樹里亜さんと急接近

 色々事情があるとはいえ、樹里亜さんに異性としての魅力があったのは間違いありません。彼女の容姿は派遣先でも話題にはなっていました。


 とはいえ、私も婚活に来たわけではありません。儲からないボランティア系の本業を継続するには離職率の激しいコールセンターのお仕事でしっかりと生き残らないといけません。


 そのため、仕事には結構本気で取り組んでいたというか、分からない事があれば休憩時間に調べてから戻るといった努力もしていました。そのため仕事は出来ました。


 帰りではよく樹里亜さんを見つけたので、声をかけては一緒に帰る事が多かったと思います。当時、樹里亜さんと同い年で同郷の人がもう1人いました。


 名前は同じ「よう実」から取って一ノ瀬さんとしておきましょうか。彼女も見た目はかわいい方だったと思うのですが、容姿は想像にお任せします。一ノ瀬さんも(私の精神年齢が低すぎるせいか)話が合ったので、休憩時間で一緒になれば雑談とかをする仲になっていました。


 大体は樹里亜さんか一ノ瀬さんと一緒にいる時間が多かった気がします。ただ、話題はどちらと話しても樹里亜さんの話題が多かったと思います。というのも、私にとっても一ノ瀬さんにとっても樹里亜さんの事が心配だったからです。


 個人が特定されないようにフェイクも入れていきますが、ろくでもない両親に育てられて、若い女に手を出すオッサンと高校在学時に結婚した樹里亜さんは世間の事を何も知らず、色々と大変な目に遭います。


 加えてJKに手を出して結婚まで漕ぎ着けた旦那は樹里亜さんへの興味を失い、他の女やギャンブルへとのめり込み、2人の愛の巣には請求書やら督促状が次々と……という事があったそうで、結局早々に離婚されたとの事でした。


 その後も容姿が優れているためにスケベなオッサンからセクハラをされたり、ストーキングに遭うなど、色々な災難を乗り越えながらシンママライフを送っているとの事。そんな事情もあり、珍しく私は同情していたのだと思います。知らぬ間に。


 そういった背景を聴いた事もあり、一ノ瀬さんとは「俺達が精神的な支えになってあげなきゃいけないね」という話をよくしていました。今から見れば鼻で笑われそうな老婆心ですが。


 だからとは言いませんが、特に帰り道で樹里亜さんを見つけた時にはこちらから声をかけて、(私にしては珍しく)決してネガティブな話題は取り上げず、彼女の頑張っているところを賞賛するようにしました。これはカウンセリングの技術でもあるので、彼女が揚々と帰って行く時には自分勝手な満足感を覚えていたものです。


 恐らく客観的にも「付き合っているのかな?」と思われるぐらいに2人の仲は急接近していたと思います。恥ずかしながら、私自身も「もしかしたら本当に付き合う事もあるのかも」なんて思ってきました。


 ――それがまあ、あんな事になるなんてね(笑)。

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