第182話 黒鬼エンドレス1




 黒鬼の生存を告げるドロテアの報告を受けて、俺はしばらく言葉を発することができなかった。

 倒したはずの黒鬼が生きていることに驚いたから――――ではない。


「………………」


 嘘と裏切りによって、大切なものを傷つけられた記憶はまだ新しい。


 相手の言うことを鵜呑みにすべきではない。

 相手が誰であれ、油断は禁物だ。


 俺は足元に置いていた剣を拾い上げ、考えを巡らせた。


(俺が遭遇した黒鬼どもは、間違いなく討伐した……)


 それは俺の荷物袋に入っている魔石が証明している。

 黒鬼が魔力の塵になるところも、俺はたしかにこの目で見た。


 しかし、ドロテアたちは現場で黒鬼を見てきたという。

 

(嘘を……?でも、そんなことは確認すれば簡単にバレるはずだし、そもそも何の意味が……)


 黒鬼のような比較的強力な妖魔が雑草のように次々と生えてくることはない。

 まして、昨日の今日だ。

 俺が持つ妖魔に関する知識を前提とすれば、それはあり得ないことだった。


 シナリオを描いている奴が誰かも、そいつの目的もわからない。

 ただ、ろくでもないことが起きていることだけは間違いなかった。


「昨日見回った時は、たしかに何もいなかったわ」

「それは夫からも聞いたし、疑うつもりはない。けれど、実際に今日あの場所に妖魔がいた。それは事実だ」


 俺が黙考している間にエルザとドロテアの話し合いが進んでいた。

 ドロテアの声が冷静さを保っているからそう聞こえるだけかもしれないが、エルザがドロテアに対して妙にとげとげしい。

 以前は歳の離れた姉妹のようだったのに、今は見る影もなかった。

 このあとすぐにエドウィンが駆け付けてエルザも口を閉じたが、その様子は何となく俺の心に引っかかった。




 話し合いの末、その日のうちに事実を確認すべきという俺の主張が受け入れられ、昨日の3人にドロテアを加えた4人で、俺たちは再度現地を訪れた。

 現地に到着したのは日が傾き始めてしばらく経った頃で、結論を言えばドロテアの言うとおりだった。

 3体の黒鬼が昨日の焼き直しのように岩場を闊歩する姿を見せられれば、何かの間違いだと叫んでも意味がない。

 昨日ここにいたモノと同一個体なのかどうかも区別がつかず、4人で話し合っても原因はわからぬまま。

 だから俺は理解できない現象を解明することを諦め、最も単純な解決策を選択した。


 そこに妖魔がいるなら、狩ってしまえばいい。


 それ以外に方法が見つからないからという消極的賛成を得た俺は、昨日と同様の手順で3体の黒鬼を始末した。

 黒鬼の強さも魔石の大きさも昨日の黒鬼たちと大差なく、最後の1体が黒い煌めきとなって空気に溶けても原因は判明しなかった。

 俺たちはまだ日があるうちに岩場の巡回を終え、黒鬼が残っていないことを確認してから帰途に就いた。

 

(これで終わるだろうか……?)


 帰り際、岩場を振り返りながら考える。

 何事もなければ明日の馬車で村を離れる予定だったが、これでは馬車が来たから終了というわけにもいかない。


「…………」


 首の後ろに違和感を覚え、空いている左手で触れてみる。

 グローブが肌と髪、服の襟に触れた。

 おかしいことは何もない。

 それでも、違和感は消えてくれなかった。


「…………」


 得体の知れないモノに、背後から襟首を掴まれた。


 目を背けようとした過去に、逃がさないと言われた気がした。





 ◇ ◇ ◇





 俺が村を訪れてから、今日で5日目。

 

 昼下がり、ギルドに戻って簡単に水浴びを済ませ、一息ついた頃。

 エルザに声をかけられてギルドのロビーに顔を出すと、そこにはエドウィンとエルザと冒険者4人、この村の冒険者ギルド関係者が全員そろっていた。

 

