第10話 C3−P1 頼れる先輩タケシ・サイトウ

 学校は森で覆われている。

 森には保護されたモンスターたちが生息していて、独自の生態系を築いているらしい。


 普段は立入禁止だが、授業の一環であれば入ることができる。


「みなさん、今日は森に住むモンスターたちを観察してみましょう」


 モンスター学の女性教師がそう告げた。

 ただ目標もなく森に踏み込むだけの授業だが、未知の世界に飛び込むみたいでワクワクする。


 1年生2人に対し、優秀な3年生が引率してくれるようだ。

 サレナと組もうと思ったのだが、残念ながら体調不良で欠席。


 なので。


「よろしく、マウ」


「うん。怪我のないように気をつけよう」


 別のクラスとの合同なので、マウと組むことにした。

 しばらく放置する予定だったけど、他の人たちがさっさと二人一組を作っちゃったので、しょうがない。


「誰が引率してくれるんだろうねー」


「さあ? 成績トップの3年生らしいけど」


 3年生か……。

 ここで知り合うであろう先輩も、きっと攻略キャラだ。

 もしくは、既に会っている3年生。

 そんなの、一人しかいないけど。


「俺がお前らを引率してやるよ」


 う、この声。

 振り返ってみれば、いた。

 赤い髪、自信満々なワイルドな顔つき。

 腰に刺した剣。


 タケシ先輩だ。


「ようルージュ。こりゃきっと運命だな」


「は、ははは」


 まずい、この人はぐいぐい責めてくるタイプだから、気を抜くと好きになっちゃいそうなので非常にまずい。


 なんせ私はチョロいから!!

 まして隣にはメンヘラ気質のマウもいるのに!!


「この前は悪かったな。ツヨシのやつ、本当に嘘をついていた」


「だから言ったのに。勘違いで恨まれちゃ堪んないですよ」


「くく、本当にお前はおもしれーな。俺にそんな口を聞くなんてよ」


 どこが面白いのかさっぱりだ。


「まあ、今日は楽しくやろうぜ。危険なモンスターもいるが、俺がお前を守ってやるよ」


「ははは、どうも」


 と愛想笑いを浮かべると、


「僕がルージュを守るので、先輩は案内だけしてください」


 表情が曇りまくってるマウが告げた。

 うひーっ、やっぱり不機嫌になっちょる!!


「あーん? またてめえか、ヒョロガキ」


「なんですか?」


「ルージュはな、度胸があって権威に媚びねえ女だ。この俺のような強い男にこそ相応しいんだよ」


「たった数日の付き合いのくせに、わかった気になって」


「日数は関係ねえ。肝心なのは相性だぜ」


「なら尚のこと、先輩はありえませんね」


 睨み合ってる。

 バチバチに火花を散らしてる!!


 やめて!! 私を取り合わないで!!

 私のために争わないでーーっ!!

 つって、実はこの状況をちゃっかり楽しんでいる私がいる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 森に入ると、さっそく猿を発見した。

 モモンガのように皮膜を広げて木々を渡る『フライモンキー』の群れだ。

 他にも、集団で腐った木を食べる『食樹スライム』や、巨大な岩に擬態して、体についた苔で光合成をする『プランツゴーレム』なんてのもいた。


 ほえー、当たり前だけど、見たこともない不思議な生き物ばかり。

 若干怖いけど、好奇心のほうが上回る。


「あ、先輩。大きな花が動いています。なんですかアレ」


「歩行植物の一種だ。自立して環境の良い場所や、交配相手を探してんだよ。植物だが、生殖機能は動物に近い」


「へー」


 面白そう。ついて行ってみたいな。

 ワクワクしながら歩き出した、そのとき。


「んへ?」


 突然近くにあった木の枝が伸びて、私の体に巻き付いた。

 うぐ、しかも結構力強い。


「「ルージュ!!」」


「な、なにこれ……」


 木の幹に亀裂が走り、大きく開く。

 まるで口のようだ。


「ちっ、パラサイトウッドか」


「なんですかそれー!!」


 枝が動き、私を口へと運ぶ。

 ヤバいヤバいヤバい!! 私を食べる気?

