第152話 初めての遠征1




 翌日の早朝。

 俺たちは都市を旅立ち、都市の西門から伸びる街道を一路西へと進んでいた。


 隣を流れるのは船が何隻もすれ違えるほどの大河。

 川に沿って整備された街道を西へ西へと進んでいくと、上流は大陸中央部に位置する大樹海へと辿り着く。


 もちろん今回用があるのは大樹海ではない。

 護衛依頼の終着点は川沿いに点在する街のひとつであり、街道を西へ進めばそのうち到着するので迷う心配もなかった。


 周囲の風景を見渡す。

 そこにあるのは川沿いの街道と見晴らしのいい草原で、時折遠くにはぐれの弱い魔獣を見かける程度。

 わざわざ護衛の冒険者を雇う必要性は感じられない。


 しかし、一見平和な草原の果てにあるのは魔獣が跋扈する山と森林だ。

 霞んで見えるほど遠くにあるそれらも足の速い魔獣からすれば大した距離ではない。

 遮蔽物がほとんどない草原で住処から出てきた魔獣に発見された場合、護衛なしの商隊では多大な犠牲を払うことになる。

 また、南北にある山や森が街道近くまで侵食している地域もあり、ここでは魔獣だけでなく盗賊による被害も時々発生しているという。


「本来は大規模なキャラバンを編成して、複数の商人がそれぞれ護衛を持ち寄って安全を確保するのですよ。ただ、今回は日程の合う商隊を見つけられず、船の空きもなかったもので。陸路を安全に進むために強力な冒険者を紹介してもらったということです」

「なるほど……」


 商隊の事情に疎い俺に、エクトルはそう説明してくれた。

 エクトルの説明を聞きながら視線を前方へと向ける。

 

 エクトルの商隊はエクトル自身と彼の部下たち――顔合わせに居なかった下働きを含む――が荷馬車を操り、合計12台の荷馬車で構成されている。

 荷馬車といっても簡易な屋根が設置された大型の魔導馬車で、外観は風通しの良いトラックという感じだ。


 エクトルを含め商人たちは荷馬車の前方にある運転席で操縦を行い、俺たち冒険者は荷台に用意された簡易な椅子に腰掛けていた。

 荷馬車は一列に並んでおり、先頭の荷馬車にはクリスとネル、最後尾のエクトルが操る荷馬車には俺とティアが乗り込んでいる。

 この組み合わせを決めるときは揉めに揉めた。

 ネルがティアと組むと言って譲らなかったからだ。


 しかし、各自のスキル構成や特徴を考えると、ネルとティアを組ませるのは最適とは言い難い。

 まず4台に1人ずつ分乗するという案と4人で同じ荷馬車に同乗するという案は俺を含めて誰も賛成しなかったため、先頭と最後尾にそれぞれペアを配置するところまではすんなりと決まった。


