014: 双子 -- 闘技場にて
転送先は受付の上部にある闘技場のようだった。上空にあるからだろうか、強い風が砂を舞い上げて吹き付けてくる。
袂と長髪をなびかせながらセンリとカナギが歩み出ると、向こうからも二つの影が姿を現した。
セリアとブッファが並び立ってその仮面をこちらに向けていた。ぴしっと姿勢を正すセリアとは対照的に、ブッファは落ち着きなくスーツについた砂を払ったり仮面のあちこちを触ったりしていた。
【ヒガンバナ】を構えたセンリは、今にも走り出すように腰を低めて言った。
「相手がどう出るか分からん。連携を見極めるまで慎重にいくで」
「ああ」
センリの言葉にカナギも頷いて、鈍色に光る刀を抜き放った。彼の要望に沿って調整した無銘の刀だった。
「いささか急な幕開けになりましたが……ブッファ。もう斬ってもいいですよ」
「わかった!」
センリ達が武器を取り出すのを見て、セリアは残念そうにそう呟いた。それを聞いたブッファは元気よく返事をし、身の丈よりも大きな鎌を手中に現した。
「<稲妻>」
セリアの凛とした詠唱が聞こえた。
ブッファを止めようとセンリが赤い刀を構え飛び掛かった瞬間、輝く流星のような雷撃が向かってくるのを感じ、センリはぐっと体の向きを変えて急いで離脱した。
「避けても無駄です」
セリアの冷たい声がセンリの耳に入ってきた。ブッファから離れるように駆けながらセンリがちらりと後ろを見ると、たしかにあの光がしつこくセンリを追っていた。
さっとセンリは刀を構え、雷の矢を一つ一つ切り裂くように落とした。息を吐くこともなくばっと顔を上げて戦場を見渡したセンリは、雷撃を避けながら激しくブッファと斬り合うカナギの姿を目にした。
ひらひらと舞うようにブッファの鎌を避け続けるカナギには、攻めに転じる余裕すらなさそうだった。
「<雷牢>」
ふいにその足元から輝く茨が伸びてきたかと思うと、カナギはすかさず跳躍して距離を取る。しかしブッファが逃すことはなく、すぐに接近され振り下ろされた鎌を、カナギは刀で的確に受け止めて横に流した。
「お前、鎌でそこまで戦えるとは、かなり見込みがあるぞ」
「え? 褒めてくれるの? 嬉しー!」
切迫した状況だというのにカナギは楽しそうに戦っていた。ブッファのほうも明るい声で応じていて、センリは思わず呆気に取られた。
「<雷球>」
その瞬間、また雷のはじける音が迫ってきて、慌ててセンリはその場を離れた。雷の弾はそのまま地面に着弾し、黒ずんだ焦げ跡を残した。
「ちぇっ。稲妻のほうにしておくべきだったか」
セリアのその呟きはなんとなく子供らしい響きだった。もしかすると彼らもヨウと同じぐらいの、『SoL』の制限年齢ぎりぎりの年なのではないかとセンリは思った。
「センリ! そっちの相手は頼んだ!」
セリアの目がこちらに向いた一瞬、カナギはそう叫んで例の刀を取り出した。
彼らの仮面のように豪奢な刀を左手にしたカナギは、それを突きだすように黒い切先をブッファに向け、無銘の刀を頭上に掲げた。
「おうよ!」
カナギの言葉に応えたセンリは、同じように真っ赤な短刀をセリアに見せつけるように構えた。
セリアは右手に古い魔導書のような本を構えていた。その背表紙には黄色い宝石がはまっており、それが発光して雷を作り出しているようだった。
「あなたに攻撃能力が無いことは分かっています。私の気を引こうとしても無駄ですよ」
「そんなら、なんで俺を狙って魔法を打ってたん?」
センリがそう返すと、セリアはぐっと言葉に詰まった。
「俺はお前の脅威になるって、知ってたんやろ」
「……<稲妻>」
セリアはセンリの問いに答えず、ただ呪文を詠唱した。現れた雷の矢をセンリは切り捨てて、足を踏み出したかと思えば一瞬でセリアに肉薄した。
「堪忍な」
センリはそう言って、迷いなくセリアの喉笛を掻き斬った。その傷口は浅く大したダメージにはならなかったが、セリアは喉を押さえて仮面から荒い息を漏らした。
「喉を斬られれば詠唱はできん。ソーサラーを封じるにはこれで十分や」
崩れ落ちるセリアから視線を外し、ブッファと戦うカナギのほうに駆け出そうとしたセンリは、思いついたかのように言った。
「ついでに言っとくと、こん刀に斬られた傷は治りも遅くなる。喉が治るよりもきっと、ブッファが死ぬ方が早いで」
そしてセンリは身を翻し、素早くカナギの方へ向かった。
雷魔法の邪魔が入らなくなったカナギは、ブッファの鎌を避けながら確実に相手の身体の傷を増やし、その動きを鈍くさせていた。空間を斬る刀もすっかり使いこなし、ブッファの足を度々すくい上げては体勢を崩させている。
「あああ! 当たらない! なんで!?」
ブッファは腹立たしそうに喚いた。カナギはそれでも顔色一つ変えず、避けては打ち込むのを繰り返しながら言った。
「鎌の攻撃は独特だけど、だからこそ読みやすい。刀や剣と違って強力な戦法がいろいろ確立しているわけでもない。だから結局、攻撃の筋が見える人間にとっては対策が容易なんだよ」
「なるほど! じゃあカナギも斬らないで!」
「いや斬るよ。試合だもん」
命の取り合いをしている間柄とは思えない会話に、思わずセンリは助太刀の足を止めてしまった。
「なあカナギ」
「ん?」
センリが話しかけると、カナギはブッファから目を逸らさないまま反応を返した。
「ブッファとの一対一、頼める?」
我ながら非合理的な頼みだと思った。普通に考えれば、セリアが動けないうちに二人きりでブッファを倒し、二対一に持ち込んだ方がいい。
しかしセンリはセリアと喋りたかった。自分たち以外に誰もいない、この闘技場の中で。
「分かった。ブッファ、しばらく俺と遊ぼうな」
「うん!」
カナギはすっかりブッファの扱い方を心得たようだった。戦闘以外の面でも上手く立ち回ってくれそうなカナギを残し、センリはまた敏捷にセリアの元へ戻った。
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