第14話 C3−P1 分岐点
スクリオ先輩がキラキラのウィンクをかましてきた。
いかにもチャラくて遊び人な男。
きっと恋愛しても泣かされるんだろうなーと予想しつつ、振り回されたい気持ちも……あったりなかったり。
「じゃあ行こうよ。なに食べたい? なんでも奢るよ」
「えーっと……」
「君たちのこと、もっと教えてほしいな」
サレナが私の腕を掴んだ。
「ルージュさん」
怯えたような声色。
サレナってば、不安なんだね。
私が誘いに乗るんじゃないかって。
「心配しなくても大丈夫だよ。……スクリオ先輩すみません。今日はこの子と2人で遊びたいので」
「俺のことは気にしなくていいってえ。いないもんだと思ってくれていいからさ」
「ごめんなさい。また誘ってください。……行こう、サレナさん」
半ば強引に先輩から離れる。
追いかけられても困るので、私たちは路地裏へ逃げ込んだ。
「ふう、来ないね。諦めてくれたんだ」
「あの人、好きじゃないわ」
「不真面目そうだもんね〜」
「もしかして、あの人と遊びたかった?」
「そんなわけないじゃん。今日はサレナさんとのデートなのに」
「デ……」
おお? サレナが後ろを向いてしまった。
ははーん、照れてる顔を見られたくないんだなあ。
なんでそんな
逆に誘ってるのかな。
「予定通り書店に行こうよ、サレナさん」
「えぇ」
スクリオ先輩がいないことを再度確認し、路地裏から出る。
問題ないよね? 好感度が下がって殺される、とかないよね?
ほんと、キャラクターの一挙手一投足が怖いんだよね、このゲーム。
「なんの本を買うの?」
「摩擦と空気抵抗に関する本」
「り、理数系なんだ……」
他の生徒たちとすれ違いながら本屋さんを目指す。
そういえば街で出会えるキャラがいるらしいけど、どこにいるんだろう。
どこかのお店で働いてるってことなんだろうけど。
「どうしたのルージュさん、キョロキョロして」
「ん? 別になんでもな……」
ない。そう言い切ろうとした瞬間、
「モンスターだあああ!!!!」
誰かの絶叫が聞こえてきた。
モンスター? 声のする方を向いてみれば、
「ドラゴン……」
翼の生えた竜が、人々の頭上で滞空していた。
威嚇するように、野太い咆哮を上げる。
さらに地面に2枚の魔法陣が出現し、2体のドラゴンが召喚された。
「な、なに!?」
合計3体のドラゴンが、空に向かって火を吹き始めた。
まさか、テロ? で、でも何かを攻撃しているわけじゃなさそう。
人々が大急ぎで逃げ出す。
代わるように、街の平和を守る騎士たちが集まってきた。
矢を放ち、魔法を放ち、ドラゴンたちを追い払おうと奮闘している。
それを待っていたかのように、ドラゴンたちが騎士に攻撃を仕掛けた。
放たれる火が、民家まで燃やす。
「い、いったいなにが……」
「サレナ様、お逃げください」
サレナの周囲に3人のメイドさんが集まった。
彼女が言っていた、ずっと監視している警備の人たちか。
「ルージュさん、あなたも逃げましょう」
「う、うん」
直感でわかる。
ここは選択肢だ。
逃げるか、戦うか。
どっちが正しいのか判断はできない。それくらい、このゲームは捻くれているから。
空を飛んだ騎士がドラゴンをふっ飛ばした。
うげっ、こっちに落ちてくる。
「ぶつかる!!」
こんなときこそ防衛魔法を。
ダメだ、杖を取って念じている時間はない。
「ルージュさん!!」
ゾワッと全身の血が冷える。
ドラゴンは私より遥かに大きいし、重い。
あんなのに当たったら……。
「ルージュ!!」
誰かが私の前に現れて、剣からプロテクションの魔法を発動した。
赤い髪、体格のいい肉体。
「タケシ先輩!?」
「言ったろ、俺が守るってよ」
「な、なんで」
「俺は魔法省に務めるモンスター退治の専門家、言わばプロだぜ」
「答えになってないような」
「なんでもいい、お前は逃げろ!!」
私のピンチを、タケシ先輩が助けてくれた。
まさにヒーローのように。
素直に、カッコいいと思ってしまった。
「ツヨシ!!」
先輩が呼ぶと、弟のツヨシまで現れた。
「アニキ」
「お前、俺に憧れてんだろ」
「あぁ」
「なら……わかってんな?」
「俺たちで、あのドラゴンを倒してやるぜえい!!」
「そういうこった」
サイトウ兄弟がドラゴン退治に加勢する。
吹っ飛ばされたドラゴンは既に体勢を立て直していて、再度暴れていた。
なんという耐久力。あんなのが3体もいるなんて、大丈夫かな。
「ルージュさん!! ここは彼らに任せて……」
「あ、うん」
とにかくいまは逃げよう。
歩いてきた道を逆走し、安全な場所を探す。
その道中、
「あれは……」
数台の馬車を襲撃している、ローブを着た魔法使いたちが視界に入った。
仮面を被り、馬車を護衛する騎士と戦っているのだ。
荷台には、街デートの序盤で見かけた、逮捕された民主化活動家たちが乗せられていて、続々と救出されていた。
そうかわかった、あの人たちを助けるためのテロなんだ、これは。
ドラゴンを召喚して、注意をそっち逸らして、その隙に本命の馬車を狙ったんだ。
「ルージュさん、別の道から行きましょう」
「そうだね」
方向転換をしようとしたとき、目を疑うようなものが私の瞳に映った。
ローブの魔法使いたちに紛れた、青い髪の人。
顔は仮面で隠されている。でも、あの特徴的な青い髪と、高い身長は……まさか……。
「サレナさん、先に逃げていて」
「え、でも」
「お願い、私なら大丈夫だから。お願い!!」
「ダメよ、危ないわ」
「いいから!!」
怒鳴るように頼んでしまったからか、サレナは怯えたように、渋々メイドさんたちと走り去ってしまった。
ごめんね、サレナ。
けど、あの青い髪の人。
もしかして。
嫌な予感を全身に感じながら、争いの中に飛び込んでいく。
「マウ!!」
青い髪の人がこっちを見て、固まった。
この反応、間違いない。
マウだ。
マウが、テロリストの一人として戦っているんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※あとがき
応援よろしくお願いします……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます