第8話 C3−P1 タケシ見参ッッ!!

※前回までのあらすじ


 隙きあらば主人公を殺してくるド畜生ゲームに転生しちゃった私、天王寺瑠璃。

 たった1つしかない幸福生存エンディングを目指して奮闘しているけれど……さっそく残機を3つも減らしてがっくしとほほ……。


 前途多難、いや前途遼遠? なにはともあれ妹のサポートを受けながら、がんばりますっ!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 朝のHRで、私とサレナを殺そうとしたヤーバイ先生が投獄されたことを知った。

 優理曰く、彼とイチャイチャするルートもあるらしいのだが、絶対にそんなルートには入りたくない。


 例え生存エンドがあったとしてもだ。


 そういえば、今朝はサレナと挨拶ができた。

 おはよう、と言い合ったのみだけど、初期の無視されていた頃とは大違いだ。


 授業中もチラチラ視線を感じるし、ふふふ、私を意識しているなあ?

 気持ちがいい。顔が良すぎる美人な女子に意識されている事実が、気持ちいい!!


「あ、次は移動教室か」


 教科書とノートと筆入れをまとめて教室を出る。

 この学校は広いから、移動するだけでも大変だ。


 階段を上がり、渡り廊下へ。

 ふぅ、足が痛くなるな……なんて思っていると、


「おい」


 ガタイの良い男子生徒が、私の前に立ちふさがった。

 筋肉質な腕、赤い髪、ワイルドな目つき。

 なにより……イケメン。


 ギロリと私を睨んで、圧をかけてくる。

 めちゃくちゃ怖い。


「な、なんですか?」


「てめえ、俺の弟をいじめたらしいな」


「弟?」


「ツヨシだよ、クラスメートだろ?」


「ツヨ……」


 ああああっ!!

 ツヨシ!! ツヨシか!!

 先生と共にサレナをあざ笑ったあの赤い髪の。


 そうか、この人も同じ赤髪。そっかそっか、兄弟だったのか。


「い、いじめてないです!!」


「あ〜ん? 俺の弟が嘘をついたってのか? お前が一方的に魔法で攻撃してきたつってたぞ」


「それは、あいつが私の友達をいじめたからです」


「そうなのか?」


「はい、命かけていいですよ」


「……」


 ツヨシの兄が考え込む。

 この人も攻略対象、なんだよね?

 うーん、怖い人はちょっと苦手だなあ。


 力で女を支配してきそう。


「確かに、あいつの嘘かもしれねえな。ツヨシのやつ、自分に否があることは黙ってるやつだからな」


「ほらね」


「だが確証はねえ。もしお前が嘘をついているなら、容赦しねえぜ」


「ど、どうぞ、絶対に事実なので」


「ふん、にしてもてめえ、この俺を前に物怖じしないなんて、中々根性があるな」


「この俺って……そもそも誰ですか?」


 ツヨシの兄が豪快に笑い出す。


「ハハハハ!! 俺は3年生のタケシ。タケシ・サイトウ。ここまで言えばわかるか?」


「なにが?」


 兄も日本人みたいな名前だな。

 タケシって。サイトウって。

 齋藤武さん、なのかな。


 都合よく、通り過ぎる女子たちがタケシの解説をはじめた。


「キャーッ、タケシ先輩よー!!」


「学校の剣術大会で毎年優勝してるのよね!!」


「魔法省の魔法防衛隊からもスカウトされていて、既にプロと一緒に仕事をしているらしいわ」


「現代の勇者なんて異名があるのよねえ」


 説明ありがとう、女の子たち。

 いやいや、現代の勇者って、勇者はまだ生きているんでしょうが、国王として。


「へー、すごい人なんですね」


「それだけか?」


「え、敬ってほしいんですか?」


「くく、くくく、『おもしれー女』だな」


 は、はうわっ!!

 でででで、でましたでました、おもしれー女。

 俺様系キャラの常套句!!


 タケシがぐいっと距離を詰める。

 ドンと、私の後ろの壁に手をつく。


 これが壁ドン!?

 少し前に流行った、あの!?


「お前、よく見りゃ可愛いじゃねえか」


「ど、どうも」


 ち、近い。

 顔が近い。


「俺の女になれよ」


 ぬぬぬぬぬっ!!

 俺様系男子からのリアル壁ドン、からのナンパ!!

 ドキドキするなって方が無理な話だよ!!


「ぜってぇ幸せにしてやるからよ」


 うぐぅ、ワイルドイケメンの獣のような鋭い眼光が私の心臓を鷲掴み!!

 ほ、ほのかに男の匂いがする……。


 く、くらくらしてきた。

 このままじゃ、本気で……。


「おい」


 誰かがタケシを引き離した。

 青い髪の……。


「マウ!?」


「ルージュになにをしているんだ」


 怖い顔でタケシ先輩を睨んでいる。

 私を困らせていると思ったんだ。


「はあ? お前誰だよ」


「彼女の……幼馴染みだ」


「幼馴染みだあ? ならどっかいけよ。いまからこいつは、俺の女だ。……な?」


 私に問いかけてきた。

 頷くことを強要するような問いかけ。

 流されちゃダメだ。攻略は慎重にやらないと、これ以上大事な残機を減らすわけにはいかない。


「マウ、そういえばこの前、お話するはずだったのに中断しちゃったよね?」


「え? あぁ」


「いま聞くよ。あっちに行こう!! じゃ、先輩ばいばい!!」


 マウの背中を押して先輩から遠ざかる。

 危なかったー、タケシ先輩の彼女にされちゃうところだった。


「ふん、おもしれー女」


 まだ言ってるよ。

 どんだけ面白いんだ私は。


 別の階まで移動して、私はふぅと落ち着いた。


「ルージュ、まさか本当に彼の……」


「違う違う。あの人が勝手に言ってるだけ。さっき出会ったばかりだし」


「そうか。よかった……」


 ホッと、マウは安堵した。

 そうだよね、不安になったよね。

 私というか、ルージュというか。


 マウの綺麗な青い瞳が私を見つめる。

 真剣で、どこか悲しそうな目つき。


 こういうところ、サレナに似ている。

 どこか放って置けない、気になって、守ってあげたくなるところ。


「君に、大事な話がある」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る