 俺も空いている席に腰を下ろすと、エドウィンが重々しく口を開いた。


「全員そろったな。集まってもらった理由は他でもない。例の妖魔の件だ」


 数人が神妙に頷いた。

 結局、俺が毎日現地に赴いて黒鬼を一掃しているにもかかわらず、奴らはどこからともなく湧いてきて、翌日には何事もなかったかのように岩場をうろついていた。


 荷物袋の魔石の数は今日の分を含めて13個。

 稼ぎとしては上々だが、このままでは埒が明かない。


「昨夜、ダニエルとオーバンに交代で岩場の監視をしてもらった。先ほどその報告を受けたのだが……ここにいる皆にも説明してくれ」

「わかりました」


 全員の視線を受け、エドウィンから説明を引き継いだダニエルが話し始めた。

 

「結論……と言っても推測まじりではあるけれど、あの妖魔の出現は自然のものではない。私はそう思っている」


 テーブルを囲む者たちが頷いた。

 俺たちが持っている知識ではあり得ない妖魔の連続出現。

 実際にそれが起きているのだから、自然ではない何かの力が働いていることは疑いようもない。


「自然じゃない……というと、誰かが連れてきたということ?」

「半分正解。でも、黒鬼をそのまま檻に入れて運んできたというわけではないよ」

「どういうこと?」

「順に説明するよ。まず、私は荷物を岩場に運び込む人影を見た。数は3人で、荷物はそれほど大きくなかったと思う。その人たちはすぐにその場から離れて、もと来た方……北の方へと帰っていった。そして、しばらくすると黒鬼が岩場をうろつき始めた」

「それは……」


 エルザが呟いた。

 その顔は困惑に彩られているが、おそらく俺も似たような表情をしているだろう。


 なぜなら、それが意味するのは――――


「あの黒鬼どもは、その荷物から生まれたと?」

「まだ可能性の段階だよ」

「それは人間が妖魔を造ったってことだ。事実ならとんでもない話だぞ」


 妖精と同様、魔力の多い場所で自然発生するとされてきた妖魔たち。

 それを人為的に造る技術が確立されたとなれば、その影響は計り知れない。


 妖魔を造るその過程で妖魔の発生条件を詳細に把握できていれば、近々妖魔が発生しそうな場所の特定ができるようになる。

 そうなれば、あらかじめその場所に戦力を差し向けておくことで、発生と同時に妖魔を撃破することが可能になり、妖魔の突然発生で犠牲になる人間は大幅に減らすことができる。

 魔力の濃い地域では非常に喜ばれるだろう。


 造られたのが小動物同然の妖魔なら、話はそれだけで終わったかもしれない。

 だが、それが黒鬼となれば話は別だ。


(もし、造られた妖魔自体が戦力として運用されるようになったら……)


 非戦闘員の一般人など言うに及ばず、冒険者として一人前と言われるC級冒険者であっても、全員が黒鬼を倒せるわけではない。

 そんな黒鬼を10体、20体、あるいはそれ以上まとめて投入されたらどうなるか。


 妖魔は使役できないというのが現在の通説だが、造られた妖魔がそうであるとは限らない。

 仮に指示に従わない妖魔であっても、まとめてけしかけるだけで十分だ。

 騎士団のようなまとまった戦力を抱える都市はさておき、保有戦力の乏しい街や村なら、黒鬼が5体もいれば簡単に滅ぼされてしまう。


(俺が単独でさばけるのはおそらく4体か5体が限度。『黎明』が全員そろった状態でも一度に10体以上は相手にしたくないな……)


