第118話 衛士と騎士




「他の利用者の邪魔だ!騒ぎの当事者は詰所に来い!」

「野次馬も邪魔だ!ほら、散った散った!」


 口八丁でなんとか切り抜けたと思ったのもつかの間、やはりというか俺たちは衛士に連行されることになってしまった。

 口々に不平を言う野次馬も次第に散らされ、残ったのは当事者と衛士のほか、数名の部外者のみだ。

 

(まあ、そう上手くはいかないか……)


 俺は内心で舌打ちする。

 この場だけでも有耶無耶にできれば言い逃れのしようもあるのだが、現行犯ではそれも厳しい。

 時間をかけ過ぎたのだ。

 

「アレン、ここは僕が食い止めるから――――」

「おい馬鹿やめろ。そんなことしたら完全にお尋ね者だぞ」

「けど!」

「いいから黙ってろ。心配しなくても、そこまでひどい罪状にはならないはずだ」


 俺は両手を挙げて抵抗する意思がないことを衛士にアピールすると、この場の衛士のリーダーと思われる一人に向けて話しかけた。


「騒がせてすまなかった。詰所に行くのは構わないが、先にそいつの拘束を解いてもいいか?このままじゃ、あんまりだ」

「いいだろう。ただし、先に身分証を預けてもらう」

「わかった」


 俺は首から下げていたスキルカード――冒険者にとっての身分証――を衛士に差し出し、ティアに視線で促す。

 ティアは頷くと、クリスが抱えたままのネルの拘束を順番に解き始めた。


 俺たちや衛士が見守る中、拘束を解かれて猿ぐつわも外されたネル。

 彼女はむずがるようにしてクリスの腕の中から抜け出すと、傍にいたティアと抱き合った。


「ネル……よかったぁ……」

「ありがと。無理させてごめんね、ティア」


 二人が抱き合う様子は、まるで映画のワンシーンのようだった。

 俺の中では狂暴な印象しかないネルも、ティアのことは本当に大切に思っているのだということが二人の様子からよくわかる。

 柔らかい笑みを浮かべた彼女は暴力女ではなく、たしかに美少女だった。

 これはクリスが惚れるのもわかる。


(ともかく、これで最低限の目標はクリアだな)


 俺たちが捕まったとしてもネル自身には罪状がない。

 つまり、ここから先はネルが自力で逃走することができるということだ。


 ネルの戦闘能力は身をもって知っている。

 おそらく、あの程度の私兵に正面からやられることはないだろう。


「さ、ついてこい。おっと、武器は預かるからな」


 感動の再会を少しの間見守った後、衛士が俺たちを促した。

 ここで抵抗しても仕方がない。

 俺は大人しく従うよう視線でクリスに指示し、自分もベルトと鞘ごと『スレイヤ』を衛士の一人に差し出した。

 

「素直だな…………おっ!?くっ!?」


 剣を受け取った衛士がよろめき、苦しそうな声を上げた。


「なんだ!何をした!?」


 衛士のリーダーは表情を強張らせ、俺を問い詰める。

 俺が何かしたと考えたのだろうが、それは全くの誤解だ。


「ちが、ます、剣、おも……」


 両腕をぷるぷると震わせながら片言で状況を報告する衛士を目の当たりにして、衛士のリーダーは思いのほかすんなり状況を把握できたらしく、わざとらしく溜息を吐いた。

 クリスが使う細身の剣と異なり、俺の剣は見るからに重量がありそうな外見をしている。

 それでも両手で抱えられないほどの重量とも思えず、俺から剣を受け取った衛士の鍛え方が足りないとでも思ったのだろう。


 実際の重さは、見た目から想像できる重さを遥かに超えるのだが。


「情けない……。おい、よこせ!」


 しかし、そんなことを知る由もない衛士のリーダーは、これ以上情けない姿は見せられないとばかりに、必死に俺の剣を抱えている衛士から剣をひったくるようにして――――

 

「っ!?ふっ、ふっ、んんんんんっ!!?」


 重量挙げを彷彿させるような姿勢で、顔を真っ赤にして耐え始めた。

 あまりにもすごい表情をしているので、俺たちも衛士たちもたっぷり数秒間、衛士のリーダーの奮闘を見守ってしまう。


(いや、このままだと俺の剣が……)