 次に各自の役割と適性について検討した。


 クリスの役割は<アラート>を流用した索敵であり、配置箇所は先頭一択だ。

 本来の使い方と異なるのは百も承知だが、<索敵>の代用となるスキルを持つ人間が他にいないのだからこうするほかない。


 ネルの役割は、はぐれの魔獣に対する狙撃。

 槍での近接戦も可能なネルはどこに配置してもそれなりの働きをしてくれるから、ありがたいといえばありがたい存在だ。


 ティアの役割は魔法火力による敵集団の殲滅。

 火力としては配置場所を選ばないものの、近接戦闘ができないことや遠距離攻撃に対して脆いことを考えると、あまり先頭には配置したくない。


 最後に俺の役割は<強化魔法>による高い移動速度を活かした遊撃と<結界魔法>による積み荷の防御、そしていざというときのしんがりだ。

 遊撃や積み荷の防御を重視するなら先頭に配置してもいいし、しんがりとしての機能を重視するならば最後尾でもいい。

 しかし、クリスが先頭で固定されるとなれば話は変わる。

 俺が先頭に陣取ると背後が索敵も防御もない状態になってしまい、背後から襲撃されたときのリスクが非常に高くなるからだ。

 そうなると男女で2ペア作るしかなくなるのだから――――いくらネルが抵抗しても最終的にこの組み合わせになるのは必然だった。


 街道が河のうねりに合わせてやや南側に向いたタイミングで、先頭を行く荷馬車に乗るクリスとネルが見えた。

 何を話しているのかまではわからないが、クリスが楽しそうにネルに話しかけ、ネルがうんざりしながら聞き流している様子が見て取れる。

 ふと、ネルの視線がこちらを向いた。

 ネルは俺と一緒に顔を出していたティアに対して手を振り、俺に対してあっかんべーをすると、荷台の縁に両腕と頭を乗せて寝こけ始めた。

 

「……申し訳ありません。後で言って聞かせますので」

「いえいえ、この地域ならまだ大丈夫ですから」


 一部始終を運転席から見ていたエクトルに詫びを入れ、せめて俺だけでも周囲を警戒しようと草原の向こうを睨みつける。

 もちろん、睨んだからといって魔獣が湧いて出るわけもない。

 街道も草原も至って平和だ。


 だから、つい気を取られてしまう。


「………………」


 ティアが俺の左手を握っていた。


 今このとき初めて握られたわけではない。

 早朝に都市を出発してからこのかた飽きもせず、ときに指を、ときに手のひらを、強弱をつけながら握っていた。

 先ほどネルに手を振られて手を振り返したときも、反対側の手は俺の手を握っていた。

 

 今も視線は後方に向けながら、その右手は俺の手を離そうとしない。

 

「………………」

「………………」


 俺がティアに視線を向けると、ティアの視線もこちらを向いた。

 そのまま互いに視線を逸らさずに見つめ合う。

 少しだけ時間が経過した後、ティアはようやく俺の手を離した――――かと思えば、その直後に自分の指と俺の指を絡めてきた。


「ッ!」


 俺は驚き、絡められた指に視線を落とす。

 すぐに視線を戻したが、ティアと視線が合うことはなかった。

 彼女は頬を染め、俯いていたからだ。


(あー……)


 大声で叫びたい衝動に駆られる。

 なんだ、このかわいい生き物は。

 本当に俺と同じ人間なのだろうか。


(俺だけでも真面目に警戒しようと思ったのに……!)


 ふわふわした気持ちが繋いだ手から全身を侵食していき、それ押しとどめようと抵抗する理性が急速に削れていく。

 見張りなんて放り出して力いっぱいティアを抱きしめたいと主張する本能と、冒険者を舐めるなと叫ぶ理性が、俺の脳内で死闘を繰り広げていた。


 手を伸ばせば届くほど近い距離にいる依頼主に不真面目を悟られるわけにはいかない。

 ネルだけならともかくリーダーである俺までがそうであれば、パーティの信用は完全に失墜してしまう。

 

「ふー…………」


 脳内で行われた死闘は辛くも理性が勝利を収めた。


「アレンさん、どうかしましたか?」

「いえ……。風が気持ちいいなと思いまして」

「そうですね。近頃は本当に暖かくなりました。うららかな陽射しと心地よい風のおかげで、昼食後の移動は眠気がひどくていけません」


 指先だけの甘いやり取りが続く最中も、運転席にいるエクトルとの間では他愛無い雑談が続いていた。

 彼も肩までの高さの板一枚隔てた向こう側で、こんな甘ったるいやり取りがされているとは思いもしないだろう。


「昼休憩まであとどれくらいですか?」

「そうですね。もう休憩ポイントまで8割ほど進んでいますから、もう少しですよ」


 エクトルに秘密の交流を気取られないうちに昼休憩を迎えたい。

 そう思う一方で、もう少しこのままでいたいと望む自分もいる。

 

 揺れる俺の心境に構うことなく、荷馬車は積み荷と俺たちを乗せて刻一刻と休憩地点に近づいていく。

 荷馬車が止まるまでの間、俺たちの手が離れることはなかった。

 



