第169話 フィーネの優しさ
「それで、パーティを率いての初遠征の感想は?」
冒険者ギルドのロビーから少しだけ奥に入った場所にある別室。
ソファーにゆったりと腰掛けたフィーネが、悪戯っぽく笑いながら尋ねた。
「大変だった……の一言に尽きる。実際、もうダメだと思った瞬間もあったくらいだ」
俺もフィーネの対面に深く腰を下ろし、ふかふかの背もたれに体を預けて天井を仰ぐ。
この別室でフィーネと話したことは何度もあるが、こうしてソファーに座ったのは数えるほどしかない。
フィーネに殴られたり、蹴られたり、胸倉掴み上げられたり、正座させられたり。
この場所であった出来事を思い出してみれば、俺は結構散々な目に会っている。
「たった2日間の護衛依頼で何言ってるのよ」
「大変だったのは護衛依頼じゃないんだよなあ……」
「なにそれ、どういうこと?」
「今日はそれを報告しようと思ってここに来たんだ。今回の指名依頼を持ち込んだ商人なんだが――――」
俺はエクトルや『鋼の檻』に関して遠征の間に見聞きした一部始終をフィーネに説明した。
エクトルが所属するアンセルム商会が、常習的に冒険者を拉致している可能性があること。
『鋼の檻』がそれに関係している可能性があること。
目的地の宿が襲撃犯に協力している可能性があること。
この話を冒険者に周知することで、少しでも被害を減らしたい。
そう思ってのことだったが――――
「全部“可能性”と“推測”ね」
「……残念だが、そのとおりだ」
状況証拠は完全に黒だと言っているが、それを知っているのは俺たちだけであり、物的証拠はなにひとつ残っていない。
『鋼の檻』にしても、本拠地は交易都市だから辺境都市の冒険者ギルドでは直接手出しできないし、冒険者パーティの不始末を冒険者ギルドが積極的に調査してくれるかどうかは疑問が残る。
「こんな情報じゃ、やっぱり難しいよな……」
そんな気はしていたから、ガッカリ感はさほど大きくない。
せっかく手に入れてきた情報が被害の減少に役立てられないという現実は、俺に歯がゆい思いをさせるには十分なものがあったが。
しかし――――
「そんなことないわよ?その辺の冒険者ならともかく、『黎明』のアレンの話ならね」
俺の分と自分の分、2つのカップに紅茶を用意したフィーネから返ってきたのは、意外にも前向きな回答だった。
「俺なら?」
「うん」
「ずいぶんと評価が高いんだな……?」
本心から意外だった。
サブマスターは例の件以来俺に対して好意的になったが、ギルドマスターには確実に睨まれているはずだ。
内部的に相当なマイナス評価を受けているか、楽観的に見積もっても問題児扱いされているものと思っていた。
「冒険者ギルドは良くも悪くも冒険者にとって公平な組織よ。同じ情報だって、実績のある冒険者の言葉なら無下にはしないわ」
「そういうものか」
「そういうものよ。今のアレンは、こうして別室でお茶が出てくる程度には認められてるってわけ」
何気なく口を付けたカップをじっと見つめる。
そういえば、ここのギルドでは働き者の冒険者でないとお茶も出てこないのだったか。
「……うん?もしかして、お茶が出るかどうかって、お前の気分次第じゃないのか?」
「D級下位までは十把一絡げだけど、それ以上の冒険者の待遇は個別に決められてるわ。お茶を出すか、担当を付けるか、別室を使用できるか……。詳しくは言えないけど、依頼の振り方にも決まりがあるのよ?」
「本当に世知辛いな……。そこまでやるのは面倒だろうに」
「そこまでできる程度の数しか、C級以上の冒険者がいないからというのも理由のひとつね」
