前触れなき断絶

 ずっと仲が良かったはずの樹里亜さんですが、私達の関係は前触れも無く終わります。


 忘れもしない、3月のある日。出社の際に道中で樹里亜さんを見つけたので、いつも通り声をかけました。ですが、何度声をかけても彼女は反応しません。


 その時の顔は闇モードの櫛田桔梗というか、ピッコロの三白眼のごとく極端に白目の面積の広い目つきで地面を睨んでいたと記憶しています。一言で表すなら悪霊にでも憑かれているかのようでした。


 始業まで時間がなかったのと、何を言っても反応しないので「何かの間違いだろう」と思って「先に行きますね」と言ってから会社へと行きました。前日に笑顔で「じゃあね」と別れたので、彼女が攻撃的になるような事をした覚えはありませんでした。


 そのため「ちょっと機嫌が悪かったんだろう。きっと子供関係で何かあったんだろう」ぐらいに思っていました。


 ところが、事態は私が思っているよりも深刻でした。


 会社で「お疲れ様です」と声掛けは誰とでもやるのですが、私が何を話しかけても彼女は無視し続けました。私と樹里亜さんの仲がいいのは有名だったので、同僚やら上司が意味ありげな視線を向けてきました。つらい……。


 ああいう場合、どうやっても不幸でかわいい女の子の方が有利になります。日本では女性の社会進出が云々みたいな話がよくされはしますけど、それでも(多少見た目が良かろうが)オッサンよりもかわいい女の子の方が大事にされるのは間違いありません。


 この日を皮切りに、私の黒歴史は本格的に始まっていきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る