第4話
「セレシア、さっさと食べなさい。少々カビがはえていても、あなたなら問題なく食べられるでしょう?あなた自身がカビみたいなものなのだから(笑)」
「まぁお母様、お上手(笑)」
私は出された食事に文句を言うこともなく、ただ淡々と食べ進めていた。
私が食べている食事のメニューは、二人とは全く異なっている。
お父様、お母様、そしてリーゼが食べ残したものやあまりもの、痛んでしまったものが私に出される食事だった。
そんな私の事を楽し気に見る二人の様子は、いつもと全く変わらず。
「…(うっ…)」
…飲み込んだスープの中に、なにかおかしな味がすることを感じた。
本能的に飲み込むことを中断してしまうけれど、私にはこれしか口にできるものはない。
これを残したところで、また明日や明後日に同じものを出されることは目に見えている。
だから、少しくらい変な味がしたとしても、今食べてしまうのが一番合理的で効率的。
私は自分にそう言い聞かせ、淡々と食事を進めた。
一応、私に死なれては困るからか、最低限の食事はこうして食べることが出いていた。
でもそれは私の事を思っての事ではなく、自分たちの評判をよりよくするためだった…。
――――
お父様はこのあたり一帯で顔が広いからか、よく家にはお客様が訪れていた。
そして訪れた全員が私の事を見て、こう言うのだ。
「なるほど、こちらが噂の…。体は細く、肌色も色白でつやにかける…。これほど病弱で手がかかるであろう子を愛情をもって育て上げられているとは、やはりエルク様の父としての愛情は素晴らしいですなぁ」
お父様とお母様は私の事を、病弱でわがままな困った存在なんだと言いふらしているらしい。
だから私が明らかに栄養失調な体をしていても、なんとも思わないばかりかむしろ二人に同情するような言葉を発するほどだった。
そうやって二人は私を利用して着々と家族思いだという評判を手に入れて行っていた。
――――
「お母さま、そろそろリディア様が到着される時間ではありませんか?」
「あら、もうそんな時間かしら」
今日もまた、この家にお客様が訪れるらしい。
私は何も知らされていないから、詳しくは分からないけれど…。
「リーゼ、さっそく準備をしてちょうだい」
「わかりましたわ」
「…それとセレシア、あなたはリディア様に何を聞かれても、私たちの評判を下げるようなことは絶対に言わない事。もしもなにか妙なことを言ったりしたら……分かっているわよね?」
「はい、お母様…」
誰かお客様が来るたび、私はそう厳命されていた。
私の評判がどうなろうとどうでもいいけれど、自分たちの評判を下げるようなことは絶対に許さない、と…。
「お姉さま、もっともっと悲観的な表情をされてくださいませ。お姉さまが暗いオーラを出されるほど、私たちを見る人々の目はより良いものになっていくのですから♪」
「大丈夫よリーゼ、セレシアは存在自体が悲観的なのだから、特別何をしなくても勝手に負のオーラが出てくるわ。私たちには絶対にまねできないから、うらやましいわねぇ♪」
私が何も言い返さないことをいいことに、相変わらず好き勝手な言葉を言い放つ二人。
慣れっこと言えば慣れっこだけれど、あのいやらしい表情だけはいつまでたってもなれることはなさそうだった。
――――
「ようこそお越しくださいました、リディア様!」
「わざわざお出迎えありがとう。これ、おみやげです」
「いつもありがとうございます!」
玄関先でリディア様を出迎えるお母様。
彼はお父様の古くからの友人で、私の事も昔から知っている、らしい。
小さなころの記憶なんて覚えていないから、私にはよくわからないのだけれど。
「お久しぶりです、リディア様!お父様がいつもお世話になっております!」
「いやぁ、リーゼちゃんもお久しぶり。今日も相変わらず可愛らしいね♪」
「まぁ、ありがとうございます!」
「こんな美しいお嫁さんに、こんな可愛らしい娘まで…。ほんと、あいつには妬いてしまうよ(笑)」
リディア様の言葉を聞いて、心底うれしそうな表情を浮かべる二人。
それは私をいびるときの楽しそうな表情と、全く同じに感じられた。
そして二人から視線を外したリディア様は、そのまま私の方を見つめながら言葉を発した。
「セレシアちゃんも、相変わらずな様子だね。…だけど、あんまりわがままをいって二人に迷惑をかけちゃだめだよ?」
「…はい、お恥ずかしい限りです…」
私は言われた通り、二人の評判を落とさないよう言葉を返した。
そんな私の姿を見て、二人は相変わらずにやにやとした表情を浮かべている。
自分たちが快く思わない私が、誰かにたしなめられる姿を見て、その心をいきいきとさせているのだろう。
「さぁ、ここではなんですからどうぞ中へ!おいしい紅茶とケーキをご用意しておりますので!」
お母様はそう言いながら、たたずむリディア様を家の中へと導いていった。
――――
リディア様は案内された部屋の中へと入っていき、用意された椅子へと腰かけた。
「…相変わらずこのお屋敷は綺麗に掃除されていますねぇ…。一体どれほど優秀な使用人を雇っているのですか?」
「リディア様、実は使用人ではなのですよ?この私とリーゼとで分担して掃除をしているのです」
「な、なんと!?」
お母様の発した言葉に、信じられないといった表情を浮かべるリディア様。
まぁ、お母様の言っていることは嘘だから、その反応は正解ではあるのだけれど。
「そ、それは素晴らしい…!こんなにも美しく維持されるのは、さぞ大変なことでございましょう…!」
それはもう大変ですよ。
毎日殴られ蹴られ、食事を抜きにされの繰り返しですからね…。
「私もリーゼも、一度始めたら止まらない性格なのです。ですから端から端に至るまで、時間を忘れてこだわってしまいまして…。いやぁ、お恥ずかしい」
「も、もうお母様!リディア様にそんなお話してはだめですわ!がっかりされてしまいますもの!」
「いやいや、僕は決してそんな!」
部屋の隅で静かにたたずみ私を抜きに、部屋の中はなんとも和気あいあいとした雰囲気に包まれる。
「…ですが、それにひきかえこのセレシアときましたら、全く私たちの事を手伝いもしないのですよ?用意した食事にだって文句ばかり言いますし、こんなやせ細った体になった今も私たちの言うことを聞かないのです…。リディア様からも少し言ってあげていただけませんか?」
「は、ははは…。僕にはそんなこと…」
リディア様は言いづらそうにしていたけれど、お母様の発する圧に負けたのか、しぶしぶといった様子で私の方を向き、短く言葉を発した。
「セ、セレシアちゃん…。あんまり二人の事を困らせるものじゃないよ?せっかくこんなに心配してくれているんだからね?」
「…はい、リディア様…」
家族に迷惑をかける面倒な娘。
やっぱり彼の目に私は完全にそう映っているようだった。
そしてそんな私の姿を、相変わらず二人は勝ち誇ったような表情で見つめるのだった。
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