第12話 C3−P1 街イベントに向けて、サレナとの放課後

 学校は森に囲まれている(2回目)。

 けれど唯一の一本道を下れば、城下町へとたどり着くのだ。

 週末の土曜日だけ、授業がない日であれば街に繰り出すことができる。


 今日は金曜日。さてさて、予定通りサレナをデートにでも誘おうかな。

 誰と行くかギリギリまで様子見していたけれど、やっぱりサレナにすることにした。


 サレナは今や私の友人。友達と街で遊ぶって、憧れていたんだよね。

 普段は晒さない姿を見せあったりして、楽しそうだからね。


 朝のHRは遅刻しそうでバタバタしちゃったから、休み時間に声をかけよう。

 と考えていたのだが、


「あれ? サレナは?」


 一時間の授業の終わりと同時に、サレナがいなくなってしまった。

 トイレかなあ?


「おい」


 ん、ツヨシが話しかけてきた。


「なに?」


「その……この前は悪かった」


「いや、私じゃなくてサレナに謝りなよ。ていうか、お兄さんに私が悪者だって嘘ついたでしょ」


「こっぴどく叱られた。反省してる」


「ふーん、それで?」


 ツヨシが視線を逸した。

 なんだ? なにしに来たんだこいつ。


「俺よ、あんな風に接してきた女はじめてでよ」


「うん」


「だから、その……明日よ……」


 ゾワッと全身に鳥肌が立つ。

 もしかして、恋愛フラグ立ってる?

 勘弁して。こいつだけは勘弁して。


「ごめん、トイレ」


 逃げ出すように廊下にでる。

 ちょうどいいや、どうせ次は移動教室だし。


「まさかあいつが生存エンドの攻略キャラとか言わないでしょうね」


 だとしたら、諦めよう。

 死にまくる人生を受け入れよう。

 ツヨシのこと何にも知らないけれど、平気で人をバカにするような男は苦手だ。


「はぁ……」


「なーにため息ついてんだよ」


 また声をかけられた。


「ん?」


 振り返ってみると、そこには、


「うわ」


 ツヨシの兄、タケシ先輩がいた。


「よっ」


「ど、どうも……」


 肌寒い季節だと言うのにタンクトップで、制服をマントのように羽織っている。

 オレサマ系でありヤンキー系なのか、この人は。


 うわー、腕太いなー。

 相変わらず筋肉質で彫りの深い顔だし。

 男らしさ満載だ。


 壁ドンされたの思い出しちゃう。


「それで、答えは?」


「なんのですか?」


「そろそろ、俺の女になってくれるんだろ?」


「あーいやーそのー」


 ぐいっと、先輩が近寄ってきた。


「安心しろよ。俺と付き合って後悔した女はいねえから」


「あ、ありがとうございま……って、わ、私たち知り合ったばかりじゃないですかー。やだなーもー。ははは」


「じゃあ、俺のこともっと教えてやるよ、じっくりと」


「へ?」


「必ず夢中にさせてみせる」


「……」


「自分でもビックリするくらい、お前に本気なんだぜ?」


「そ、それは光栄ですー。で、では!!」


 またも逃げるようにその場から立ち去る。


「くく、ホント、おもしれー女」


 まだ面白いんだ私。

 お笑い芸人にでもなろうかな。




「えーっと、サレナはどこだ〜。お!!」


 廊下でサレナを発見。


「サレナさーん」


 こっちを向いた。

 あ、反対方向に走り出した。


 なんで? なんで逃げる?


 好感度は下がっていないはずなんだけど。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 授業中はもちろんお喋りできない。

 次の休み時間になっても、サレナはすぐにどこかへ消えてしまった。

 なんだなんだなんだあ?