 やっぱりダメそうだと判断した俺は剣の柄と腹の部分を支えて、衛士のリーダーから剣をゆっくり取り上げた。


「はーっ、はーっ、はーっ……」

「……まあ、なんだ、俺の剣は特別製で少しばかり重いんだ。俺が自分で持っていこう」

「し、しかし……」

「その剣、1000万デルもしたんだぞ。落とされたら困る」


 詰所に連行されるようなことをしでかしたとはいえ、俺たちは財産を取り上げられるほどの大きな罪を犯したわけではない。

 このため、衛士の管理下にある財産が棄損されたときは、領主側が損害を補填することになると思われた。

 一般市民なら脅しでなかったことにできるかもしれないが、あいにく俺たちは冒険者。しかもそれなりの実績があるC級冒険者だ。

 知らぬ存ぜぬを通すようなら、権力に抵抗することに関して並々ならぬ――それこそ俺たちを使い捨てるほどの――想いを抱く我らがギルドマスターは黙ってはいないだろう。


「……仕方ないな。はあ……さて、詰所に向かうとしようか」


 俺の剣が鍛冶屋を引退した爺様からタダで譲り受けたものだということなど、衛士のリーダーは知るはずもない。

 息を整えた衛士のリーダーは、疲労を隠しきれてはいないものの、それでも何とか自身の職務を全うしようと、再び俺たちの誘導を始める。

 俺たちはそれに従って、近くの詰め所に向かって歩き始めた。


「待つのである!」


 そんな俺たちを、大声で呼び止める者がいた。

 声のした方を振り返ると、そこに居たのは重そうなプレートメイルを着込んだ大男だった。


(おお、マッチョ……)


 大男とその部下と思われる騎士たちがこちらに近づいてくる。

 ギルドマスターも熊のような男だと思ったが、この大男もそれに勝るとも劣らない威圧感を放っている。


 いや、それよりも――――


「騎士様が一体どのような御用で?」


 領主騎士団。

 領主の私兵であり、この都市を外敵から守護する常備兵力だ。

 一部のコネと血筋だけで採用された者を除けば総じて強いらしく、正騎士の戦闘力はC級冒険者に勝ると聞く。

 その一方で、指揮官は下級貴族が任じられることも多く、領主の権力を笠にきてやりたい放題することもあるとかないとか。


 どちらとしても、この状況で会いたい相手ではなかった。


「その者たちに、用があるのである!」

「――――ッ!?」


 マッチョな騎士の視線は確実に俺たちを捉えている。

 なんでよりによってこんなタイミングで――――と思ったが、もしや先ほど起こした騒ぎが原因なのだろうか。

 騎士に追われるほどのことをしてしまった覚えもないが、嫌な予感しかしない。


「この者たちは先ほど飛空船発着場で騒ぎを起こしまして、事情聴取のために詰所へ連行中です。失礼ですが、どのようなご用件で?」


 衛士のリーダーはマッチョな騎士に向けて毅然とした態度で問う。

 騎士と揉めることを避けるために言いなりになる衛士も多いと聞くが、この衛士のリーダーはそうではないらしい。


「任務の内容を明かすことはできないのである!」

「しかし、それでは……」

「貴殿の職務の邪魔をしてしまい、申し訳ないと思っているのである!しかし、その者たちは、どうしてもこちらで連行しなければならないのである!吾輩から衛士長には話を通しておくゆえ、貴殿に迷惑をかけないと約束するのである!」

