地獄だった「お昼の放送」

 樹里亜さんから無視されて何日も経ちました。声をかけてもピッコロ顔で無視されます。


 ――いったい、俺が何をしたって言うんや。


 脳裏に響く関西弁。私は東京出身です。それはさておき、少し前まで仲の良かった人から何も知らされずに関係を断ち切られるのはしんどいものがありました。このような経験をした事は過去に一度もありませんでした。


 周囲の人も私が無視され続ける様子を見ていましたが、それでも私自身は何とか元の友人に戻ろうと必死でした。ですが、彼女は全く反応しないばかりか、別の宇宙にいるかのようでした。


 さて、「かわいいは正義」とはよく言ったものです。


 この時の私はいい見せ物になっていましたが、周囲から向けられる視線には「お前が何かやったんだろ?」という非難めいたニュアンスをいくらか感じました。実際にそのような事を口に出した方もいましたね。何も知らないくせに。


 地獄だったのは昼メシの時間でしたね。


 食堂で昼を摂る人が多かったのですが、私も含めた弁当組は大きめの休憩室で好きな場所に座って昼を食べていました。


 かつては樹里亜さんや一ノ瀬さんと楽しく雑談でもしながら食べていた時間も、状況が変わると地獄の時間へと変わりました。


 休憩室には上司もいたのですが、当然彼らも雑談はします。部屋はコロナ禍のちょっと前ぐらいだったのですが、比較的静かでした。そのため雑談は周囲へと聞こえる場合も多く、ラジオ代わりに雑談を聴いていた人も結構いたのではないかと思っています。


 そこでですね、私と樹里亜さんの話題が出てしまったのですね。


 はい、もう地獄でしたよ。「やめて下さい」と言っても良かったのかもしれませんが、それだと盗み聞きしていたみたいで言いにくいわけです。実際には部屋中に聞こえているんですが……。


 そうなると止めるわけにもいかず、同僚同士のゴシップは密かに視聴率を上げていきました。そのため、私と樹里亜さんがケンカ中(正確に言えば一方的に嫌われているだけ)なのは大体の同僚へと知れ渡ってしまいました。


 喩えるなら小学校で放送部がやるような「お昼の放送」で生徒同士のゴシップを流される感じでしょうか。まあ、しんどかったですね。樹里亜さんがシンママなのは有名だったし、そうなると私が彼女に何かをしたと思われるのが当然の帰結なんですよね。何もやっていないんですけど(笑)。

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