「なるほど」
この都市は他の都市に比べて冒険者の数が少なく、ランクも低い。
それは辺境都市の構造的な問題――――C級上位にもなると、近場に丁度良く稼げる魔獣や妖魔が見つからなくなってしまうことに起因している。
この都市の冒険者たちは、C級になると効率よく稼げる場所を求めて帝都や交易都市、迷宮都市に遠征し、そのまま本拠地を移してしまうことが多いのだ。
「少しでも高位の冒険者にこの都市に残ってもらうための涙ぐましい努力なんだけど、効果のほどは疑問よね」
「まあ、本拠地選びにお茶の有無は関係ないだろうな……。ただ……そうかそうか、くっくっく……」
思わず頬が緩み、笑みがこぼれる。
数多くの冒険者を見てきたラウラに冒険者を諦めろと言われ、冒険者登録をするはずの記念すべき日に奴隷商に攫われるような俺が、冒険者ギルドに配慮されるほどの身分になったとは。
そう思うと、何の変哲もない紅茶も格別の味がするような気がしてくるから不思議なものだ。
「うわ、なんか気持ち悪い笑い方……」
「うるせえ。あ、お茶お代わり」
「もう……」
呆れたように笑いながら、フィーネはお茶を淹れてくれる。
その様子を見てさらに緩んだ頬を手で隠そうとしたとき、自分の手が目に入り、ふと昨日のことを思い出した。
「なるほど、昨日の受付の子はそういうことだったのか」
「昨日?」
「ああ。本当はさっきの報告を昨日するはずだったんだが、フィーネが忙しそうだったからさ。代わりに別の受付嬢に依頼の完了報告だけ手続してもらったんだ」
「そうだったの?まだあんたの記録を見てないから知らなかったわ」
フィーネは俺の専属というわけではないからか、引継ぎはされていないらしい。
「それで?それが今の話とどう繋がるの?」
「そのときの受付嬢……たしかリンダって言ったと思う。なんというか、やたら積極的だったからどうしてなのかと思ってたんだが、そういう事情を聞くと納得だなあと……」
「具体的には?」
紅茶の入ったカップとソーサーを持ったフィーネは、ソファーの背もたれに体を預け、足を組んだ。
なんだか少し不機嫌になった気がする。
「流石だって褒めるとか、ギルド内で有名だっておだてるとか……」
「……とか?」
フィーネの視線が若干厳しくなった。
これは藪蛇だったか、と後悔してももう遅い。
「あー……。手に触れたり、耳元でささやいたり……自分が窓口にいる時間を伝えたり……?」
「あいつ、また……!ふーん、それで人気者のアレンさんは鼻を伸ばして喜んだってわけ?」
気がするというレベルではなく明らかに不機嫌になったフィーネが、乱暴に音を立ててカップをテーブルに置いた。
再びソファーに体を預けて腕を組み、じろりと俺を見据える。
「いや、そうでもない」
「本当に?あの子、背が小さいし、容姿も女の子らしいし、物腰も柔らかいし。あんたが好きそうなタイプでしょう?そんな子から誘われれば、まんざらでもないんじゃないの?」
「もちろん悪い気はしない。ただ、どっちかというと受付嬢の営業成績争いが大変なんだろうなって感想の方が先に来る感じだな」
「はあ……。あんたも相変わらず鈍いんだから……」
「なんだ、聞き捨てならないな。鈍いってどういうことだ?」
フィーネが腕を組んだまま、ジトっとした目つきで俺を見ている。
そういうところが鈍いんだと言わんばかりの表情だ。
「あの子、有望な若い冒険者を狙って粉かけてるのよ。顧客を捕まえるって意味じゃなくて、ね」
「……もしかして、永久就職狙いってことか?」