 トレインからの逃げ撃ちが許されるならこの限りでないが、防衛すべき街や人々を背後に庇った状況で正面から戦線を支えるとなれば、全く手が足りていない。


 となれば、方法はひとつだ。


「ひとつの村が処理できる話じゃない。すぐに都市の冒険者ギルドに報告すべきだ」


 もう個人の依頼で片付く話ではない。

 昨年、南の火山方面で発生した大群の再来だ。

 しかも黒鬼の群れとなれば、被害は想像を絶する。

 最悪、都市から北東方面の街や村が全滅する恐れすらある。


 しかし、会議に参加している者たちの反応は芳しくなかった。


「本来ならばそうしたいところだ。しかし、現状では難しいだろう」

「難しい?どういう意味だ」


 エドウィンの言葉に、俺は眉をひそめた。


「小さな村とはいえギルドマスターをやってるあんたに言うまでもないだろうが、都市のギルドには妖魔の討伐を依頼するわけじゃない。事実を報告するだけだ。それが都市を揺るがすような報告なら、あとは都市のギルドが勝手に対処してくれる。おそらく都市に所属する冒険者に緊急依頼が出るだろう。招集された大勢の冒険者が、この事態に対処することになるはずだ」


 昨年の緊急依頼では、小型の小動物じみたものも含めて千を超える魔獣が討伐されたと発表された。

 逆に言えば、それくらいの危機でなければ緊急依頼は出ないということであり、緊急依頼のハードルが高いというのは間違いない。


 ただ、危機の度合いを測る指針は必ずしも数だけではない。

 黒鬼の脅威度は冒険者ギルドも把握しているはずで、それが群れをなしたと聞けば都市の冒険者ギルドも重い腰を上げるだろう。


「この村からすれば、金を掛けずに村を守るまたとない機会だぞ?何が難しいんだ?」


 俺の問いに答える者はない。


 エドウィンは難しそうな顔で目を閉じ、黙考している。

 ほかのメンバーも似たようなものだ。


 隣に座ったエルザに視線で尋ねると、彼女は困ったように微笑んだ。


「アレンの言うことは間違ってないわ。でも、それにはひとつ問題があるってこと」

「問題……?」

「うん。都市の冒険者ギルドに、どうやってこの話を信じてもらうかってことね」

「信じるも何も……ああ、そういうことか……」

 

 遅まきながらエルザの言わんとするところを把握した俺は、小さく舌打ちする。

 

 俺がダニエルの話を信じたのは、魔力が多いわけでもない土地に黒鬼が5日連続で出現したという従来の知識ではあり得ない状況を自分自身で体験したからだ。

 そうでもなければ妖魔が人為的に造られたという情報も、何でもない場所に妖魔が湧き続けるという情報も、きっと信じることはできなかった。

 

「今回私とオーバンが確認できたのは、何者かが岩場に運び込んだ荷物が妖魔の発生に関係しているかもしれないということだけだ。都市の冒険者ギルドにこのことを信じてもらうには、もう少し具体的な情報が必要だと考えている」

「妖魔を出現させる方法を解明するとまで行かずとも、荷を運んだ者たちの正体にアタリを付けるくらいは必要になる。そこで、だ…………悪いが、この件の調査を頼みたい」


 ダニエルの説明を引き取ったエドウィンが告げる。

 視線はまっすぐに俺へと向けられていて、その言葉を誰に向けたのかは明らかだった。


「俺が受けたのは討伐依頼だ。調査なら、地理に明るい地元の冒険者を使えばいいだろ?」

「もちろんそのつもりだが、今回の調査は危険度が高い上に村にも戦力を残さねばならん。優秀な冒険者は多い方がいい」


 温度は様々だが、冒険者組の視線も俺に集中している。

 誰も反応を示さないところを見ると、すでに冒険者の4人には話が通っていたようだ。


「依頼と言うなら、条件くらい示したらどうだ?報酬どころか達成条件すら明確でない調査依頼なんて受けるのはバカだけだ」

「言いたいことはわかる。しかし、達成条件を示すにも手がかりが必要だ」

「つまり、犯人を捕まえるか、妖魔の創り方を見つけるまで調査を続けろってのか?それはまた途方もない話だ。さぞかし高額な報酬が用意されてるんだろうな?」

「用意できる報酬は多くない」

「そうか。なら、話は終わりだ」

 