 昼休憩を挟み、乗合馬車や小型の荷馬車とすれ違ったり追い抜かれたりしながら、俺たちはさらに西へと進む。

 途中で立ち寄った川沿いの町で積み荷の一部を降ろし、代わりに新たな荷を積み込んだときを除いては、ただひたすらに長閑な風景が続くばかりだった。


「そろそろ日が暮れますから、ここで野営をしましょう」


 昼過ぎに通過した町と次に通過する予定の町のちょうど中間ほどの地点。

 俺たちは街道沿いで夜を越すことになった。


「テントの配置はどうしますか?」

「この辺りは増水することもめったにありませんし、川から少し高い位置にありますから、水位の心配は不要です。川に近い位置の方がなにかと便利でしょう」


 野営の準備についてエクトルと相談し、中央に用意した焚火を囲むようにいくつかのテントを設営した。

 それぞれが用意した夕食を楽しむと、エクトルたちは早々にテントに引き上げる。

 普通の生活と比べると早い就寝だが、日の出とともに出発することを考えると十分な睡眠時間を確保するためにそろそろ寝ておかなければならない。


 一方、俺たちは夜間の見張りがあるので、すぐに就寝というわけにはいかない。

 4人とも最低限の睡眠時間は確保できるように前半後半でローテーションを組みつつ、朝まで警戒を途切れさせずに依頼主の安全を守ることが俺たちに課せられた役割だ。


 しかし――――


「おっふろ、おっふろー!」


 ネルがクリスのポーチを小脇に抱え、鼻歌まじりに俺たちのテントの裏へ歩いて行く。

 そこには俺とクリスがテントを設営している間、ティアとネルが組み立てていた簡易浴場が鎮座していた。

 

 大きな幕で周囲の視線を遮り、撥水性の高い生地を資材で固定するだけの小さな浴槽。

 その中にクリスのポーチに詰めてきた大量の熱湯を投入し、川から汲んできた水で薄める。

 それだけの本当に簡易なものだが、野営中ということを考えれば十分過ぎる贅沢だ。


「こんな調子で大丈夫か……?」


 それを贅沢だと理解していない他の3人に、俺は不安を抱かずにはいられなかった。

 

 まず、冒険者が遠征時に携帯できる荷物の量は多くない。

 当然ながら武器防具を始めとした装備やポーションなどの消耗品が優先であり、重くて嵩張る水は最低限に抑えることが求められる。

 もちろん大切な水を確実に補給できるよう、飲用に適した水場の情報を事前に確認してから行動することが前提だ。


 だから一般的な冒険者の野営なら、濡らした布で体を拭いて下着を替えるくらいが精々。

 幸運に恵まれて水場が近くにあるときならば水浴びが許されるという程度だ。

 冒険者をやっていれば、男であれ女であれ事情はそう変わらないはずである。


(それがこいつらときたら……)


 クリスのポーチの性能を頼みに嵩張る資材や大量のお湯を運び込んで優雅に入浴を楽しんでいらっしゃる。

 俺としても清潔感を保ちたいと言う気持ちは痛いほどわかるが、物には限度がある。


「まあまあ、細かいことはいいじゃないか」

「細かくはないと思うがなあ……。てか、俺たちの分はあるのか?」

「残念だけど、僕のポーチの容量も無限じゃないからね」

「さいですか……。で、実際のところの容量はどれくらいなんだ?大きめの水筒1つか2つでいっぱいになりそうなサイズのポーチに、4人分の食料、テント一式、組み立て式の寝台、おまけにアレのための大量のお湯と資材まで……。明らかにお前の体重より重いよな?」

「正直なところ重さはあまり感じないんだ。おかげで楽をさせてもらってるよ」


 クリスはポーチがなくなった腰をポンポンと叩く。


「容量は、そうだね…………感覚的な話になっちゃうんだけど、あの積み荷で言うと10個分くらいかな」


 クリスが指さした方に視線を向けると、エクトルたちの荷馬車があった。

 積み荷は規格化されており、ほとんどが一人で何とか運べる程度のサイズだが、それでも人間が中に隠れられる程度の大きさがある。

 

