二人きりになりたかったようで、家族の目を盗んで私たちは少し離れた場所まで駆け出し、思惑通り私たちは草原の上で二人きりになった。

ローゼスはまだ子どもだというのに、私にプロポーズを画策していたらしい。

普段とは違う彼の様子から、私もそうなんじゃないかと思い、二人とも少し赤面してそわそわとしていた。


…でもあの時、運悪く近くを盗賊が通ってしまった。

彼の家族には護衛がいたから難を逃れたけれど、私の家族はみんな盗賊の手にかけられてしまった。

…そして私の事を助けようとする彼の必死の抵抗もむなしく、私は盗賊にさらわれてしまった…。


そして気づいたときに私がいたのは、あの家だった。


――――


ローゼスは今だに、それを自分のせいだと言って自分を責めている様子…。

私はあふれる感情のままに体を起こし、彼の体に抱き着いた。

あまり力が出ないから、必死にしがみつくような形になってしまったけれど、それでも十分彼を感じられた。

…いったいどれだけの時間そうしていたのか。

一瞬だけだったのか、それとも時間を忘れるほどながいほどだったのか?

私は彼に向け、最初に言葉を放った。


「…あなたが、ケルン第一王子なの?」

「あぁ。賢くなって、強くなって、王子になって、必ず君を探し出そうとずっとずっと決めていた」

「…なら、もっときれいな姿で再会したかったな…。こんなボロボロの姿じゃ、幻滅しちゃったでしょ…」

「…幻滅したのは自分にさ。結局僕は、自分の力で君を救えなかったのだから…」

「…自分の力?」

「君に気づけたのは、僕が馬車に乗って移動していた時、遠目に偶然見つけることができたからなんだ。あたり一帯は暗くて確証はなかったけれど、それでももしかしたらと思って…」


偶然の力に頼って私を見つけたことを、彼はひどく悔やんでいる様子だった。

…そんなこと全然気にしなくていいのに…。


「…あの時私たちは小さくて、今はこんなに背も高くなって…。それでも、小さい時の記憶を忘れないでいてくれたから、私の事を見つけてくれたんでしょ?それって……その、すっごくうれしいこと……だと思うの……」


自分で思っていることをうまく言葉にできず、なんだか恥ずかしくなってしまう…。

そんな私の姿を彼はきょとんとした目で見ていたけれど、私の気持ちはストレートに受け取ってくれた様子。


「…ありがとう、セレシア。僕もこうして君に再会できたこと、本当にうれしく思っているんだ」


ローゼス様……いえ、ケルン様はそう言葉を発すると、そのまま私の正面に向き合った。

その表情は真剣そのもの。


「…今こそ、あの時の続きを……セレシア…」

「(い、いまなの!?ま、まだ再会したばかりだし、もっとお互いの事を話し合ってもいいんじゃ…!!で、でもあの時の続きを私はずっと夢見てたわけで、えっとえっと……)」


自分でもわかるほどじたばたとしてしまう…。

そんな私の姿を見て、彼はその表情を一気に朗らかなものにした。


「…くすくす…。先に君に元気になってもらわなくちゃいけないのに、僕もせっかちだなぁ…」

「ほ、ほんとですよ…。む、昔もせっかちでしたけれど…」

「あ、あのぉ~」


…すっかり二人で話し込んでいたから、その存在を忘れてしまっていた…。

使用人であるユリアさんは居心地の悪そうな表情を浮かべ、私たちに訴える視線を送ってくる。


「…///」

「…///」


…私も彼も、顔を赤くするほかなかった…。

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