第5話 C3−P3 先が思いやられる

 本日最初の授業は外で行われる。

 城のような校舎から出るのは初めてだ。


 学校の裏手は広い芝で覆われていて、さらに外側には、学校を丸々囲うように森が広がっている。


 森には、土地開発で棲家を追われたモンスターたちが暮らしているらしい。

 モンスターとはいえ生き物。人畜無害なら保護すべき、との国王の指示なのだとか。


 とはいえ、危険なモンスターがいないわけではないので、基本的に立ち入り禁止である。

 まあ、ゲーム的にはそのうち入って戦闘するんだろうな。


 校庭に集められた私たちに、若い男の先生が告げる。


「ではみなさんには、物を浮かせる魔法『フロウ』を実践してもらいます。心の中で呪文を念じ、杖から魔力を放つのです」


 芝の上にボールが置かれる。

 ふーん、普通に魔法学校の授業っぽい。

 ここで成功するか否かで、ストーリーが分岐したりするのかな。


 みんな必死に杖を振っている。

 成功した者しない者、様々だ。


 私も試しにやってみる。

 呪文なんて知らないけど、念じて……。


「フロウ!!」


 お、浮いた。しかもみんなより高く。10メートルくらいかな?

 ふっふっふ、さすが私。というかルージュ。

 

 ルージュは魔法が得意なのだ。

 類稀なる魔法の才能で、学校中から注目されている、って設定らしい。


 クラスメートたちが「おぉ」と感嘆している。


「さすがルージュさん」


「何メートル上がっているんだ?」


 へへへ、誇らしいのう。

 先生が再度口を開いた。


「魔力を鍛えればより重い物をより高くまであげることができます。では、サレナさんもどうぞ」


 全員がサレナの方を向く。

 そういえば、サレナはまだ杖を振ってない。


 サレナはボールを見るどころか、目を伏せたまま動かない。

 どうしたんだろう。


 すると、


「くっくっく、せんせーよお、そいつは無理なんじゃねえかなあ」


 男子の一人がニタニタといやらしい笑みを浮かべた。

 体格のいい赤い髪の男子だ。


「そいつは魔法の才能がない劣等生!! コネで入学した卑怯者!! だろ? サレナ・サンライズさんよお!!」


 サンライズ?

 国王と同じ苗字。

 まさか王族??


 でも、魔法が使えないって。


 先生が代わりに喋り出す。


「そんなこと言ってはいけませんよ、ツヨシくん」


 ツヨシ!?

 あの赤髪、ツヨシって名前なの!?

 なんつー日本人名。

 あ、あれも攻略対象……なのかな。


 ギャグ専門のモブとかじゃなくて?


「でもよー、せんせー」


「大事なのはチャレンジする心です。ねえ? 国王のお孫さん? 国王様の名誉のためにも、頑張りましょうよ」


「けけけ、悪いせんせーだなあ」


「なにを言っているんですか? みなさんも見たいですよね? 勇者の孫の実力を」


 他の生徒たちも、何人かクスクス笑いだした。

 なんだ、こいつら。

 気味の悪い。


 サレナは黙ったまま、ずっと下を向いていた。


「おいてめぇ!! なんとか言えよ劣等生!! はんっ、てめえみたいな弱っちい劣等生はな、笑い者にされるくらいしか価値がねえんだよ!!」


「……」


「知ってるぜえ? お前、王族内でも使用人ぐらいしかマトモに相手してくれないんだろう? 一族の恥さらしだって、軽蔑されてんだろうがよ!!」


 最悪。

 ムカつくなツヨシとかいうヤツ。


「くくく、そんなこと言っては可哀想ですよ、ツヨシくん。まあ、あんな子の血肉のために我々の税金が使われていると思うと、気持ちはわかりますけれど」


 それに、先生も。

 これじゃ悪質ないじめだよ。


 しょうがない、好感度を上げるつもりはなかったけど。


 私はサレナに近づくと、彼女の手を握った。


「先生、具合が悪いのでサレナさんに保健室まで連れていってもらいます。……行こう、サレナさん」


「え?」


 が、


「待てやルージュ!! まだそいつ杖を振ってねえぞ!!」


「知らないよそんなの」


「あぁん?」


「……弱いと、笑い者にされるしかないんだっけ」


「おうよ」


「そ、なら……。浮いてろツヨシ」


 私が杖を振ると、ツヨシが風船のように上昇した。

 10メートル、いや、30メートルは昇っている。


 おぉ!! と、またもクラスメートたちが驚愕している。

 人間ほど重いものをあれほど高く浮かせられるのは、クラスじゃ私くらいなのだろう。


「どうにかしてみなよ、劣等生じゃないんでしょ?」


「うぐっ!!」


 ツヨシはジタバタと動いて、体勢を立て直そうとしている。

 まるで水中で溺れているカナヅチさんみたいに。


「く、くそっ」


 ふーん、高さにビビらないのは褒めてあげる。

 ま、降りる術はないようだけど。


 クラスメートたちの嘲笑が、今度はツヨシに向けられた。


「天才に歯向かうから」


「だっさ」


 ツヨシの顔が真っ赤になる。


「ちくしょうが、お前も浮け!!」


 ツヨシががむしゃらに杖を振ると、私の体も浮かんだ。

 5メートルくらいだけど、落下すれば骨折は免れない高さだ。


「てめえも足掻けよルージュ!!」


「舐めないで」


 ルージュは魔法の天才。

 ジタバタなんかしないっての。


 きっと、私に不可能はないはず。


 杖を振り、私の足元に魔法陣を出す。

 足をつけると、フロウの効果は解除され、肉体に重力が戻った。


 同じように、空中に魔法陣を出していく。

 階段のように、地面に向かって何枚も。


「よ、ほ」


 その魔法陣を足場にして、私は地面に着地した。


「な、なにぃ!? そんな高度な魔法が使えたのか!!」


「高度なの? へー」


「プロの魔法使いですら使えるのは限られているのに!!」


 そうなんだ、じゃあ。


「先生も浮いちゃえ」


 サレナを笑い者にした罰だ。


「うわ、うわわ、助けてくださいルージュさん!! 私は高所恐怖症なのです!!」


「見せてくださいよ先生。実力ってやつを」


「そんな!!」


「ツヨシと仲良く空中散歩していてくださいよー」


 再度、サレナの手を握る。


「じゃあ、行こっか!!」


 ふふふ、どうだいサレナちゃん?

 少しは私を見直したかな?

 あなたをイジメる連中を懲らしめてやったよ。

 まったくもう、仕方ないなー、これからも好感度を上げてーー。


「離して」


「へ?」


「余計なことしないで」


 サレナは強引に私の手を振り払い、校舎へと一人戻っていった。


「え……」


 な。


「な」


 なっ!!


「なっ!!」


 なんじゃあああああああああああああそりゃああああああああああ!!!!!!

 百合エンドのメインヒロイン、サレナ。

 私が想像している以上に、攻略難易度が激ムズらしい。






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※あとがき

C3−P3とは、コンティニュー3回目、残機3という意味です。

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