第15話 C3−P1 最後の残機

「……なんで」


 マウの仲間が私に杖を向けた。


「新人、下がってろ。……魔法学校の生徒か、成金のガキめ、死ね!! エンドストーム!!」


 強制死の魔法が放たれる。

 私も杖を振って対抗する。


「プロテクション!!」


「ちっ、めんどくせぇ。あらかた救ったし、逃げるぞ新人!! スモーク!!」


 辺りが白い煙で覆われる。

 この隙に消えるつもりなんだ。


 させない。私だって、授業でいろいろ魔法を覚えているんだ。

 マウだけでも捕まえて、テロなんて辞めさせる!!


「ウィンド」


 吹き荒れる風が煙を払う。

 よし、まだマウたちはいる。


「リストゥレイント!!」


 杖から放出された緑色のロープが、マウを拘束した。


「なっ!?」


 仲間たちはマウを見捨てて、次々と去っていった。


「マウ、マウなんでしょ!? まさか本当に民主運動の……」


「ルージュ……」


「こんな、人を傷つけるなんて間違ってるよ!! 関係ない人たちまで怖がって……」


「……」


 なんとかして説得しないと。

 と、その瞬間、


「よくやった魔法学校の生徒さん」


 残っていた騎士の1人が、


「街をめちゃくちゃにしやがって、本当の正義を思いしれ!!」


 マウの背中を、剣で突き刺したのだ。


「ぐっ」


「あ!!」


 仮面が落ちる。

 マウの、優しくてどこか悲しい顔が、露わになる。


 血を吐き、膝を付き、そして、地に伏した。


「ル、ルージュ」


 そんな。

 ダメだダメだダメだ。

 回復魔法でどうにかしないと。


 あーくそ、まだ習ってない。


 マウが死ぬ。死んじゃう。

 助けないと。

 どうやって、どうすれば。


 私が考えもなしに拘束しちゃったから。

 私が、捕まえちゃったから。


「こ、こうなったら……」


 杖を握る。

 自分に向ける。


 リトライをすれば、時間が戻るから。

 けど、それは私の手で残機を減らすということ。

 そうなれば、残機は0になってしまう。そのうえで死ねば、コンティニューだ。


 記憶が消えて、最初からやり直し。

 次の私が優理と共に攻略を続けてくれるけど、いまの私は……本当の死を迎えてしまう。


「はぁ……はぁ……」


 死ぬ。死に近づく。あと一歩まで。


 騎士がマウを蹴り飛ばした。


「このクズ野郎が!!」


 一切マウは反応しない。

 虚ろな瞳でピクリとも動かなくて……。

 まさか、もう、マウは……。


「くっ!!」


 やるしかない。

 たとえ残機がなくなっても、こんな形でマウとお別れするなんて、耐えられない!!


 私は杖を握り直し、


「エンドストーム!!」


 自らリトライを選択したのだった。


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「ルージュさん、別の道から行きましょう」


 意識が戻る。

 目の前では、仮面を被ったマウたちが、馬車で連行されている仲間を救出するために戦っていた。

 ここが、リトライ地点。


 私の残機は……もうない。


「マウ……」


 捕まえたらまた殺されちゃう。

 殺されないように騎士を説得、なんて無理だ。

 なら彼らが逃げるときについていく?


 そんな危険な真似できない。

 私には、もう残機がないのだ。


「ルージュさん、どうしたの?」


「い、いま行くよ……」


 立ち去ろう。

 マウが心配だけど、ここで私が下手に動くと、事態が悪くなる気がする。

 どうか無事でいてほしい。

 一抹の不安を抱えながら、私はサレナとその場から去った。


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 迎えの馬車で学校に戻るなり、私たちは寮で待機するよう命じられた。

 帰ってこない生徒もいる。単に遅れているだけなのか、それとも……。


 もちろん、マウはまだ男子寮にはいない。


「マウ……本当に……」


 気持ちはわかる。

 幼い頃、マウの父は貴族との裁判の末に処刑された。

 誰がどう考えても、相手が悪いのに。


 まあ、設定なんだけど。


 ルージュとしての記憶の中に、マウとの思い出が残っている。

 小さい頃から一緒に遊んだり、勉強したり、喧嘩したり。

 もちろん私が直に体験した過去じゃないけれど、それでも、彼との絆を感じざるを得ない。


 私たちはもう、別々の道を歩むのだ。

 先日、マウがそう言っていたように。


 街はどうなっているのだろう。

 タケシ先輩やツヨシは?


 チャラいスクリオ先輩は、巻き込まれていないだろうか。


「はぁ……」


 肌で感じる。

 ストーリーが動き出している。

 中盤なのか、終盤なのか判断できないけど。


「あそうだ、優理に聞けばいいんだ」


 って、いまはまだ夕暮れ時。

 優理と会話できるのは深夜からだ。


 それまでは部屋でじっとしているしかない。


 もどかしい。

 もどかしい。

 もどかしい。


「マウ……帰ってきて……」

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