第201話 閑話:とある少女の物語28




「あなた!オデット様に向かって何という――――」

「待ちなさい」

「オデット様!この娘、非礼が過ぎます!」

「待てと言っているのです!」


 伯爵令嬢オデットが初めて声を荒らげた。

 彼女は取り巻きを制し、体を私に向けながらも周囲の様子を探っていた。

 そして今更ながら、周囲の雰囲気がおかしいことに気づいたようだ。


(どうして周囲の視線が自分に向いているのか、理解できないのでしょう?)


 彼女の中にある構図――――伯爵令嬢である自分が無礼な名誉貴族の子女を罰したという状況なら、周囲の目は否定的な印象を伴って名誉貴族の子女である私に向けられなければならない。


 けれど、実際はそうではない。

 周囲の子女たちの視線は私とオデットたちの間を行き来しており、それぞれに込められた感情も彼女たちの予想を裏切っている。


 私に向けられるのは畏怖の視線。

 オデットに向けられるのは憐れみの視線。


 私の周りにいた子女たちは多くが貴族学校の学生だ。

 彼らはオデットが伯爵令嬢であることを知っており、それでもオデットよりも私の方を恐れている。


 それが意味するのはどういうことなのか。

 彼女は、ようやく気付き始めた。

 

「……あなたの名を聞いていませんでしたね」

「名を尋ねるなら、自分から名乗るのがマナーじゃない?相手が上位者なら、それは最低限守るべき礼節というものよ」

「…………」


 オデットの表情が強張る。

 取り巻きたちも、ここに至ってようやく何かがおかしいことに気づいたようだ。

 名乗っていないとはいえ、会話の節々からオデットの身分は明らかになっている。

 そのオデットを前にして見下すような言葉を連ねる私に、どう接するべきか迷っていた。


「たしかに、そのとおりですね」


 困惑から立ち直っていない取り巻き立ちとは違い、オデットは表面上の冷静さを取り戻していた。

 先ほどまでの上からの物言いは棚に上げ、一旦は私を上位者に見立てて接することに決めたらしい。


「私はオリオール伯爵が長女、オデット・フォン・オリオール。貴族学校の五年生で、青華会の副会長をしています。どうぞお見知りおきを」


 青華会とやらは生徒会のようなものだろうか。

 ドレスの裾を摘まんで頭を下げる姿は洗練されていて美しい。

 取り巻きを二人も連れて歩くだけのことはある。


 きっと、貴族学校でも多くの学生から憧れの存在として尊敬の眼差しを向けられていることだろう。


「…………」


 オデットは自分が名乗った後、私に名乗りを催促することはしなかった。

 催促してきたらその非礼を咎めるつもりだったから、その対応で正解だ。


 第一印象は傲慢な貴族令嬢の枠を出ていなかったけれど、こうして会話してみると本当によく教育されていることがわかる。


「残念だわ」

「何が、でしょうか?」

「今夜はあなたにとって、素敵なパーティになるはずだったのに」


 視界の端に映った人影が十分にこちらに近づいていることを確認して、私はオデットに手のひらを向けた。

 私が何をしようとしているか、私のことを知っている人間なら理解できるだろう。

 