 わからん、攻略激ムズキャラの考えていることはわからん。


 うーん、気になる。私、なにかしたのかなあ。


 放課後、私は居ても立っても居られず、サレナが使っている寮の部屋の前まで来てしまった。

 これじゃストーカーだ。


 ええい、ここまで来たなら怖気づくな、私。


 コンコンとノックして、


「ルージュだけど、入っていいですか?」


 返事を待ってみるが、反応がない。

 まだ部屋にいないのかな。


 しばらく立ち尽くしていると、扉が開いた。

 綺麗な黒い髪をポニーテールにして、赤いメガネをかけていた。


「なに?」


「い、いまいいかな?」


 渋々、といった具合に部屋に入れてくれた。

 学習机の上にはノートや筆記用具が広げられている。

 勉強中だったのだろうか。


「ごめん、邪魔しちゃって」


「ううん」


 とりあえずベッドの上に座った。


「それで、なに?」


「あのさ……なんか今日、避けられていたような気がして」


「……」


「気に障るようなことしたなら、謝る」


 サレナは黙ったまま、私の隣に座った。

 視線を落として、なにか言いたげに唇をモゴモゴしている。


「こっちこそ、ごめんなさい。あんな態度して」


「わけを知りたいな」


「言いたくない」


「なんで?」


「……嫌われそうだから」


 私がサレナを?

 んー、ますますわからない。

 別にサレナ、変わったところはないけれど。


「嫌わないよ」


「本当に?」


「当たり前じゃない。信じてよ」


 サレナは数秒黙ってから、語りだした。


「聞きたくなくて」


「な、なにを?」


「ルージュさんが、明日誰かと街に行く話を」


「……ん?」


「誰かに誘われたり、誘ったり、みたいな」


 えっと、遠回しすぎてまったく理解できない。


「その話を、サレナさんにしたかったんだよ?」


「?」


「明日、暇なら街に行こうよ」


 サレナが目を丸くする。


「他の人と行かないの?」


 その一言で、私は彼女の胸中を察した。

 ようやく理解できた。サレナは、私が他の誰かと街に行く事実を知りたくなかったんだ。

 だから遠ざけた。近くにいたら、私が誰かに誘われて、頷く光景を見てしまうかもしれないから。


 あ〜、そっか。そっかそっか。

 サレナのやつ、私を独占したいんだ。


 へへへえ、好感度3なのに偉い好かれてるなあ私。


「行かないよ。行くと思ったんだ」


「だってルージュさん、交友関係広そうじゃない」


「そんなことないよ」


「私と一緒にいても、きっと楽しくないわ」


「勝手に決めつけないで。仮に他の人に誘われても、私は断るつもりだったよ」


「どうして?」


「だから、サレナさんと行きたいからだって。サレナさんのこと、もっと知りたいの。あー、王族だからとかじゃないよ。単純に、一人の人間として」


「そう、ふーん」


 なんてぶっきらぼうな態度をしているけど、頬がピクピクしている。

 噛み殺しているんだ。喜びを。


「ふふふ、サレナさんって、可愛いね」


「なっ、なによいきなり」


「え〜、だって可愛いじゃん」


「からかわないで」


 顔真っ赤。

 本当に可愛い。

 最初はクールビューティーキャラだって認識していたけど、ぜんぜん違う。


 後ろ向きで恥ずかしがり屋な女の子なんだ。


 無性に抱きしめたくなる。

 恋愛感情抜きにして、シンプルに仲良くなりたい。


「それで、どうする?」


「い、行くわ」


 即答!!


「同い年の人と街を出歩くの、はじめてだから、楽しみ」


「私も!!」


「そうなの? 意外……」


 そりゃサレナは知らないよね、瑠璃だった頃の私。

 確かにいまは比較的明るいけど、それは美人で才能溢れてモテまくりの主人公に転生できたからなんだよ。


「明日、いっぱい楽しもうね」


「えぇ」


「えへへ、じゃあ、また明日ね」


「また明日」


 目を細めて、サレナは微笑んだ。

 愛らしい、天使のような笑み。


「ルージュさん」


「ん?」


「ありがとう」


「なにが?」


「誘ってくれて」


「ふふ、うん!!」


 サレナ。

 サレナかあ。


 なんだか、百合ルートに入るのも、悪くないかも





・ツヨシ −3→−2


・タケシ 4→4


・サレナ 3→5

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