「……そちらの用が済みましたら、この者たちを衛士詰所に引き渡していただけますか?」

「善処するのである!」

「………………」


 衛士のリーダーがちらりとこちらを見る。

 やはり、騎士に対して強く出ることは難しいようだ。

 一瞬だけ合ったその目が、申し訳なさそうに逸らされた。


「……わかりました」

「感謝するのである!取り上げた物があれば、この場でこの者たちに返してほしいのである!」


 これで俺たちが騎士側に引き渡されることが決定してしまった。

 マッチョな騎士の配下と思しき騎士たちが、俺たちの周囲を取り囲む。


「では、ついてくるのである!」


 そう言うと、マッチョな騎士は俺たちを待つことなく発着場の出口へと向かって歩き始める。


「待ってくれ。こいつは関係ない」


 俺は最後の足掻きに、ネルをこの場から逃がそうと試みた。


 しかし――――


「その娘もついてくるのである!」

「いや、こいつは――――」

「黙って歩け!!」

「ッ!?」


 大男の部下たちが、ネルを逃がさないように俺たちを牽制する。

 こうなってしまえばついて行くしかない。

 無理に逃げ出そうとしても良い結果にはならないだろう。


 急かされた俺は、クリスたちにおとなしく従うよう視線で促しつつ、率先して歩き出す。

 しかし、冷静を装いながらも内心の動揺を鎮めることに精一杯だった。


(てか、このマッチョ……。もしかしなくても、かなりのお偉いさんなのか?)


 先ほどこのマッチョは衛士長に話を通すようなことを言っていたが、衛士長というのは衛士組織のトップではなかったか。

 そんな相手に対して『話を通す』なら、相応の役職が必要になる。

 多くの騎士を従える様子を見ても、この騎士がヒラというのは考えにくかった。


(まずいな……。思ったよりやばい状況になったかも……)


 状況について行けずに困惑するネルから向けられる疑念のまなざし。


 正面から受けることができず、俺はついと視線を逸らした。




 戦々恐々としながらマッチョな騎士の後ろを歩いて行くことしばし、たどり着いた先は発着場と同じく北西区域にある騎士団の詰所であった。


「ここが騎士団の本拠地か……」


 機密保持のために高い塀が設置されたこの場所は一般人の目に触れることがない。

 かく言う俺も門の中に入るのはこれが初めてのことだ。

 詰所の外観は石造りの砦そのもので、外見よりも機能を重視していることがわかるが、果たしてその中はどうなっているのか。

 見張りの騎士が守る正面から建物の中に入り、思いのほか豪華な応接間に通され、緊張しながらも美味しい茶菓に舌鼓を打つ――――ということは一切なかった。

 そもそも建物に入ることすらなく、正面玄関の前で左に折れたマッチョな騎士に連れられた俺たちは、気づけば騎士団詰所に隣接する騎士たちの訓練場の隅っこに陣取っていた。


「では、早速始めるのである!!!」

「――――ッ!?」


 マッチョな騎士が突然上げた大声に、俺はとっさにティアとネルを背にかばって剣の柄に手をかける。

 すぐに戦闘を開始できるように周囲を警戒するが、しかし、俺たちを取り囲む騎士たちが動く様子はなかった。


「副団長、この者たちに状況を説明した方がよろしいかと」

「む……?そうか、そうであるな!」


 マッチョな騎士――どうやら副団長らしい――の横に並んでいた副官らしき騎士が、俺たちの様子を眺めながら自らの上官に進言する。

 重そうな全身鎧を着込みながらも爽やかに振舞う副官の騎士は、冒険者ギルドのメガネことサブマスターに似た知的な印象を受ける。

 ちなみにこの副官もメガネだ。

 マッチョの部下にインテリメガネを置くのが流行っているのだろうか。


 ともあれ副官の言葉は、何を『始め』ればいいのかもわからない俺たちにとってはありがたいものだった。

 その説明が事態を好転させるかどうかは、また別の話だとしても。


「質問があれば受け付けるのである!全ての問いに答えることはできないのであるが、とりあえず言ってみるのである!」


 しかし、マッチョな騎士こと副団長は、自ら積極的に状況を説明してくれる気はないらしい。

 俺は内心の困惑を隠しながら、極力失礼にならないように、慎重に言葉を選んで騎士に問いかけた。


「まずは…………俺は冒険者のアレンと言います。あなたの名前を伺いたい」


 自分が名乗っていないことを思いだした俺は、すんでのところで自己紹介を差し込んだ。

 相手に名前を尋ねる手順としては、間違っていないはず。


 にもかかわらず、副団長や周囲の騎士はあっけにとられたような表情を浮かべ、俺をさらに困惑させた。


(なんだ……?この反応はどういうことだ?)