(あの中にテント一式と簡易寝台と……)


 頭の中でクリスに持たせた品を積み荷に詰め込んでいく。

 すると、俺はあることに気づいた。


「おい……。もしかしてお前の荷物って、半分くらい風呂絡みなのか?」

「そうなるね」

「……頭が痛くなってきた」


 こめかみを押さえて呻く俺を見てクリスは笑っている。

 自分は無関係とでも思っているのか。

 ネルのわがままを許しているのは自分だということを忘れられては困るのだが。


「お前が甘やかすからだぞ。わかってんのか?」


 俺が睨みつけても堪えた様子はない。

 それどころか、俺が何を問題にしているのか理解していないような雰囲気だ。


「いいじゃないか、少しくらい。惚れた女性の望みを叶えてあげるのは男の役目だよ」

「そういうのはプライベートで好きなだけやってくれ。今は依頼中だ」

「依頼中だからって、過度に節制する必要はないだろう?赤字になるまで散財したりパーティの資金を使い込んだりしたならともかく、費用は大して掛かってないし、このポーチは僕の私物なわけだしね」

「それは……そうなんだが……」


 たしかに普通の冒険者からすると贅沢である入浴も、実際の費用はそこまでかかっていない。

 資材は安い物だし、お湯は屋敷で沸かした熱湯をちょうどいい温度に薄めるだけ。

 温度調整も保管していた熱湯に川から組んできた水を注ぎ足すだけ。

 単純にお湯の使用量を比較するなら、屋敷で毎日俺が使う量の方がよほど多いくらいだし、お湯はクリスのポーチから取り出すだけだから大掛かりな作業も必要ない。


 もちろんクリスのポーチの容量と特性があるからできることであって、これを普通の冒険者がやろうとすると多くの困難が伴う。

 まず耐火素材の浴槽などなかなか用意できないから、入浴できるだけの大量の湯を沸かすために魔道具と火魔石を使わなければならない。

 家で使う料理用のコンロのような魔道具は大型である代わりに安価に使える仕組みになっているらしいが、安価に入手できる携帯用の魔道具では効率が良くないということもあって、煮炊きする程度ならともかく入浴できるほどの量のお湯を沸かそうとすれば結構痛い出費になる。

 魔石の代わりに自分の魔力を使って水やお湯を生成する魔道具も存在するが、こちらは運用に費用がほとんど掛からない代わりに魔道具自体のお値段は相応だ。

 冒険中に入浴するためだけに払える金額かというと、やはりC級成りたて程度の懐具合では厳しいと言わざるを得ない。


 もう少し安上がりな手段では、火魔石を使わずに鍋などで沸かしたお湯を簡易浴槽に移し替える方法がある。

 しかし、この方法だと丁度いい温度を保てるのは本当に一瞬で、すぐにぬるくなってしまうためにゆっくり入浴どころではない。

 保温性に乏しい素材の浴槽でお湯を丁度いい温度を保つためには、鍋からお湯を注ぎ続けなければならないことからも、理論上ではともかく実行するのは難しいことがわかる。

 一人が快適に風呂に入るために多くの労力が必要になるのだ。

 

(そういえば、俺も低コストで風呂に入れないか試行錯誤したこともあったなあ……)


 もっとも安くあがりそうなのはドラム缶風呂だったと思う。

 水場近くでドラム缶かそれに近い材質の浴槽、すのこ、それと耐火素材のブロックがあれば、どこでも風呂を楽しめる。

 火魔石は不要だから安価であるし、火を起こしたまま入浴できるからお湯の温度が下がりにくいのもいい。

 ゆっくりするなら温度調整にもう一人必要になるが、長湯しなければ一人でも問題ない。

  

 そこまで考えて当時の俺は入浴を諦めた。


 理由は単純。

 一般的な冒険者にドラム缶を始めとした資材を携行するだけの輸送力などありはしないのだ。


 しかし、そうなると――――

 