「そういうこと」
「はー……。なるほどなあ……」
「見た目が好みなら試しに誘ってみたら?あの子が狙ってた冒険者が迷宮都市に移っちゃって焦ってるから、今なら簡単に釣れるかも」
フィーネがにやにや笑って俺をけしかける。
「まあ、見た目はかわいいよな」
「やっぱり……」
自分でけしかけたくせに、フィーネがまたジト目になった。
理不尽なことだが、それでもリンダの見た目がかわいいと思ったのは、まごうことなき本心だ。
しかし――――
「ただ、特定の相手として見るなら対象外だ」
「へえ、意外ね。どこが気に入らないの?」
フィーネは目を丸くして興味津々だ。
やはり、年頃の少女がこの手の話を好むのは万国共通ということか。
「うーん、なんて言えばいいか……」
頭の中にティアとリンダを並べて思い浮かべながら、何が違うのか考えてみた。
「そうだな……。可愛くて優しい子が好みだってのは、たしかにフィーネのいうとおりだ。ただ、誰にでも優しいのはちょっと違うと言うか、優しいにしても俺だけに特別優しくしてほしいというか……。やっぱり、自分だけが特別だって思えないとダメなんだよな。そういう視点でみると、初対面の相手にあれだけ積極的になるのはむしろマイナス……ああ、もちろん誰にでも乱暴な女はNGなんだが……」
特別感という部分で、ティアはこれ以上ないほどに徹底している。
なにせ、ティアと出会った――――再会した頃まで遡っても、ティアが俺以外の男と親しくしていたところを見たことがない。
パーティメンバーとしてしばしば行動を共にするクリス相手でも一定の距離を置き、移動や食事のときに隣同士になることすらない。
ティアが意識して男との接触を避けているということは間違いなく、そういった立ち振る舞いが、おそらくは俺が特別だと示すためのアピールとして行われているのだという事実は、俺の心をくすぐってやまない。
おまけに、そうやって築かれた見えない壁を俺だけが素通りできるとくれば、それを嬉しく思わないなんて不可能だ。
「うん、つまりはそういうことだな」
フィーネの問いに対して自分の中で納得のいく回答を導き出せたことで、俺は満足して紅茶でのどを潤した。
それほど大きくないカップから紅茶の最後の一滴がなくなるまで、ほんの数秒。
気を良くした俺は、再びお代わりを要求しようとフィーネに視線をやり――――遅まきながら、ようやく彼女の表情に気が付いた。
「ふーん……へえー……なるほどねー」
わざとらしく理解の言葉を述べるフィーネは、何度も繰り返し頷いている。
しかし、彼女がその言葉どおりに俺の気持ちを理解したようには到底見えなかった。
その様子を感じたままに表現するとしたら――――
「つまり……アレンは自分だけ見てくれる相手が好きってことなのね」
「ッ!?」
人の気持ちを弄ぶ小悪魔のようだ、とでも言うべきだろうか。
「お強い冒険者さんは独占欲もお強いってことかしら?ふふふ……これは興味深い話を聞かせてもらったわ」
「んなっ!!?」
ここに至り、俺はようやく我に返った。
(しまった!俺はなんでフィーネ相手にこんな話を……!)
幼い頃から見知っている彼女とて、同年代の異性であることに変わりはない。
にもかかわらず、いつのまにか男同士だけ話すような話までペラペラと口に出してしまっている。
きっと、変なテンションでクリスと遊び歩いた後遺症だ。
「おい、フィーネ、何を考えてる……?」
「えー、何のことですかー?私、わかりませーん」
フィーネのニヤニヤは留まるところを知らない。
(まずい!何か手を打たないと!)
