第11話 C3−P1 マウのこと……。

 私の席は教室の窓際にあるので、授業中でも芝生のグラウンドを見下ろすことができる。

 退屈な地理の時間の間、私は眠気と戦いながら、グラウンドに視線を向けていた。


 他のクラスの生徒たちが、魔法の実技の授業を受けているようだ。


 その中で一人目立つ男に、ついつい注目してしまう。

 青い髪。スラリとしたスタイル。爽やかな物腰。


 幼馴染キャラの、マウだ。


 マウが杖を振ると、彼の隣にもうひとりのマウが出現した。

 分身の魔法らしい。

 といっても、ピクリとも動かないなんちゃって分身だけど。


 魔法の成功に女子たちが湧き、マウの周囲に集まる。


 そりゃそうだ。イケメンだし、魔法の成績が良いんだもの。

 貴族や富裕層の多い学校で、数少ない庶民の出だけど、それを差し引いても彼女たちの瞳には王子様に見えるのだろう。


「はぁ」


 チヤホヤされて、満更でもないマウを眺めていると、無意識にため息がこぼれた。

 思い出す。マウの告白を。


 マウは、ずっと私が好き。

 でも私は? ルージュとしては、たぶん好きなんだろうけど、さ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 週末には街に出るイベントが発生する。

 とりあえずサレナを誘う予定だけど、ギリギリまで様子見。


 他のキャラが良いとか、サレナじゃ嫌だとかではなくて、このゲームは何が起こるかわからないからこその様子見。


「あ」


 廊下でまたマウが女子に囲まれていた。

 ホント、大人気だなー。


 話しかけようかな。

 でも、しばらく放置することにしたし、スルーしておこうかな。


「マウくん今度の週末遊ぼーよー」


「私に勉強教えてくれるんでしょー」


「ねーねーマウく〜ん」


 女子に言い寄られまくって、マウのやつ困ってる。

 八方美人な性格だから、きっぱりと断るのが苦手なのだろうな。


「あ〜、えっと……ちょ、ちょっとゆっくり話し合おう」


「「「ゆっくりお喋りできるの!? マウくんと!?」」」


「そ、そうじゃなくて、落ち着いてって……」


「「「落ち着いてお喋りできるの!? マウくんと!?」」」


「う、うーん」


 なーんか、ムカムカ。

 あの子たちはどこまでマウのことを知っているのだろう。


 変なジェラシー。

 私だって、ルージュの記憶があるだけで、実際にマウと接しているのは数日程度なのに。


「マウ」


 私が名前を呼ぶと、


「ルージュ!!」


 嬉しそうな顔を浮かべて、小走りでこっちにやってきた。

 まるで家族が帰ってきた犬みたいだ。


「どうしたの?」


「え、いや、えっと……」


 ぬわああ!!

 放置するって決めていたのに。

 私のバカ。ほんとバカ。


 これで好感度上がって死亡ルートに入ったらどうすんだ!!


「さ、さっきの授業見てたよ。さすが、魔法の天才!!」


「そんなことないよ。攻撃系の魔法はめっぽう苦手だし。ルージュに比べたら……」


「そうなんだ」


「実際、先日のパラサイトウッドのときは、守りやフォローに徹するしかなかったから」


 面目なさそうにマウがしょげる。

 フォローの言葉をかけたいけれど……躊躇ってしまう。


 ん、さっきの女子たちがこっちを羨ましそうに眺めている。

 学校の王子様を独占しているからだろうけど、もしかして恨まれたりいじめられたりするのかな

 ゲームだし、そこまで生々しい心理描写はないはず……たぶん。


 うぅ、ありそうだな〜。このゲームだからな〜。


「ルージュはさ、今度の週末どうするつもり?」


「んあ? 街に行こうかなって考えてるよ」


「誰と? ま、まさか……」


「いやいや、タケシ先輩じゃないって」


「よかったぁ」


「そんなに?」


「言っただろ? 僕は……」


 ふと、マウが後ろを気にした。

 後ろにいる、囲いの女子たちを。

 そして、小さな声で、


「君が好きだから」


「……ぬぅ」


 な〜んでそういうこと平気で言えちゃうかな。

 顔が熱くなるって。


「君が誰と恋愛しようと自由だけど、やっぱり、少し、嫉妬しちゃうんだ」


 でしょうねえ。

 チュートリアルで刺殺してくるようなメンヘラキャラだもんねえ。

 最近は落ち着いているけど。


「あ、安心してよ。街にはサレナと行くつもりだから」


「そ、そっかあ」


 ふぅ、先手を打ってやったぞ。

 マウにデートの誘いをされる前に、流れを断ち切ってやったぜ。


「マウは、週末どうするの?」


「ん? 僕は友達と予定があるから」


「ふーん」


 えぇ……。

 じゃあ最初から誘うつもりはなかったってことお!?

 それはそれで……ショック。


「サレナさんと随分仲良くなったんだね」


「まあね。もしかしてマウって、サレナのこと苦手? 王族だし……」


「どうだろう。特に王族らしいこともしていないし、あまり意識はしていないかな」


「よかったあ。じゃあいつか3人で遊べるね」


「どうかな。民主化が成功したら、彼女がどうなるか確信できない」


「え……」


「でも、平和的に解決したいと思っているよ。できる限りルージュを悲しませたくないしね」


 ニコリとマウが笑う。

 うん、例え革命でも是非とも平和的な活動であってほしいよ。

 本当に。本当に。


「じゃあルージュ。また今度」


「え」


「ん?」


「あ、いや、なんでもない」


 もう終わりなんだ、マウとのお喋り。

 なんか、あっという間だ。

 口惜しい気分。


 そろそろ次の授業がはじまるし、無理に引き伸ばすこともできない。


「ばいばい、ルージュ」


「うん……ばいばい」


 ばいばいか……。

 そんな寂しいこと言わないでよ。

 って、これじゃまるで、本気でマウのこと好きみたいじゃん、私。


 明後日には最初の街イベントが開始する。

 優理曰く、シリアス方面でストーリーが進むらしい。


 進まなくてもいいのに。




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※あとがき

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