051: 会議 -- 森にて

―――――


 カーマの銃から黄金の火花が吹き出した。射出された魔弾を冷静に氷の盾で防ぎながら、スピネラはその背に庇うコウの腕を掴んで駆け出した。


「逃げるが勝ちってね!」

「スピネラさん!?」


 コウは驚いた顔をしたが、そのまま大人しくスピネラに連れられていった。短気が目立つ彼女だが、スピネラのことは信頼しているのだろう。

 そうして木陰に消えゆく二人の背にカーマは何発か打ち込んだが、深追いをすることはせず銃を下ろして言った。


「ちぇっ、ここで仕留めておきたかったんだけど……まあいっか。もうたくさん殺せたし」


 そしてカーマは尖らせた口を今度はにやりとさせ、センリの方を向き直った。


「よし。邪魔者は消えたことだし、作戦会議しようよ」

「うん」

「なんやねん作戦会議って」


 クーシーの双剣が四枚羽へ戻っていくのを横目に、センリは呆れを隠さず返答した。

 カーマはまた不服そうな顔つきになり、腕を腰に当てて言う。


「そんなに怒らないでよ。たしかに無断でカナギと引き離したのは悪かったけど、それなりに勝算はあったんだよ? 近くにゴーズィがいるのをちゃんと確認したんだから」

「ああ、確かにあいつなら助けに入ってくれそうやな」


 きっとヨウも一緒にいるだろう。それならあの双子を抑えることはできそうだ。

 センリは猫の目で『ゆきみの館』の二人を追いながら、カーマたちの作戦を聞いた。


「で、『マスカレード・ファミリア』が怖いから連携したくてさ。それに……」


 カーマはそこで声を一段ひそめた。


「参加してるはずのマサ兄の姿が見えない。妙だよ」


 センリも頷いて、ひそひそと返した。

「せやな。受付んときに見渡したけどおらんかったわ」

「でしょ? マサ兄っぽいソーサラーはいなかったよね。どこかに隠れてたのかな。あたしたち、マサ兄のスキル知らないしさ……」


 そしてカーマは一呼吸置き、今度はクーシーにも聞こえる声で続けた。


「それで、ここより密度の高い森が向こうにあるのを見つけたんだよね。そこなら見晴らし悪いからソーサラーには不利だし、お兄ちゃんは活躍しやすいでしょ? だから、とりあえずそこで待ち構えるっていう作戦はどう?」

「俺はええけどカナギは?」

「あたしがクーシーと一緒に迎えに行く。お兄ちゃんには向こうの森の偵察をお願いしたいの」


 センリは素早く思考を巡らせ、カーマの作戦に乗るのが一番いいだろうと思った。


「分かった、そうしよ……」


 猫の目がある人物を捉え、センリは言葉を詰まらせた。その様子にカーマとクーシーがさっと表情を変える。


「何があった?」

「……マスカレードの双子がこの森ん中へ来とる。それを追ってヴァルハラの二人も」

「え!? カナギと一緒に砂漠にいるはずじゃ?」


 驚いたカーマの言葉には答えず、センリは地面に伸びる自分の影にさっと手を添えて言った。


「悪い。そんな悠長なことは言ってられん。俺は今すぐカナギんとこへ戻る。二人はゴーズィたちと一緒におったほうがええ」


 センリの元へ黒猫たちが続々と寄ってきた。それらがセンリの影へと飛び込むと、質量を増していくように影は地面から放たれ、センリの身体を一部の隙も無く覆った。


「……分かった。気を付けてね」

「頑張って生き延びます」


 闇の塊となったセンリが地面の影へと消えていくのを、二人の少女は険しい顔で見送った。


―――――


 人を抱えているというのに、ブッファは軽々と森の小道を駆けていった。ヨウはその背中を追いながらひたすら彼らの隙を探すが、回復してきたらしいセリアの魔法が、ヨウの攻める手を妨げた。


「くそっ、<展延>!」


 なかなか詰めらない距離に業を煮やし、ヨウはスキルを使って刀を振った。


「<雷牢>」


 しかしその一撃も、セリアの茨に阻まれてしまう。


「ぐるる! あんな子供たちに手こずるなんて、自分が情けないです!」

「お前も同じ年に見えるが……」


 思わず吐き捨てたヨウのセリフに、後ろからやってきたゴーズィが生真面目に返した。


「しかし、森の中だと跳んで距離を詰めるのも難しいな」

「そうですね……」


 ゴーズィとヨウがそう話し合いながら走っているときだった。

 突然、ヨウの足を何者かが掴んだ。セリアの茨かと思いヨウは足元を見たが、それは予想だにしなかった、人骨の手だった。


「ぎゃああ!」

「これは……ネクロマンサーか!」


 そのままヨウの身体を伝うように、一体のスケルトンが地中から姿を現した。周囲にも数体のスケルトンが現れ、ヨウたちの行く手を阻むように向かってくる。


「<変貌せよ>!」


 盾を斧に変形させたゴーズィは、それをぶんぶんと振り回してスケルトンたちを薙ぎ払う。


「<大車輪>!」


 ヨウも範囲攻撃技で応戦する。その甲斐あってスケルトンはすぐに数を減らしたが、双子の姿はすっかり見失ってしまった。


「マスカレードの仕業だろうな。やられた」

「くっ……」

「一旦落ち着こう。今俺たちにできることを考えるんだ」


 地団太を踏む勢いで悔しがるヨウを、ゴーズィがそう言って諭した。

 失敗したらそれを引きずるのではなく、すぐに挽回の一手を考える。ゴーズィだけでなく、センリやカナギもそういう考え方をしていたと思い出したヨウは、深い呼吸をして考えを巡らせた。

 

「今俺たちにできることですか……。ん? この音は……」


 森の奥から微かに響く音に、ヨウは耳をピンと立てた。


「向こうからスケルトンの音がします!」

「行ってみよう。あの二人がいるかもしれない」


 ヨウとゴーズィは頷き合い、森の木々を抜けてその方を目指した。

 そしてヨウが先陣を切って躍り出たそこには、スケルトンの群れと、狐耳の少女がいた。


「ヨウ……!」

「姉ちゃん!?」


 その見開かれた金色の瞳は、すぐにヨウを刺し貫くような鋭い眼光を宿した。

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