第6話 C3−P3 サレナの本心

「何故こんなことをしたんだ、ルージュ」


 授業のあと、私とサレナは校長室に呼ばれた。

 呼んだのは、もちろん校長先生だ。


 白いヒゲを蓄えた、目つきの鋭い老人。

 なんでも、かつて勇者と共に魔王を倒した英雄の一人らしい。

 

 さらに設定上は、ルージュの養父である。

 孤児のルージュを拾ってくれた恩人なわけだ。


 ルージュとしての記憶の中にも、厳しく、ときに優しく育ててくれた光景が残っている。


「ごめんなさい。ついカッとなって」


「君はどうなんだ、サレナ・サンライズ」


 王族を呼び捨てですか。


 ていうか、サレナは関係ないと思うけどな。

 現にサレナのやつ、不満たらたらみたいな顔してるし。


 あーあ、サレナの好感度は上がらないし校長先生には怒られるし、最悪だよ。


「なんとか言いたまえ」


「全部……私のせいです」


 へ?


「ルージュさんは私を庇ってくれたんです」


 な、なに。

 恩は感じてるってこと?


「まったく……処罰は追って伝える」


 と校長が告げた直後、


「ルージュ!!」


 幼馴染のメンヘライケメン、マウがやってきた。


「うげっ」


「どうしたんだ、君が校長室に呼ばれるなんて。なにかあったのかい?」


 心配してくれているんだなあ。

 嬉しい、嬉しいんだけど、怖いんだよマウって。


 なんせ一度私を殺してるしね。

 正確には何度も殺されてるのか。


「あ、あはは、まあね。じゃ、じゃあ校長先生、私たちはこれで」


「ルージュ、少し僕と話を……」


「ごめんマウ、また今度!!」


 また殺さねかねないからね、大事な残機を減らさないためにも、ここは逃げる。

 強引に話を切り上げ廊下にでると、サレナが追いかけてきた。


「ねえ」


「な、なに?」


「なんで、あんなことしたの?」


「あんなこと?」


「本当にカッとなっただけ?」


「そうだよ。サレナさんだってムカついたでしょ」


「……」


「なんかよくわからないけど、私も昔は勉強とかスポーツ苦手で、よく馬鹿にされていたから」


 私がバイクに轢かれる前の話だ。

 そういう経緯があって、友達も作らずゲームばっかりしている子になっちゃったのだ。


 サレナが顔を顰めた。


「おじいさまに、取り入りたいんでしょ?」


「おじいさまって……国王のこと? 違うよ。取り入ったら良いことあるの?」


 ゲームクリアの重要なヒントをくれる、とか?

 なら取り入りまくるけど。


「知らないと思うけど、校長は私のお義父さんなんだよ」


「そうなの? 校長先生って、おじいさまの昔の仲間……」


「そ、だからわざわざ、サレナさんを利用する必要なんかないの。……もしかしたら私たち、小さい頃に会っているのかもね」


 サレナは私の顔をじっと見つめる。

 な、なんだろう。

 にしても本当に美人だなあ。


 肌白すぎ。目も丸すぎ。

 鼻も高いし……胸もある。


 私もルージュになってだいぶ綺麗な外見になれたけど、本当の天王寺瑠璃としての姿と比べちゃうと……嫉妬せざるを得ない。


「ど、どうしたの?」


「……あなた、変な人ね」


 んん?

 喧嘩売ってる……わけじゃなさそうだけど。


「さっきはごめんなさい。同年代の人に、あんな風に優しくされたの、はじめてで」


「そうなんだ……」


 ビックリして失礼な態度を取っちゃったわけか。

 なーんだ、シンプルに嫌な女の子じゃないんだ。


 なるほどねえ、サレナは魔法が苦手な劣等生。

 そのうえ、周りにいるのは自分をバカにする人か、国王に近づきたい野心家ぐらい。


 そりゃあ、心の壁も分厚くなる。


「気にしてないよ」


「本当に? なにか恩返しをしないと気が済まないわ」


「大丈夫だって。恩だの貸しだの、そういうのは無し」


「ルージュさん……」


 案外、割とすぐに仲良くなれるかも。

 とはいえまあ、彼女の好感度を上げても死亡ルートが待っているんだろうけどさ。


「あの、その……」


「ん?」


 サレナの耳が赤くなる。

 上目遣いで私を見つめて、小さな声を発した。


「ありがとう」


「う、うん」


 うぐっ、かわいい。

 美人な子が照れながら感謝するの、反則でしょ。

 ついさっきまで苦手だったのにトキメイちゃったよ。


 私って……チョロすぎ。

 これ、好感度上がったのかなあ。


「ま、まあ何はともあれ結果オーライ!! これからもよろしくね」


 と握手を求めた、そのとき。


「ウケケケ、見つけましたよお!!」


 私が懲らしめた先生が、ガンギまった目をかっ開いて現れたのだ。


「先生?」


「よくも私に恥をかかせてくれましたねえ!! 死でもって償いなさい!! 死の魔法、エンドストーム!!」


 先生が杖を振る。

 紫色の光線が、サレナの胸を貫いた。

 サレナは胸を抑えながら蹲り、やがて、力尽きた。


「うそ……」


 待って待って待って。

 な、なにこれ。いきなりなに?

 理解が追いつかない。


 サレナが……死んだ?

 いったいなんで!?


「次はお前だああ!!」


 やばい、これはやばい。

 本気で殺されるルートだ。


 どうにかしないと。


「あ、あの!!」


「エンドストーム!!」


 光線が私の胸に直撃した。


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「ルージュ、聞いておるのか」


 ハッと意識が戻る。

 目の前には校長先生、隣にはサレナ。


 時間が戻ってる。

 リトライになったんだ。


 つまり、私の残機が、減った。


 冗談でしょ……。


 マウが現れた。

 心配したよと話しかけてくる。


 ぶっちゃけそれどころじゃない。

 冷静に状況を整理しよう。


 サレナと話していて、私が懲らしめた先生が来て、私たちを殺した。

 ……意味不明だって。


 どうしよう、このままじゃまたあの先生に殺される。

 てかなんで殺されたの?

 サレナの好感度と関係あるの?


 違う、違うよ私。

 あの先生も攻略対象なんだ。

 先生の好感度を下げたから、殺されたんだ!!


「マジか……」


 待てよ?

 私はすでに、あの場に先生が来ることを知っている。

 なら、回避できるんじゃないか?


「ルージュ、僕と話を……」


「また今度!!」


 廊下を出る。

 今度は行き先を変える。


 とにかく、先生に会わなければいいんだ。


 サレナが追いかけてきた。


「ねえ、なんであんなことしたの?」


 さっきと同じセリフ。

 同じように返していく。


 サレナの好感度を上げておきたいからね。


 それから私たちは女子トイレに入った。

 ここまでくれば、鉢合わせすることはないはずーー。


「へ?」


 突然、私の胸に穴が空いた。

 死の魔法をくらったときと同じ、大きな穴。


 周りには誰もいない。

 先生はいないのに。


「な、なんで……」


 意識が遠くなる。

 私の残機が……また減った。




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※あとがき

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