 俺は席を立った。

 意図してやったわけではないが、俺が使っていた椅子がガタリと大きな音を立て、交渉決裂の印象を深いものにする。


「アレン……」

「安心しろ。岩場の黒鬼の駆除は、もうしばらく続ける。ただ、一度都市に戻ってギルドに報告してからだ」


 不安げなエルザに一声かけてテーブルに背を向けると、早速頭の中で今後の予定を計算し始めた。


 今から準備をして走れば日暮れ前に次の街にたどり着ける。

 早朝に出る足の速い魔導馬車を捕まえれば明日中に都市に戻れる。

 フィーネに話を通せば緊急依頼――――は無理でもギルドから調査依頼くらいは出してもらえるだろう。

 それを『陽炎』のような探索向きのパーティに受けてもらえれば上出来だ。


 『陽炎』のリーダーであるアーベルとは、引きこもりを脱して間もなくギルドのロビーで再会した。

 そのときは散々に頭を下げられて困惑したものだが、一回奢ってもらってチャラにした後は見かければ気軽に声をかける程度の関係を保っている。

 気軽に連絡を取るためのツールがないのが残念だが、ギルドに伝言でも頼んで直接状況を説明すれば受けてくれるかもしれない。

 

 背後から声が投げかけられたのは、そんなことを考えていたときだった。


「調査には、エルザを同行させるつもりだ」


 足が止まる。

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 

 意味を理解した瞬間、頭が沸騰するような怒りが沸き起こった。


「おまえっ!エドウィン!!」


 思わず振り返って、怒声を上げた。

 数日前に俺と再会したときの動揺はすでになく、俺が凄んだくらいではビクともしない。


 ダシに使われたエルザは言葉もなく、ただ顔を伏せている。

 実の父親に人質扱いされた彼女の心境は察するに余りある。


「事実を言ったまでだ」

「…………お前、最低だよ。親としても、ギルドマスターとしてもな」

「最低で構わない。それで村を守れるなら安いものだ」


 村を守るためなら個人の感情を簡単に切り捨てる。

 自然と村を追放されたあの日のやり取りが思い出され、口の中に苦いものが広がった。


「話を続ける。調査にはオーバンとアデーレも加わってもらう。ダニエルとドロテアは村で待機だ」

「…………」


 とっさに言葉が出なかった。

 言いたいことが多すぎると、人間は言葉を話せなくなるらしい。


 よりにもよって、オーバンとアデーレだ。

 あの日と同じ面子で、よく知りもしない場所へ向かえと言う。

 俺の神経を逆撫でするためにわざとやっているのかと疑うほどだ。


 俺が抗議しようとエドウィンに向けて一歩を踏み出すと、それに先んじるように、ここまで沈黙を守ってきた男が声を上げた。

 

「頼む!!一度だけ、チャンスをくれ!!」


 その男――――オーバンは席を立ち、テーブルを回って俺に近づくと、両膝をついて深々と頭を下げた。

 

「お前の力なら、きっとこの状況を打開できる!どうか、村を守るために力を貸してくれ!!」

「……よく俺に声をかけられたな。その図々しさは尊敬するよ」


 俺がオーバンを見下ろす視線は、きっと鋭く冷たい。

 こいつがやったことを思えば当然のことだ。

 

 それだけにとどまらず、過去のことを棚に上げて頼み事までしようというのだから、呆れてものも言えなかった。


「許してくれなんて言えねえ!気が済むなら好きなだけ殴ってくれても構わねえ!後生だ!このとおりだ!!」


 オーバンは額を床に擦り付けて助力を懇願した。

 その横にアデーレも並んで頭を下げる。


 しかし、俺の答えは変わらない。


「はっきり言おう、お前らじゃ力不足だ」

「……ッ」


 オーバンの肩がピクリと動く。

 這いつくばるオーバンの横を素通りし、不愉快な光景を視界から外した。


 そのままゆっくりとロビーを歩きながら、俺は続ける。


「仮に、俺が調査に参加するとして。調査対象は妖魔を造る方法を知っているかもしれない連中で、こちらは特に調査が得意でもない冒険者が3人……当然、戦闘になる。黒鬼が何体いるかわからない場所に、黒鬼1体倒せない前衛と自分の身も守れない後衛を連れて、どうしろってんだ?」