 質問の意図は明確で、誤解しようのない簡潔な問い。

 まさか言葉が通じていないということはあるまいに、近くで訓練しながらこちらの様子をうかがっていた騎士や、いつのまに連れてこられたのか、ネルの父親とその私兵たちまでもがポカンと口をあけて俺のことを凝視している。

 居心地の悪いことこの上ない。


 微妙な空気のまま長いようで短い時間が流れた。

 副団長が、ようやく我に返って言葉を紡ごうとしたその矢先――――


「貴様、本気か?」

「ジークムント様を知らぬだと?我らを愚弄しているのか!?」


 左右から、シャラ、シャラリと剣が抜かれた音。


(ふざけんな!沸点低すぎるだろ!?)


 このマッチョのことを知らなかったから、なんだというのだ。

 こちとら孤児上がりの冒険者なのだ。

 騎士団の面子など詳しく知っているわけがない。

 

 しかし、そんなことはお構いなしとばかりに、周囲の騎士たちの敵意が肌を刺す。

 領主の武力の象徴である騎士団。

 精強と言われるだけあって、視線の圧力も半端ない。

 クリスに軽くひねられたネルの父親の私兵たちとはレベルが違う。


「いや、待て!そういえば名乗っていなかったな……これはすまなかった。最近は名乗らずとも相手が私のことを知っているのでな、つい失念してしまった…………のである」

「………………」


 大仰な話し方はキャラづくりか。

 語尾をとってつけたように呟く副団長様にツッコミたい気持ちをグッとこらえた。


 なんにせよ、本人や周囲の反応からすると副団長様が有名人であるということは間違いない。

 なるほど、誰でも知っている有名人に向かって「お前は誰だ?」と問いかければ、たしかに先ほどのような空気になるかもしれない。

 騎士団の副団長がそれほど有名だとは俺には思えなかったのだが、それを言えば剣を抜いた騎士たちが今度こそ本当に斬りかかってくるだろう。


「改めて名乗るのである!吾輩の名はジークムント・トレーガー!そこな商人の要請を受け、商人の娘の婚約を賭けてお前たちと戦うために、貴殿らをここに連れてきたのである!!」

「「なっ!!?」」


 俺とクリスの声が重なった。

 

 商人とはネルの父親のことであるはずだ。

 しかしそうなると、領主の騎士、それも副団長ともあろう者が、ネルの婚約をかけて俺たちと戦うということになる。

 一体、何がどうしてそうなってしまったのか。


「待っていただきたい、副団長殿!その件については先ほど決着がついている!」


 クリスが焦ったように抗議の声をあげた。

 ここに来て、クリスの表情に初めて焦燥がみえる。


「それについては、私から説明いたしましょう」


 そう言うと、今度はジークムントの副官の騎士が前に出た。


「実は先ほどあなた方が飛空船発着場で起こした騒ぎですが、偶然私も居合わせましてね」


 副官の視線がクリスの方に向けられた。

 まさかこの男、あの騒ぎを最初から見ていたのだろうか。


「なんでも、あなた方とクライネルト氏の護衛で3対3の勝負を行い、あなた方が勝てばその娘の婚約を取り下げる……。そういう勝負の約束をしたと聞いたのですが、間違いありませんか?」

「間違いない。僕は勝負に勝ち、ネルちゃんを解放した」

「そうですか。実はその勝負ですが……クライネルト氏から、不正があったと申し立てがありまして」

「なにっ!!?」


 クリスがネルの父親を睨みつける。

 それに対してネルの父親は、気圧されながらもにやりを笑みを返した。


「申し立てのあった不正の内容は、にクライネルト氏の護衛を攻撃し、戦闘不能に追い込んだことです」

「ッ!!」


 やられた。


 先ほどの戦闘は『勝負』ではなく、俺たちが『勝負』を有利にするために行った卑怯な不意打ちである――――そう主張されれば確かに抗弁が難しい。

 戦闘前に勝負の開始は宣言されていないし、何より先に剣を抜いたのはクリスだった。

 