 この場に近づいていた人影も、それを理解できる人間のひとりだった。


「エーレンベルク卿!!」


 パーティ会場には相応しくない、悲鳴のような呼び声。

 その声を受けて、私はたった今その人の接近に気が付いた風を装い、そちらへと顔を向けた。


「ご機嫌よう、オリオール伯」

「はあっ……はあっ……。歓談中、失礼する」


 初老の伯爵は息を整える時間も惜しんでこの場に割り込んできた。

 事が起きてから動いたとすれば早すぎる。

 きっと私とオデットが穏当に会話していた時点で、近くにいた何者かがオリオール伯の下へ情報を届けたのだろう。


 彼の後に続き、貴族や付き人が続々とこの場に集まってきた。 

 私はそんな彼らに向けてにこやかに微笑む。


「何か急ぎの御用があるのでしょうけれど、少しだけ待ってくださらない?今、私に向かってグラスの中身をぶちまけた無礼者を処刑するところなの」

「な…………誰が、そんなことを……」


 駆け付けた者たちはオデットたちの父親と、おそらく兄弟たちだ。

 私の言葉を聞き、私と私の傍に侍るレオナの有様を見比べて顔面蒼白になっている。


 特に、取り巻きの父親と見られる男性二人は挙動不審で、今にも気絶しそうな雰囲気すらあった。


「名前は聞いたはずだけど、忘れてしまったわ。あなた、誰だったかしら?」

「…………」


 クスリと笑いながらオデットに問う。

 彼女は感じているはずの怒りや悔しさを、拳を握り締めて押し殺していた。


 彼女はもう完全に状況を理解している。

 自分の父が呼んだエーレンベルクの名を、貴族の端くれである彼女が知らないはずもない。

 だから、この場で自分が何を言おうと不利にしかならないと知って、屈辱に耐えている。

 

 そしてオデットの様子から主犯の存在は明らかとなった。

 最悪の予想が現実のものとなったオリオール伯爵は、どうにかして娘の処刑を回避すべく、時間稼ぎに打って出るしかない。

 状況を把握しないことには、私と交渉することもままならないのだから、当然の判断だ。


「待ってくれ!どうか、どうか少しだけ時間をいただきたい!」

「あら、そう?オリオール伯がそこまでおっしゃるなら、その娘は後回しにしましょうか」

「……ッ、ご配慮、感謝する。オデット、こちらにきなさい」


 思いのほか簡単に矛先が逸れたことを安堵するオリオール伯爵の背後で、自分の家族が主犯ではなかったことに安堵していた貴族たちに緊張が走る。


「先に……そうね、そこの頭の悪そうな子。こちらへおいでなさい」

「――――ッ!?」


 私が指さしたのは取り巻きAだ。

 真っ向から馬鹿にする言葉を投げつけられても、恐怖以外の感情は湧かないようで、助けを求めるように父親の方を見つめている。


 彼女の父親は娘の視線を受け、意を決して前に出た。

 

「エーレンベルク様……うちの娘が、何か不快な思いをさせてしまったのでしょうか?」


 取り巻きAの父親は、エルノー子爵だった。

 娘を庇うようにしながらも、戦々恐々する内心を隠すことはできていない。


「平民同然の小娘が図に乗るな。そんな意味合いの言葉を吐きかけられたら、不快にもなるわ」

「――――ッ!?」


 自分の娘の想像を絶する暴言に、言葉も出ないようだ。

 しかし、私は追撃の手を緩めない。


「その子は私のことを名誉貴族の子女か何かと誤解しているようだったけれど。従来貴族でない宮廷魔術師や名誉貴族を見下すような発言は、到底許容できないわ。従来貴族家以外は貴族にあらず……エルノー子爵家では、そういう教育をしているのかしら?」

「なっ!?違います!そんなことは決して!!」

「そう?けれど、私が罵られたのは事実なのよね」


 私はわざとらしく溜息を吐いてみせる。

 状況を把握したエルノー子爵は、素早かった。


「申し訳ございません!どうか、平にご容赦を!」

 

 自分の娘の頭を掴み、跪かせ、自分も一緒に頭を下げた。

 周囲に貴族たちがひしめく煌びやかなパーティ会場で、自らの権威が地に落ちることも躊躇わない。

 

 無様ではある。

 ただ、なりふり構わない謝罪をする勇気は少しだけ好感が持てる。


 けれど――――


「帝国を支える貴族に、馬鹿は必要ないわ。馬鹿しか育てられない貴族家もね」

「…………」


 プライドの高い貴族なら、激怒しても不思議ではない。

 しかし、ここまで虚仮にされても、エルノー子爵は反抗心を見せなかった。

 

 彼を含め、多くの貴族は知っているのだ。

 迷宮都市で3年前に起きた惨劇を。

 最年少の宮廷魔術師が、自分より下位の貴族の処刑を躊躇わないことを。

 

 私が迷宮都市を捜索していた3年前、公爵の使者として私の前に現れてになった男爵は一人や二人ではない。

 私が伯爵相当の第六席となった今、子爵である自分がそうならないと楽観することは不可能だった。


「…………」


 娘と共に無言で頭を下げ続けるエルノー子爵を見下ろして、思案する。


(こんなところかしら……?)