「あれ……?もしかして、問題ないのか?」


 クリスの私物を活用してのこととはいえ、安価かつ手間をかけずに入浴する手段はすでに確立された。

 パーティを組んでいるから交代で羽を休める時間を作ることに大きな問題はない。


 ならば、俺が反対する理由は存在しないのではないか。


「僕は最初からそう言ってるじゃないか」

「お、おう……。そうだったな、すまん」

「……一体どうしたんだい?なんだかアレンらしくないね」

「うーん、少し疲れてるのかもな」

 

 原因には心当たりがある。

 しかし、そちらを真っ向から非難できないから困りものだ。


 その代わりと言ってはなんだが、俺は非難すべき相手を思い出した。

 

「そういえば、お前らちゃんと仕事しろよ。ネルは途中からサボり始めたし、お前はネルしか見てないじゃねえか」

「ネルちゃんとゆっくり話せる時間は貴重だからね」

「頼むから反省してくれ」

「善処するよ。誓って、ネルちゃんを危険に晒すようなヘマはしない」

「俺たちの護衛対象は商人たちだろうが……」


 ネルが関わるとクリスがアホの子になる。

 前々から思っていたことだが、もしやこれから先もずっとこうなのだろうか。


「わかった、わかったよ!依頼中は依頼に集中する、それでいいだろう?」


 俺の憐れむような視線に何か感じるものがあったのか、慌てたように当然のことを改めて表明するクリス。

 そんな相棒に、俺は大きく溜息を吐いて見せた。


 その後、湯上がりほかほかになって戻って来た女性陣と交代で、俺たちもお湯を使うことになった。


「やっぱり残ってないみたいだね」


 クリスがポーチから取り出したのは、大量にあったはずの熱湯入り水筒、その最後のひとつだ。

 一本一本は2リットル程度の容量しかないため、入浴できるほど薄めてしまえば、ぬるま湯と称するのも難しい“ぬるい水”が出来上がることだろう。

 

 簡易浴槽の中を見ても、女性陣が使ったお湯は残っていない。

 つまり、俺たち二人で使えるお湯はこれだけということだ。


「本当に良い性格してるな」

「パーティ内で遠慮がないことはいいことだと思うよ、アレン」

「…………」


 クリスに同意を求めた俺が馬鹿だった。


「どうしようか?」

「少量の水で薄めて、それで汗を拭うだけだな。水風呂なら川で泳いだほうが早い」

「川遊びはネルちゃんも誘えるときまで取っておくよ」

 

 もう暗いからね、と言いながらクリスは着ている物を脱いでいく。

 溜息を吐きながら俺もそれにならった。

 俺たちの裸を覗きに来るもの好きもいないだろうが、お湯が冷めないうちに手早く済ませてしまおう。


(しかし、ネルはともかくティアまでというのはショックだなあ……)


 ティアなら俺たちの分もお湯を使おうとしたネルを止めてくれるとか、お湯をなるべく汚さないように使って残しておくとか、もう少し気を利かせてくれると思ったのだが。

 少女にとって清潔感とはそれほどに重要だということか。


 俺は少しだけモヤモヤしたものを感じながら薄めたお湯を染み込ませた布で手早く体を拭き、最後に綺麗なお湯を頭から被った。

 屋敷の大きな浴槽と充実した石鹸類に慣れてしまったため少し――――いや、かなり物足りないが、それでも多少の爽快感を得ることはできる。


(まあ、これが普通と思えば……)


 ネルだけでなく俺自身も、贅沢に慣れ切らないように身を引き締めなければならない。


 着替えた後はクリスと二人で簡易浴場を解体し、焚火の番をしている女性陣のところへと戻る。

 2人の手元では魔石動力のドライヤーが唸りを上げており、節制という言葉を踏みにじる姿にまたひとつ溜息がこぼれた。


(自前で用意したものなら、俺がくどくど言うことじゃないか……)


 そうでも思わないとやっていられない。

 俺は喉元まで出かかっていた文句を飲み下し、焚火の輪に加わるのだった。



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