第22話 C4−P5 チュートリアル

「ーーちゃん、お姉ちゃん」


 んあ? 妹の声がする。

 もう朝か。


 ムクリと起き上がって、ぐいーっとあくび。


「ふわぁ〜」


 あれ、優理はどこ? 声は気のせいだったのかな。

 ってか……。


「なにここ」


 私の部屋じゃない。

 愛用の布団とは大違いのフカフカベッド。

 モダンなデザインのタンス。

 綺麗に片付けられた学習机には、インクとペンが置かれている。


 けど天井には……電球らしきものがぶら下がっていた。


「え? え?」


 ホ、ホテル?

 どこかに泊まってる?


 待って、私昨晩なにしてた?

 えーっと、えっと、思い出せ。


 記憶を全て掘り返せ!!


 私は天王寺瑠璃。ゲームが好きな女子高生。


 たしか気になっていた中古のゲームを買って、そのままバイトに行って、帰り道に……バイクに轢かれそうになって……。


「お姉ちゃん!!」


 ハッと、声がする方を見やる。

 姿見だ。


「優理?」


 鏡から声がする。


 近づいて鏡を覗いてみれば……知らない女の子がそこにいた。

 ウェーブのかかったクリーム色の長い髪。

 大きな胸。ふりふりの寝間着。


「うわああああ!!!!」


 誰!?

 私じゃない!?


「落ち着いてお姉ちゃん」


 鏡が、まるでモニターのように切り替わり、妹の優理を映し出した。

 リモート通話みたいだ。


「ゆ、優理?」


 な、なんで優理が映っているの?

 姿見型のディスプレイなの?

 まさか私、誰かに監禁されてる!?


「お姉ちゃん……」


 優理が物悲しげな目で私を見つめている。

 哀れみとか同情とか、若干の苛立ちすら感じる。


「えっと、どういう状況?」


「お姉ちゃん、時間がないから、これから私が言うことを素直に聞き入れて」


「え? え?」


「お姉ちゃんがいるのは、イブオブレボリューションの世界なの。お姉ちゃんは主人公のルージュに転生しちゃったの」


 イブオブレボリューションって、私がやろうとしていた幻の激ムズ恋愛ゲームじゃない。

 その世界に転生した? まさか、私はあのとき、本当にバイクに轢かれて……。


「いい? もうすぐ通信が切れるから、とにかくこれだけは覚えていて」


「う、うん?」


「マウには絶対に関わらないで。とくに、今日だけは絶対に!!」


 怒鳴りつけるように優理が叫んだ。

 マウって……確かイブオブレボリューションのメイン攻略キャラだよね。

 関わらないでって……なんで?


「絶対、絶対だよお姉ちゃん!!」


「わ、わかったよ」


 なにがなんだか、混乱の局地に陥っているけど、とりあえず約束する。


「今夜、またお喋りできるから、そのときゆっくり説明すーー」


 そこで優理は消えてしまい、鏡は私、というかルージュを写した。

 もう一度部屋を見渡して、意味もなく自分の拳を握ってみて、気が抜けたように息を吐く。


 これは夢……じゃない?

 一体全体、なにがどうなっているの?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とりあえず他の生徒に着いていって、食堂でカレーを食べた。

 まるで突然異世界に飛ばされたような心細さが、カレーの味を衰えさせる。

 ていうか、異世界に飛ばされているのか……。


「はぁ……」


 寮から本校舎へ渡り、教室を目指す。

 怖いなあ。このゲームってたくさんの死亡ルートがあるみたいだし、どうなっちゃうんだろう。


 もう一度大仰にため息をつくと、


「ルージュ」


 後ろから、青い髪のイケメンに声をかけられた。

 知ってる顔だ。パッケージに描かれていた男キャラ。


 マウだ!!


「おはようルージュ」


「……」


「どうしたの?」


「え? いや……」


 なんだろう、ゲームキャラとお喋りしている驚きより、妙な切なさが胸を占領している。

 感傷? ノスタルジー? わからないけど、過去の因縁から来るような切なさ。


 ていうか呑気にお喋りしている場合じゃない!! 優理との約束を守らなきゃ。

 なにがなんだかさっぱりだけど、あの子があんなに凄んで訴えるなんて滅多にないから、よほど重要なことなんだろう。


「あ、えっと、じゃあね!!」


「ちょ、ルージュ?」


 イケメンとの会話を楽しみたいけれど、脇目も振らずに逃げ出した。

 私のゲーム攻略が、またはじまる。

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死亡エンドばかりの激ムズ恋愛ゲームに転生しましたっ!! いくかいおう @ikuiku-kaiou

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