 これ以上、この親子をこき下ろしても利益はない。

 そう判断した私は、彼らに救いの言葉をかけることにした。


「ああ、けれど……皇帝陛下の誕生パーティで焼死体を作るのは、流石に良くないかもしれないわ」

「……ッ」

「そうね……。あなたがどれだけ帝国の役に立てる貴族なのか、私のお師匠様に説明なさい。あなたたちをどうするかは、お師匠様の話を聞いてから決めることにするわ」


 面倒な調整は魔女に丸投げだ。

 エルノー子爵には家の存続をかけて魔女と交渉してもらうとしよう。

 

 きっとエルノー子爵は文字通り命懸けで、自分たちがどれだけ私たちの役に立てるのか説明してくれるだろう。


「ッ!はいっ!必ず、明日にでも伺います!」

「お師匠様に伝えておくわ。今日は、もう結構よ」


 エルノー子爵は震える娘の腕を掴んでを強引に立ち上がらせ、後ろに下がった。

 ドレスからしてはいけない音が聞こえたから、彼女が今夜のダンスに参加することは難しそうだ。

 もっとも、それはドレスが無事だったとしても同じことかもしれないけれど。


「エーレンベルク様、この度はうちの娘がご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。心よりお詫びしたします」


 私の声が掛かる前に自ら頭を下げにきたのは、取り巻きBの父であるユゴー子爵だ。

 エルノー子爵が私に許しを乞うている間に、娘と話を済ませていたことは私も気づいている。


 父に無理やり頭を下げさせられる友人の無様を間近で見たからだろう。

 ユゴー子爵の娘も、自ら膝をついた。

 

「あなたは……」


 頬に手を当てて、思案顔をつくる。


(こっちの子からは、特に何も言われてないのよね……)

 

 他の二人の行動が強烈すぎることもあって、ユゴー子爵令嬢の非礼は目立たない。

 実際、彼女がやったことといえば私を名誉貴族の娘と誤解したくらいのもので、処刑の理由としては弱すぎる。


 ならば――――


「ユゴー子爵、頭を下げる必要はないわ」

「えっ?」


 苛烈な罵倒を覚悟していただろうユゴー子爵が、意表を突かれて間抜けな声を上げた。


「あなた、自分が何をしたかお父様に話したの?」

「は、はい……。この度は――――」

「私は、あなたからそこまでしてもらうような非礼を受けた記憶がないわ。上位者を相手にしているからといって、必ずしも謙る必要はないのよ?自分に非がないときは、自信を持って顔を上げなさい」

「ッ!」


 私が差し出した手を恐るおそる握り返し、ユゴー子爵令嬢は立ち上がる。

 自分が許されたことを信じられない。

 そう言いたげな顔に、私は優しく笑いかけた。


「まあ、あなたにひとつ忠告するとしたら、相手のことをよく知らないときは下手なことは言わない方が賢明ということね。私を名誉貴族と誤解したことは、私の言い方も悪かったから、今回は聞かなかったことにするわ」

「はい…………ご指導、ありがとうございます」


 沙汰を受ける前よりもオドオドしている娘を下がらせ、ユゴー子爵に声をかけた。

 

「目下の者に対しても礼を尽くすことができるのは、ユゴー子爵の教育の賜物なのでしょうね。誇ると良いわ」

「ッ!ありがとうございます!」


 満面の笑みを浮かべて私と握手を交わすユゴー子爵。

 

 しかし、気づいているだろうか。

 彼の後ろからその背を見つめるエルノー子爵の瞳が淀んでいることを。


(これで、魔女の交渉もやりやすくなるでしょう?)