「ですから、不正が行われないよう、今からこの場で『勝負』を執り行います。残念ながら、クライネルト氏が用意した護衛はケガをしてしまい戦えませんから、彼から依頼を受けた我々が護衛の代わりとしてあなた方と戦うことになります」

「騎士が……商人の護衛、だと?」


 クリスが信じられない言葉を聞いた、というような反応を示す。

 俺は騎士団のあるべき姿なぞ知りはしないが、クリスの常識に照らすとこの状況は受け入れられないほどの違和感があるようだ。


「はい。我々騎士団は、この都市に住まう民全体の護衛のようなものですから何の問題もありません。しっかり依頼料もいただいていますし、ね」

「彼女の未来を閉ざすことが、騎士の仕事だというのか!?」

「さて……。家族の問題について、我々は関知しませんので」

「………………」


 クリスが拳を震わせている。

 怒りだけでなく悔しさの感情が見え隠れするあたり、下手を打ったことには気づいているのだろう。


(おい、どうなってんだクリス……。お前のカン、昨日からハズレ続きだぞ……?)


 クリスのカンの正体である<アラート>というレアスキル。

 これまで様々な危険からクリスを守ってきたはずで、クリスがそのスキルに絶対の信を置いていることは傍から見ていても明らかだ。

 

 しかし、この状況がクリスの想定内のことなら、クリスが慌てたり悔しがったりする必要などない。

 クリスの焦燥が意味するのは、つまりそういうことだ。


(クリスのカンに頼りすぎたな……)


 盗賊退治から始まり、俺たちに降りかかる危険の多くを予見してきたクリスのカン。

 最初はあれほど不安視していたというのに、俺はいつからかクリスのカンに頼りきりになってしまっていた。

 どの程度の危険があれば反応するのか、そもそもクリス以外に降りかかる危険を知ることができるのか。

 思えば俺はそれらを確認することすらしていない。


(いや、今は後悔も反省も後回しだ……)


 それらは後でだってできる。

 そのために、今は俺たちが直面している危機を乗り越えることだけを考えよう。


 数秒かけて大きく息を吐き出すと、少しだけ気持ちを落ち着けることができた。

 

(さて、まずは……)


 ネルを懸けて戦うことを避けられるか――――これは、否だろう。

 

 相手は領主の騎士で、ここは騎士団の詰所。

 周りはこいつらの仲間ばかりで、こちらは丸腰のネルを含めても4人のみ。

 全員で逃げおおせるビジョンは全く見えない。

 

 ならば、騎士たちと戦って勝つことができるか――――


(…………やれる、はずだ)


 正騎士はC級冒険者より強いという。

 しかし、ティアとクリスの戦力はC級冒険者の平均を大きく上回ると俺は見ている。

 黒鬼すら屠って見せるティアの瞬間火力は正騎士とて初見で対応することは難しいはずだし、クリスはそのスキル構成から1対1の戦いにめっぽう強い。

 騎士たちの中でも中位程度の者なら、さらに1対1なら勝てる見込みは十分にある。

 

(そうだな……。1対1を3回、2本先取の勝負に持ち込めば……ティアとクリスの連勝で勝ちきれるか)


 まず、外見から強いと想像できないティアを先鋒に据える。

 ティアのようなか弱い少女相手に喜々として戦いを挑む正騎士は、見栄の関係から流石にいないだろう。

 相手が比較的弱い騎士、できれば女性の騎士になるよう話を運ぶことができれば、それで1勝。


 あとはクリスが相手の次鋒を倒せば俺たちの勝ちだ。

 クリスの相手はおそらく正騎士になるだろうが、クリスの恋路のためにここまでやっているのだから、それくらいは頑張ってもらおう。


 俺の役目はクリスの勝率を少しでも上げるため、相手の中で最も強そうな奴を俺の相手として引きつけること。

 つまり、大口叩いて相手を挑発することだ。

 

 我ながら情けないことだが、これが考え得る限りの最善手。

 多少の穴には目をつぶる。

 即興で考えた方針に完璧を求めるべきではない。

 

(よし、これで行こう!)


 そうと決まれば、行動開始だ。



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