このままでは俺の女の趣味がギルド中に知れ渡ってしまう。
そんな想像もあながち的外れとは言い切れない雰囲気が、今のフィーネからは感じられた。
「フィーネ、話がある」
「あら、何かしら?」
わざとらしく髪をいじるフィーネは俺の言いたいことなど理解しているだろうに、しらばっくれてとぼけた返事をする。
それでも、俺は何としても先ほどの話を口外しないと彼女に約束させる必要がある。
俺の心の安寧が懸かっているのだ。
今は出費は度外視してでも、彼女の機嫌を取ることに全力を尽くすべきだった。
「お前が紹介してくれた依頼のおかげで、懐が結構温かくなったんだ。どうだ?一緒に外に出ないか?」
「リンダじゃなくていいの?誘われた次の日に私といるところを見られたら、もう断ったも同然よ?」
「構わないさ。俺が一緒に居たいのはお前なんだから」
「ふーん、そう……」
フィーネは空になったカップをトレイに乗せて立ち上がり、部屋の扉の横に置かれた台にトレイごと乗せると、そのままこちらを振り向くことなく何やら作業を始める。
少しでもフィーネの反応を見ながら言葉を選びたいときに、表情を隠すようなことをされるのは辛いのだが、まさか自分も立ち上がってフィーネの表情を覗きに行くわけにもいかない。
「ほら、たまにランチでもどうだ?ああ、でもまだ少し時間が早いか……なら、服を見に行くのもいいな」
「服はこの前買ってもらったばかりよ」
「暖かくなってきたし、夏服の新作とか出てるんじゃないか?」
「ああ、たしかにそんな時期ね。そういえば、あの店も新作が……」
フィーネが何やら悩み始める一方で、俺の方ももう一押しすべきか、慌てず待つべきかを悩んでいた。
考えは結局まとまらなかった。
俺の考えがまとまる前に、フィーネが答えを出したからだ。
「うん。それじゃ、お言葉に甘えようかな?」
振り向いたフィーネは笑顔だった。
先ほど俺の焦燥を掻き立てた小悪魔的なそれではなく、ショッピングを楽しみにする少女の純粋な笑顔だ。
「ああ、任せろ!それで、何時くらいから抜けられる?」
「すぐ出られるわ。着替えてくるから、ここで少し待っててちょうだい」
「仕事は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。最近は結構暇だったし、アレンとなら許可も下りるわ」
いつぞやは大層忙しそうにしていたというのに、珍しいこともあるものだ。
そう考えて、ふと疑問が浮かぶ。
「もしかして、それも冒険者ごとに決められてるのか?」
「C級上位なら、こちら側が望めば大体は許可されるわ。B級以上になると、場合によっては嫌でも断れないこともあるみたいよ」
本当に世知辛い。
いや、それよりも――――
「断れないって、マジか?」
「私たちからすると嫌な仕組みなんだけどね。冒険者が上位のランクを目指すモチベーションになってるところもあるから、変えられないみたい」
「それは……何というか、酷い話じゃないか?」
B級冒険者――B級を騙るC級は当然除外する――となれば、弱いなんてことはあり得ない。
冒険者ギルドから連れ出された受付嬢なんて、力づくでどうにでもできてしまうだろうに。
「そうね。でも、嫌がる私たちをランクを盾に強引に連れだすなんてこと、私は見たことないし、実際はあまりないんだって。そういうことが頻繁に起きると受付嬢をやる人がいなくなっちゃうし、相手の気持ちを無視して強引になんて他の冒険者から笑い者になったり、その人を狙う冒険者たちからリンチされたりするらしいわ。あくまで、そういうこともあり得るという程度の話ね」
「なんだ、びっくりした……」
「なあに?心配してくれたの?」
「そりゃ、そんな話聞かされたら心配するさ」
「ふーん、そう……。それじゃ、少し待っててね」
そう言い残すと、フィーネはトレイを片手に部屋を後にした。
「ふう……。何とか乗り切ったか……」
ここまでくれば安心だ。
どこぞの理不尽な女と違い、フィーネはこういう約束は守ってくれると信頼できる。
いつぞや俺が贈った服を着たフィーネが戻ってくるまでの間、俺は脱力してソファーにもたれかかり、天井を見上げていた。
フィーネの言ったことは本当だったようで、前回のような特別な事情がないにもかかわらずフィーネの外出はあっさり許可された。
つまり、俺の扱いがC級上位であるということが証明されたということだ。
(一体どこでそんな評価を稼いだんだ?)