 何らかの方法でこの状況を観察しているはずの魔女を思い、クスリと笑う。


 帝都の勢力争いに加担せず中立を保っている貴族たちも、自分の家を守るために大なり小なりまとまった規模の勢力に所属している。

 オリオール伯爵を筆頭とする勢力も中立派グループのひとつであり、その中核を構成するのはエルノー子爵とユゴー子爵だ。

 

 しかし、その両者は片方が大恥をかき、片方は株を上げた。

 ユゴー子爵がエルノー子爵を害したわけではないけれど、人間の感情はそう単純ではない。

 

 両者が軋轢を抱えたまま、同じ勢力に所属し続けることができるか。

 

 それは魔女の力量と――――


(あなたの手腕にかかっているのだけどね、オリオール伯?)


 そのオリオール伯爵も、この後のことをどう乗り切るかで頭がいっぱいだろう。

 もしオリオール伯爵がこの場で起きたことと無関係であったなら、あるいはこの場で裁かれた後だったなら、彼はエルノー子爵とユゴー子爵の軋轢を解消することができたかもしれない。

 けれど、今のオリオール伯爵が関心はオリオール伯爵家と自分の娘の処遇だけに向けられている。

 これではエルノー子爵の様子に気づくことは難しい。

 気づいたときにはエルノー子爵が魔女の毒牙にかかった後。

 残念ながら手遅れだ。


 いつまでたっても控室に戻ろうとしないレオナに紅茶のお代わりを淹れさせ、一口含む。

 さあ、ここからが本番だ。


「さて、オリオール伯。娘とのお話は十分かしら?」

「……時間をいただいたこと、感謝する」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で、オリオール伯爵は応じた。

 

 オデットから事情を聞く時間は十分にあった。

 ひとつの派閥をまとめあげる上位貴族ならば、娘がまんまと挑発に乗ってしまったということも、それを私が意図してやったということにも気づいただろう。


 しかし、覆水盆に返らず。

 オリオール伯爵が悔やんでも、レオナのドレスの染みが消えることはない。


「まず、オリオール伯爵家として、今回のことをどう考えているのかを聞かせていただけるかしら?」

「……娘のオデットが、大変な失礼をした。当家として、エーレンベルク卿には十分な詫びをしなければならないと考えている」


 娘がやらかした事の重大さと比較して、オリオール伯爵の物言いは軽い。

 これは宮廷魔術師第六席と伯爵家当主が同格であることが理由だ。

 

 もし、侯爵家出身で自身も侯爵待遇である魔女のような格上が相手なら、先ほどの二人ほどあからさまでなくとも謙るのはひとつの方法だった。

 しかし、同格の私相手ではそうはいかない。

 過度に謙る姿勢を見せれば、私との上下関係が固定化されかねない。

 ひとつの勢力を率いる立場として、求心力の低下も無視できないだろう。


 さりとて、この状況で謝罪もないならば、それは私に対する宣戦布告に等しい。

 領地持ちの公爵相手ですら暴虐の限りを尽くす魔術師を相手に、真っ向から暴力で争うなど正気の沙汰ではない。

 

 それに――――

 

「そうね。伯爵令嬢ごときが現役の宮廷魔術師にここまで非礼を働くなんて、前代未聞ですもの。私のお師匠様が聞いたらどんな顔をするか、今から楽しみよ」

「……もちろん、エーレンベルク卿の師匠であるドレスデン閣下にも、謝罪させていただくつもりだ」


 政治的な争いとなれば、魔女が出張ってくる。

 