 くっ、締め付けが強くて杖を取り出せない。


「ルージュ、いま助ける」


 マウが杖を構える。

 すると、背後に植えられていた木も口を開けて、唾のようなものをマウに吹きかけた。

 甘い匂いがする。樹液か?


「うわ、なんだ!?」


「マウ!!」


 って、他人の心配をしている場合じゃない。このままじゃ私、食べられちゃうよお!!

 残機が、減る!!


 そう覚悟した瞬間、タケシ先輩が剣を抜いた。


「じっとしてろよ。スラッシュウェーブ!!」


 タケシ先輩が剣を振ると、斬撃波のようなものが放たれて、私を拘束していた木の幹を切り裂いた。

 枝の力が弱まり、必死こいて拘束から抜け出す。


「先輩、なんですかこいつら!?」


「パラサイトウッド。本体は小さな寄生虫だ。木に寄生して、構造を変えちまう。木のモンスターに化けるってわけだ。大きな栄養を取り込めば、根っこを伝って周りの仲間にも栄養を送れる」


「だから後ろのやつが、マウを妨害したんですね」


「こいつらは保護対象じゃない。むしろ駆除対象だ。去年、俺が全滅させたはずなんだが、生き残りがいたみてえだな。骨が折れるぜ」


「えぇ……」


 気づけば辺り一帯の木が、口を広げて枝をムチのようにうねらせていた。

 何本あるんだろう。みんな私たちを狙っているようだ。


「お前はじっとしてろ」


「なにするんですか?」


「言ったろ。俺がお前を守るって。ここで駆逐すんだよ」


 余裕そうに、先輩が笑った。

 力強さを感じさせる相好。彼なら大丈夫だと思わせる安心感が、私を温かく包む。


「おいヒョロガキ、てめえもルージュに良いとこみせてえんだろ? なら手を貸せ」


 樹液を払いながら、マウが頷く。


「俺をサポートしろ」


「はい!!」


 周囲の木々が、伸縮する枝や樹液で攻撃してくる。

 対して、タケシ先輩は先ほどの斬撃派で対抗し、木に切り傷を与えていく。


 一方のマウは、プロテクションの防衛魔法で私やタケシ先輩をカバーしていた。


 おぉ、犬猿の仲だったのに協力しあってる。

 イケメン同士の共闘!! 爽やか系とワイルド系の夢のタッグ!!


 守ってばかりじゃいられない。

 私だって戦うぞ!! と意気込んだ頃には、パラサイトウッドはすべて切り倒されてしまった。


 はえ〜。あっという間だ。

 本当に強いんだな、タケシ先輩は。


「ふう、すげえだろ、ルージュ」


「は、はい……」


「惚れたか?」


「え、それは……」


 惚れてはいない。

 けど、かっこいいって、思ってしまっている。

 タケシ先輩はかっこいい。


 も、もちろんマウもね!!


「でも、助けてくれてありがとうございました」


「気にすんな。困ったらいつでも『この俺』が助けてやる」


「いや、いいです」


「くくく、なかなか強情なやつだな。ますます気に入った」


 確か、タケシ先輩ルートだと青春を謳歌する楽しいストーリーなんだっけか。

 先輩と青春かあ。夕日に向かって走ったり、海に向かって叫んだりするのかな。

 悪くないかも……いや、待て待て待て、簡単に流されそうになっているんじゃないよ私!!


 誰も到達していない生存エンディングを目指すのが目的なのに、攻略され尽くしたルートに入っちゃダメでしょ!!


「気に入られても困ります」


「ま、今日のところは口説かないでおくぜ。しつこいのはウザいしな」


 切り倒された木の葉が、まるで栄養がすべて絞り出されたかのように、萎れはじめた。

 寄生しているパラサイトが死んで、木も朽ちてしまったからとのこと。


 そんなこんなで、授業は終了した。




・マウ 8→8


・タケシ 2→4




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※あとがき

タケシの所持している剣は、魔法の出力に適した鉄で作られています。

ですが杖より扱いが難しいので、使いこなせる者は限られています。

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