元々、昨年の暮れにC級に昇格したときですら、状況が求めた結果のこじつけであったはずだ。
それから俺が達成した依頼と言えば、一応達成扱いになっている湖の妖魔の件、騎士団の件、そしてエクトルの件のたった3件。
それを除けばD級でもできるような小粒のものばかりで、少々実績が足りていない気がするのだが。
「ちょっと、何ぼーっとしてるの?」
「ああ、すまんちょっと考え事」
「もう……」
フィーネは、何やら橙色の飲み物が入ったグラスを傾けながら、不満の言葉を漏らしていた。
そんな言葉と彼女の表情が連動していないのは、フィーネの視線の先にある紙袋の中身のせいだろう。
『彼氏さん、お久しぶりです。ご来店をお待ちしておりましたよ』
例の服屋に足を踏み入れると、どこからともなく現れた例の店員のサポートを受けて、フィーネのファッションショーは円滑に進んだ。
夏物を着るには少し早い季節であるため、買った服に着替えることはせず元々着ていた服をそのまま着ているが、それはフィーネの機嫌を悪くする理由にはならなかったようだ。
むしろ新しい服を着るときを想像して、本当に楽しそうに笑っている。
服屋で新作に胸を躍らせ、少し高めのランチを取り、そのまま飲み物を追加注文して他愛のない話を続ける。
それを純粋に楽しんでいるフィーネを見ていると俺も嬉しくなり、いつのまにか本当にただデートをしているような気分になってしまっていた。
「………………」
「なによ?言いたいことがあるなら言いなさいよ」
俺が横顔を見つめていたことに気づいたフィーネが、照れくさそうに言う。
だから――――俺は、冒険者ギルドの別室にいたときからずっと聞きたかったことを彼女に尋ねた。
「なんで、聞かないんだ?」
初遠征の感想でも、俺の女の趣味でも、俺がフィーネの横顔を見つめていた理由でもない。
彼女が本当に聞きたいことは、別にあったはずだ。
どうしてか、フィーネはここに至るまで一切それに触れようとしなかった。
その理由は、まもなく彼女から語られた。
「アレンの過去を無理に聞き出すつもりはないって、前にも言ったでしょう?」
「そうか。そうだったなあ……」
フィーネは優しい。
優しすぎるから、俺はついそれに甘えたくなってしまう。
しかし――――
「話したいことがある。この後、屋敷に寄る時間はあるか?」
それも、今日で終わりにしよう。
過去をいつまでも隠し通すことはできない。
どんな偶然から露見するかわからないということを、俺はつい先ほど理解した。
だから中途半端にならないように、俺の軌跡が正しく伝わるように、せめて俺の口から話したい。
それが彼女の優しさに対する礼儀だと、俺は思ったのだ。
フィーネを屋敷に招待するのはこれで二度目。
今回の彼女は屋敷の大きさに怖気づくこともなく、すんなりと玄関をくぐることができた。
リビングのソファーに腰を落ち着け、フロルが手際よく用意してくれた飲み物とお菓子を味わい、一息ついた頃。
俺は、ようやく覚悟を決めた。
「さて、何から話そうか……」
「何から?話って、さっきの人のことじゃなくて?」
「それで合ってる。でも、あれが誰かを説明したところで、フィーネが望む説明にはならないだろ?」
冒険者ギルドに依頼を持って来たなら、名前や所属くらいは名乗っただろう。
俺の口からそれらを告げるだけなら、そこに意味なんてないのだ。
だから俺は、最初から話すことにしたのだ。
「全部話すよ。アレックスとして生きた最後の日のこと、アレンとして生きた4年間のこと。そして――――」
俺は笑みを浮かべたつもりだった。
優しいフィーネが俺の話を聞いて悲しむことがないように。
しかし、結果的にうまく笑うことはできなかったのだと思う。
俺の表情を見ているフィーネの表情は、それを察するには十分なものだった。
それでも、俺は話を止めない。
それが半年近くも事情を聞かずにいてくれたフィーネへの誠意だと思って、認めたくない事実を自分から口にすることで、俺は現実を受け入れた。
「冒険者ギルドで俺を避けるように立ち去った彼女が、俺にとってどういう存在だったのかということを」
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