 争えば勝ち目がないにもかかわらず、露骨に下手に出ることは難しい。

 オリオール伯爵は、非常に難しいかじ取りを迫られていた。


 だから――――


「その方が賢明ね。ああ、私への謝罪もお師匠様経由で構わないわ」

「…………。では、そうさせていただこう」


 だから私が追及の手を緩めたことを、オリオール伯爵は意外に思ったことだろう。

 多くの貴族が集う場で私に対して適切な水準の謝罪をすることと、非公開の場で魔女に謝罪することでは難易度が桁違いだ。

 頷く他に手がない提案に頷いてしまってからも、オリオール伯爵の警戒は緩まない。


 もちろん、それで正解だ。


「さて、オリオール伯爵家との話これでおしまいね」


 私の言葉には、ふたつの意味が含まれている。


 ひとつはオリオール伯爵家をこれ以上追及することはないということ。

 

 もうひとつは――――


「オデット、だったわね。おいでなさい」


 彼女自身を、まだ私が許していないということだ。


「…………」


 オデットは自分の足で私の前に出た。

 聡明な彼女はここまでの私とオリオール伯爵家の話し合いが、自身が受ける沙汰を踏まえて軽く済まされていることを理解している。

 これ以上の迷惑を家にかけないために、これから自身が受ける屈辱に耐える決意を固めたのだろう。


「言いたいことがあるなら、聞いてあげるわ」


 そんな彼女を、私は遠慮なく辱める。

 高潔な伯爵令嬢という綺麗な肩書は、レオナのドレスを汚した彼女には似合わないから。


「エーレンベルク様のお顔を存じ上げなかったとはいえ、私の数々の非礼が許されるとは思っておりません。何なりと罰をお与えください」


 震えや怯えは見られない。

 憎しみや悔しさも押し隠し、罪人として首を垂れる姿さえ様になっていた。


「心がけは見事なものね。お望みどおり、あなたには罰を与えましょう。けれど、その前に――――」


 クスリと、私は嘲笑う。


「『貴族に連なる者として、自身の身分や場の格式に合わせた振る舞いが求められる』……だったかしら。無位無官の小娘の分際で、宮廷魔術師たる私に無礼を働いた愚か者……それに相応しい振る舞いとやらを、私に見せてもらえる?」


 罪人は、跪いて首を垂れろ。

 誰が聞いてもそうとしか聞こえない言葉を受けて、オデットは一歩前に踏み出し、両膝をついた。


「申し訳……ございません」


 彼女は両手をつき、深く頭を下げた。

 綺麗に編み込まれた銀色の髪が、床に落ちる。


 彼女が小さく震えていることに気づいて、思わず頬が緩む。

 これから自身に屈辱を思えば、平静を保つことはやはり難しいのだろう。


 私の足元には、跪く罪人。

 私の傍らには、エプロンドレスを汚された私の付き人。

 私の右手には、わざわざ淹れなおした紅茶が入ったティーカップ。


 処刑の準備は、すでに整っていた。


 最後に一口、ティーカップに口を付ける。

 

「ぬるくても十分美味しいのは、いい茶葉を使っている証拠よね。そう思わない?」


 オデットの髪が、首筋が、ドレスが、茶色の液体で濡れていく。

 少しずつ注いだけれど、ティーカップに入る紅茶の量など高が知れている。

 楽しい時間は、あっという間に終わりを迎えた。


「もういいわ。楽になさい」

「…………」


 最後の一滴までオデットの髪に染み込ませてから、私はオデットに声をかけた。

 彼女は、顔を上げることができないでいる。

 

「お望みどおり、罰を与えてあげたわ」

「あり……がとう、ござい…………」


 小さな声は、最後は掠れて聞こえなかった。

 けれど、言い直させるような意地悪はしない。

 

「そうそう。控室で自分の言動を振り返れなんて、私は言わないから」


 私は彼女に、心からの笑顔で語り掛けた。

 私と彼女との間にわだかまりが残っていないことを、この場に居る全員に知らしめるために。


「だからあなたは好きなだけ、パーティの続きを楽しみなさい」


 罰を受けた彼女は、もう許されたのだから。



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