第13話 C3−P1 街イベント、新たな攻略キャラ?

 学校の生徒全員が街へ繰り出すわけではない。

 寮でダラダラしたい者もいれば、成績不振で外出が認められない者もいる。


 私とサレナは朝早く、何台か来る馬車の一つに乗り込んで城下町へ向かった。


「ルージュさん、起きて」


「んあ」


「ついたわ」


「んえ?」


 寝ぼけ眼を擦って馬車を降りる。

 眼前に広がる光景に、私の眠気は吹っ飛んだ。


 よくいう中世ヨーロッパ風ファンタジータウンといった具合の景観。

 レンガや木造の家、アスファルトじゃない地面、チュニックを着た女性に、鎧を纏って馬に乗っている人もいる。


「うわぁ」


 ぶっちゃけ、ルージュの記憶の中に街の様子はあった。

 けれど、実際に目にするのとはわけが違う。


「とりあえずどうしよっか、サレナさん。……って」


 サ、サレナってば、仮面舞踏会で使うようなマスクを被ってる。

 いつの間に……。

 街中で踊るつもりなのかな。


「なにそれ」


「一応、顔は隠さないと」


「あそっか、国王の孫だもんね」


 逆に目立ってるような気がする。


「悪いけど書店に行ってもいいかしら、買いたい参考書があるの」


「サレナさん勉強好きだもんね、いいよ」


 ゲームのシステム上、毎週養父である校長から一定のお金が貰える。

 とはいえ少額。無駄遣いはできない。


 通り過ぎる人々が、サレナの派手なマスクにドン引きしている。

 ていうか、気づいてない。王女だって気づいてない。


「バレてないね」


「そもそも私、あまり公の場には出ないもの。顔を出したって、ほとんどの人は気づかないわ」


「なーるほど。え、でもさ、不用心に出歩いて大丈夫だったの? 気づく人だっているでしょ」


「えぇ、だから四方八方から監視されているわ、優秀な魔法使いさんたちが警備してくれているの」


 辺りを見渡してみる。

 そんな人いるかなあ?


「邪魔されたくないから、遠くから見守ってくれているけど、呼べば一瞬で来るわ。呼んでみる?」


「や、やめとく」


 凄いなあ。

 そうだよね、王女様だもんねサレナは。


 わー、もしものことがあったら私が怒られるんだろうな。

 緊張してきた。


「ん?」


 人だかりができてる。

 なんだろう、大勢の人間が、騎士たちに囲まれている。


 縄で縛られたり、棒で叩かれたりして。


「我々は暴力には屈しない!!」


「腐った権力者に鉄槌を!!」


「国王政治に今こそ終止符を打て!!」


「そうだそうだ!!」


「人民による人民のための政治をこの国に!!」


 そうか、あの人たちが『民主化運動組織』。

 学校という隔絶された空間にいたから関わったことがないけれど、実際に存在するんだ。


「なんだか大変だね。私よく知らないんだけど、なんで民主化したいんだろうね。そんなに酷いの? いまの政治って」


「うまくいっている政策もあれば、失敗した政策もある。まあ、一番の理由は貧富の差ね。他の国と比べて、税収が厳しいから」


「そうなんだ……。どうなっちゃうのかな、本当に民主主義国家になるのかな?」


「さあ」


「もし国王が王座から引き摺り下ろされたら、サレナはどうなっちゃうの?」


「わからない。けれど、民意なら受け入れるしかないのかもしれないわ」


「えー」


「おじいさまは別に独裁者になりたいわけじゃない。私も、国民の意思は尊重すべきだと考えているから」


「民主化に賛成なの?」


「いいえ。革命が成功したって、信用できない一部のエリート気取りが王族貴族に変わって甘い蜜を吸うだけだもの。真面目で誠実な人間は絶望して、強欲な人間だけが残る。なら、おじいさまという信頼できる誠実な一人のリーダーに任せる方がいい」


 大人だなあサレナは。

 確かに、私がいた世界でも、民主主義の裏で権力者だけが良い思いをしていることもあるからね。


 政治って難しい。


「もしサレナがピンチになったら、私が守るよ」


「……な、なによいきなり」


「嬉しいでしょ?」


「別に……」


 ふふふ、赤くなってる。

 可愛いな〜。


 本当は私とイチャイチャしたいくせに〜。

 まったく、変なところで素直じゃないんだから。

 へへ、調子に乗りすぎか。


 ともあれ、今日は街をブラブラしまくろう。

 美味しいものでも食べて、日頃の気苦労をリフレッシュだ。


 と意気込んだ矢先、





「ねえ、君たち2人だけ?」


 知らない男に声をかけられた。

 オレンジ色の髪をした、なんだかチャラそうな…………イケメン。


 同じ制服を着ているし、魔法学校の生徒みたいだ。


「だれ?」


「ははは、いきなりごめんねー。でもさー、こんなに可愛い女の子たちを前にして、声をかけないのも失礼でしょ」


「ナンパ!?」


 人生初ナンパだ!!


「そういうこと、よかったらご飯食べに行こうよ。もちろん、俺の奢り」


「いや、でも……」


「ん? もしかしてそっちは……サレナ様では? これはこれは」


「な、なんで……」


「俺ってば、顔が隠れていても髪や骨格で女の子を判断できるんだよねえ」


 チャラ男は跪くと、サレナの手を取り、


「漂う品格も消せていませんよ、お姫様」


 甲にキッスをしたのだった!!

 バッと、サレナは不快そうに手を引っ込める。


「やめて」


 私ならドキドキして固まっちゃいそうなのに、サレナはこういうの慣れてるのかな。


「あ〜、とんだご無礼を。クリーム色の髪の君は……ふふ、ルージュ・ザ・バイバルだろ?」


「なんで知ってるの?」


「知ってるさ、俺は学校中の可愛い女の子は全員記憶してるの」


「チャ、チャラい……」


「で、どう? 絶対楽しませるからさー。あ、自己紹介がまだだったね、俺は2年生のスクリオ・アソバランテ。正式な彼女はいないけど〜、君らのどっちかが、なっちゃうかもね」


 最後にウィンクを決めて、スクリオ先輩は歯に噛んだ。

 

 スクリオ先輩、この人もたぶん攻略対象……なんだよね?

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