「お前、そんな言い方――――」

「事実を言ったまでだ。誰かさんを見習ってな」


 口を挟むドロテアには見向きもせず、エドウィンを睨みつける。


「毎日3体の黒鬼を補充できるとしたら、も相応と見込むのが妥当だ。少なめに見積もっても10体は下らないだろう。となれば、俺と同格の……最低でも1対1で黒鬼に勝てる前衛が2人は欲しい。多数の黒鬼を殲滅できる高火力の魔法使いがいるならその方がいいが、どちらもここにはない。これじゃ、話にならない。反論があるなら聞いてやる」

「ふむ……」

 

 エドウィンは腕を組み難しい顔をしている。

 村を守ることが至上の目的なら、成算のない調査を実行することはないだろう。

 それならば冒険者全員を村に留め置いて迎撃戦を企図した方がまだマシだ。

 もちろん、それとて援軍がなければ早々に崩壊するのだろうが。


「アレンをここに残してエルザを都市に派遣するのではどうだ?」

「あんたはエルザを派遣しても都市のギルドが動かないと判断したからこそ、調査を言い出したんじゃないのか?」

「…………」


 無言で小さく溜息を吐く仕草が、俺の問いかけに肯定を示す。

 エドウィンが都市の冒険者ギルドを動かすことができるなら、こんな話にはなっていないのだから当然といえば当然だ。


(というか、一応冒険者ギルドのマスターなのに他のギルドに顔が利かないってのは何なんだ?)


 不思議なことに、事ここに至るまでこの村の冒険者ギルドと都市の冒険者ギルドが連携している様子は全く見られなかった。

 冒険者ギルド同士が連絡をとるための魔道具とやらもここにはないようだし、これでは何のために村にギルドを置いているのかわからない。


 まあ、それは一旦置いておこう。

 ここで冒険者ギルド同士の関係を突き詰めても事態が好転しないことは明らかだ。

 今、必要とされるのは具体的な策であって、俺の好奇心を満たすことではない。

 好奇心の方は、後々フィーネにでも聞いてみれば十分だ。


「諦めろ。俺自身が都市のギルドに報告するほかに手段はない。俺なら門前払いされることはないし、最悪でも調査隊となるパーティを募集するくらいのことはしてもらえる」

「だが、それでは……」


 エドウィンは、なおも食い下がる。

 もう具体的な代案があるわけでもなく、ただ命綱である俺が村から離れることに怯えているだけだ。

 そんな情けない姿に、先ほどから溜まっていた苛立ちも限界を迎えつつあった。


 それすらできないなら、いっそ滅んでしまえ。


 そんな心ない言葉を吐き出そうとした、そのときだった。


「魔法使いが御入用ですか?」


 俺の背後――――冒険者ギルドの正面から声が聞こえた。


 困り果てたエドウィンが俺の背後に目をやった。

 俯いていたエルザが顔を上げた。

 冒険者たちも何事かとそちらに振り向いた。


 俺は声に背を向けたまま振り返らなかった。


 なぜなら、その声を俺は知っていたから。

 それは、この半年間で数えきれないほど聞いた声だったから。


「ああ、申し訳ありません。自己紹介が先でした」


 ブーツが木製の床を踏みしめる音が近づき、俺のやや左後方で止まった。

 外から吹き込んだ暖かい風が彼女の甘い香りを俺の下に運んでくる。


「初めまして。私はC級冒険者、ティアナ・トレンメルと申します。<氷魔法>使いで――――」


 そこで一旦言葉を切った彼女は、俺の左腕を抱きしめた。


「アレンさんが率いる『黎明』に所属しています。よろしくお願いしますね」


 そう言って、ティアは穏やかに微笑んだ。



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