第8話
「ご、ごめんなさいお父様……」
「聞こえないなぁ…。リーゼ、セレシアが今なんて言ったか君には聞こえたか?」
「私にもさっぱりですわ…。お姉様ったらもっとはきはきとしゃべってほしいですわねぇ…」
いつものように、リーゼの嫌味な言葉とお父様の制裁が私の体を侵していく。
もうすっかり慣れっことはいっても、やっぱり痛いものは痛い…。
「ほら、もう一回大きな声で言えと言っているんだ!!」
「ひぐっ!!!」
お父様は私の前髪をつかみ上げると、そのまま私の体ごと乱暴に床に放り投げた。
「…そうか、自分からは言わないつもりか…。それじゃあこっちから声を出させてやらないといけないなぁ」
「…」
「♪」
私のもとにゆっくりと近づいてくる不機嫌なお父様と、そんな光景を見て心をときめかせている様子の上機嫌なリーゼ。
相対する様子を見せる二人が、私にはなんだかおもしろく思えた。
けれどそれも一瞬だけ。
次の瞬間には、お父様は自身の右足を大きく振り上げてそのまま私のお腹めがけて…。
「っぁぁ!!!!!!!」
「ぅあ!だ、大丈夫ですか!?」
「……ぁ、あれ…??」
お父様に蹴り上げられたはずの私が目を覚ましたのは、全く見知らない場所だった。
全身が温かくくるまれているこの感覚は、毎日堅い床で眠っていた私にとって懐かしい心地よさ。
窓から差し込む日差しはちょうどいいまぶしさで、この部屋にいる快適さを一段と上げてくれている。
…って、この部屋って一体…??
「随分とうなされておられたようですが、大丈夫でございますか??」
「え、えっと……」
ベッドに起き上がった私の相手をしているこの人は、大きな家の使用人のような上品さと雰囲気を兼ね備える人だった。
けれど、私はこの人にあったことがない……いったい誰なんだろうか…?
「あぁ、自己紹介がまだでしたね…。私、第一王子ケルン・アルバート様にお仕えしております、ユリアと申します。ここはケルン様のお屋敷になります」
「ケ、ケルン様っ!?」
ずっとあの家に閉じ込められていた私であっても、その名前は知っていた。
それこそ大げさじゃなく、この国で一番偉いと言っても差し支えのない人。
私なんかじゃ一生会う事もなく終わるんだろうなと思っていた、まさにその人。
今私は、そんなすごい人のお屋敷にいるらしい…。
「な、なんで……どうして……?」
まだ現実が受け入れられていない私に、彼女は優しい口調で説明を始めた。
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