第7話 C3−P1 死亡ルートを退けろ

「ルージュ、なにをボーッとしておる」


 また校長室で意識が戻った。

 最悪だ、こんな短時間に2回も残機を減らしてしまった。

 残りの残機は1つ。あと2回死んだからコンティニューだ。


 でもいったいどうして?

 なんで先生がいないのに殺されたの?


 わからない。

 でも考えるのよ私。


 きっと、先生に殺されるルートに入ってしまったから死んだ。

 なぜ?

 先生の好感度を下げたから。


 それだけ?


 あぁわかった。そういうことか。

 恋愛アドベンチャーゲームにおける『ルート』は、特定の条件が重なったときに発生するもの。


 たぶん今回は、


・授業中に先生の好感度を下げる。

・サレナの好感度を上げる。

・校長室から出る。


 この3つ。

 さらに細かく設定されているかもしれないけど、最低でもこの3つのはず。


 なんで『校長室から出るが』条件なのか、それはリトライ地点が校長室だから。

 ここでの選択が最後のチャンスだからだ。


 そして、重要なのはその先。

 これらの条件を満たした場合、私は問答無用で殺されるということ。

 たとえ、先生がいなくても。


 ストーリーが私の死を決定した以上、絶対に死ぬのだ。


 うーん……殺意が強すぎるッッ!!

 ありとあらゆる手段でプレイヤーを殺したいのか!!


 どんな性癖しているんだ製作者たちは!!


 ともかく、希望が見えてきた。

 死亡イベントは校長室から出たら発生する。


 ならば、出ない。

 ここから出ない!!


「話は終わりじゃルージュ。教室に戻りなさい」


 っていきなり退去を命じられちゃったああ!!


「えー、もっと話しましょうよー」


「はあ?」


「久しぶりにー、ゆっくりお喋りしようよー。お義父さ〜ん」


「うーん、退学」


「嘘です嘘です!! 調子に乗って申し訳ございませんでした!! いますぐ教室に戻りますーっ!!」


 厳しい人だ。

 校長は義父だし、事情を話せば信じてもらえないかな。

 無理だろうな、ゲームだし。


 となるとどうする。

 校長室から出ざるを得ないのに。


 待てよ……。

 ふと、マウの方を見やる。


「ルージュ、少し僕と話せないかな?」


 マウ。

 マウだ!!


 ここでマウと話をすれば、ルートがズレるんじゃないのか!?

 もしかして死亡ルートの条件は3つじゃなくて4つ。


・マウをあしらう。


 が含まれているんじゃないのか!?


 だったら。


「いいよ!! じゃあマウと一緒に校長室から出よう!!」


「え、うん」


 もしかしたらマウに殺される可能性もあるけれど、ものは試しだ!!

 2人で廊下を歩く。


 サレナが追いかけてくる。


「なんであんなことしたの?」


 きたきた。

 同じセリフで返答する。


 問題はここから。


「ウケケケ!! 見つけましたよお!!」


 来た、先生。

 だけど今回はマウがいる。

 さあ、変わるか死亡ルート。

 変わってくれい!!

 

「よくも恥をかかせてくれましたねえ、死ねい!! エンドストーム!!」


 杖から放たれる紫色の光線。

 瞬間、マウが咄嗟に杖を振った。


「プロテクション!!」


 青白いバリアが現れて、エンドストームを弾く。

 防御魔法だ。

 いいぞいいぞ。

 死亡ルートを退けた!!


 いくらルージュが魔法の天才でも、知らない魔法は使えないからね。


「よーし、浮け!! フロウ!!」


 先生を浮かせて、床に叩きつける。

 それだけで、先生は気を失ってしまった。


 お、終わった。

 やったあああああ!!!!


 生き残った!!

 生き残った生き残った生き残っっっった!!



 マウが警戒気味に先生に近寄る。


「驚いた……。以前から短気な方だったが、まさかこんな……無事か? 2人とも」


「はああああい!!!!」


 えへ、えへへ。

 やった、やったぜ。


 喜びすぎてマウとサレナが若干引いてる。


「僕がここに残るから、誰か他の先生を連れてきてくれないか?」


「わかった。……マウ」


「うん?」


「ありがとう!!」


 マウは私のテンションにキョトンとしつつ、微かに唇を綻ばせた。


「君を守れてよかったよ」


 そ、そんなかっこいいこと言われたら、まーたドキドキしちゃうよ。

 あ〜、やっぱりマウってばかっこよすぎる。爽やかイケメン王子様系男子。

 これでメンヘラじゃなかったら、これで過激思想がなかったら、完璧なのに……。


「行こう、サレナさん」


「え? あ、うん」


 サレナの手を引き、他の先生を呼びに行く。


「どうして命を狙われたのに嬉しそうなの?」


「へへへ、ひみつー」


「……ほんと、変な人」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「喜んでいる場合じゃないよ、お姉ちゃん」


 その日の夜、鏡に映る優理に今日の出来事をすべて報告した。

 サレナと仲良くなれたこと、マウを見直したこと。

 死亡ルートを回避したこと!!


「えー、でもさー」


「残機、2つも減ったんでしょ?」


「うぐっ。じゃ、じゃあさ!! もっと早く言ってくれたらよかったじゃん。ネット情報で知れたでしょ? 今回のルート」


「お姉ちゃんがいつ、どこで、誰と、なにをするかわからない以上、先にアドバイスなんかできないよ。行動次第では出会うキャラクターの順番が前後したり、イベントが発生しない場合もあるんだから」


「そ、そっかあ」


「そ、れ、と、も、現在判明している攻略情報、全部教える?」


「覚えきれないんでいいです」


「でしょ? まあ、教えられることはちゃんと教えるからさ」


 こんな調子じゃ、明日にでもコンティニューしちゃいそうだけど。

 やっぱり、トライアンドエラーで攻略していくしかないのかな。


 ゲームの主人公に転生した私と、ネットで攻略情報を得られる優理。

 二人で力を合わせれば、いつか誰も到達していないルートを発見できるかもしれないし。


「にしても意外だなあ。お姉ちゃんがサレナの好感度を上げるなんて。百合には興味ないと思ってた」


「ないけど……実際面と向かって話すとヤバい。顔が良すぎる。それになんだか……守護ってあげたくなる」


「ふーん、人気キャラだしねえ」


「そうなんだ」


「フィギュア化もしてる」


 ふっ、私は本物と喋れるんだけどね。

 全国のオタクたち、ごめんな。


「ちなみに、サレナの好感度を上げまくると、だいたい2パターンのエンディングを迎える」


「どっちも死ぬんでしょ?」


「まあね。テロに巻き込まれて死ぬエンドか、辛い政治情勢に嫌気がさしての心中エンド。感動的な死らしいよ。天国で永遠に一緒になろう、みたいな」


 そんな重たい関係になるんだ、サレナと。

 不幸百合。文学的だねえ。


「他に質問ある?」


「あ、そういえばさ、このゲームって洗顔フォームとか化粧水ってあるのかな? 生前の習慣で使わないと不安で……」


「ゲームキャラになっているんだからいらないでしょ。てかそんなもんないし」


「あそっか」


「まったくもう、他に気にすることあるでしょうに。まあいいや、じゃあ、最後にお姉ちゃんが関わったキャラの好感度を教えるね」


・マウ 6→7


・サレナ −1→2


・ツヨシ 0→−3


・ヤーバイ先生 1→−9


・校長 5→4





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※あとがき


優理がゲームの電源を入れていなくても、ゲーム世界の時間は進んでいます。

ゲームを起動した場合、画面には自動で進行しているように映っています。

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