第4話 C3−P3 攻略スタート!!

 3回目、ということは私は2回コンティニューしていて、合計死亡は10回。

 いや、さっき死んだから11回か。


「そのうち6回はマウルートで死んでる。あとは授業中の事故とか、学校に忍び込んだモンスターに食われたり」


「全然攻略できてないじゃん……」


「ちなみに、エンディング以外での死、それこそ事故死が発生した場合は、前回のリトライ場面から戻ることになるからね」


 例えばいま私がうっかり死ぬと、放課後の廊下に戻されるわけか。


「とりあえず、マウには絶対に近づかないで。たぶん、こいつはどうやっても正解の生存ルートには進めないから」


「うん」


 イケメンだけど、残念。

 マウを本気で好きになっても、先にあるのは死なのか。


 なんだかなあ。


「たとえ死んでもさ、一時でもマウとイチャイチャできるならいいような気がする」


「普通のプレイヤーならね。自分の好きなタイミングでゲームを辞められるならそれでもいいよ。でもお姉ちゃんは、このゲームを辞められないんだよ? 死んだらリトライか、最悪コンティニュー。何度も何度も何度も何度も!!」


 うぅ、なら幸せに生き続けるルートに進みたいです。

 一時の愛による死が幸福だったとしても、それを永遠に繰り返すようなら、生地獄だ。


「じゃあ、まだ攻略サイトに乗っていないキャラを捜せばいいのかな?」


「うーん、たぶんそんなのいない」


「なら……」


「いろんなキャラに会いつつ、発見されてないルートを見つけるしかないと思う」


 これまで5つのエンディングしかなかったキャラに、実は6つ目のエンディングがあって、それが生存エンドの可能性があるってことか。


「とにかく気になったキャラと会話して、攻略サイトの情報と照らし合わせながら様子を伺っていくってとこかな」


「わかった」


「なにかあったら教えてね。私もネットで調べてみるからさ」


「ありがとう優理。お母さんは元気?」


「まだ寝込んでるよ。お姉ちゃんが亡くなってから、一ヶ月しか経ってないから」


「そうなんだ……。私がゲーム世界にいることは?」


「教えてない。私でさえ、お姉ちゃんと話せるこの状況に執着しているんだから、お母さんならきっと……」


 自分の人生を捨ててまで、私に寄り添おうとしちゃう。

 それは……よろしくない。お母さん自身のためにも。


「優理も、無理して付き合わなくてもいいからね」


「無理はしないよ。でも、お姉ちゃんはハッピーエンドを迎えてそっちの世界で幸せになるまでは、頑張るつもり」


「……ありがとう」


「チュートリアルは今日だけだからね。明日から本格的に、攻略がはじまるから」


「うん!!」


「いい? これだけは絶対に覚えておいて。これは普通の恋愛ゲームじゃない。好感度を上げれば解決するゲームじゃないの」


 痛いほど身に染みているよ。


「不用心に好感度を上げたら……死ぬよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌朝、食堂でカレーを食べたあと、私はそそくさと自分の教室に入った。

 マウと会わないためだ。幸いにもクラスが違うから、教室で話しかけられることは……ないと思う。


「これ、正解ルートの攻略対象が犬だったらどうしよう」


 不安だ。不安でいっぱいだ!!


 大仰にため息をついていると、クラスメートたちがざわつきはじめた。

 教室に入ってきた女の子をチラ見して、ヒソヒソ話しをしている。


 誰だろうあの子。

 綺麗な黒い髪、鋭い目つき、不機嫌そうな顔。

 だけど、とっても美人だ。ノーメイクなのに煌めいて見える。


 決して近づくことが許されないような、神域の艶。

 同じ女の子なのに一目惚れしてしまいそうなほどに、人を引き付ける美を纏っている。


 んん? あの子見たことあるぞ。

 そうだ、パッケージに描かれていた。

 マウと同じくらいデカデカと。


 なるほどね、マウがNLのメインキャラだとしたら、あの子はGL、つまり百合エンドのメインキャラってことか。


 確か名前は……サレナ、だったかな?


 サレナが自分の席に座る。

 クラスメートがクスクスと笑っている。


「一ヶ月ぶりの登校? 最後に見たの入学式なんだけど」


「てっきり辞めたんだと思ってた」


「よく来れたよね」


「顔面と家柄だけの女の子が、良い気になってんじゃないっての。落ちこぼれのくせに」


「ははは」


 なんだなんだ?

 みんなからよく思われていないのかな。


 まあそんなこと、私には関係ない。

 攻略対象なら接近するまで。


 あの子もたぶん複数の死亡エンドが確認されているだろうけど、もしかしたら隠された生存エンドがあるかもしれないし。


「あのー、サレナさん、だよね?」


 こっちを向いた。

 あ、顔を逸らした。


「えっとー、私のことわかるかな? ルージュ・ザ・バイバルって、同じクラスなんだけど」


「……」


「が、学校生活がんばっていこうね!!」


「……」


 むぅぅぅぅしぃぃぃぃ????

 ド無視ガン無視。な、なに、私の存在を認識していないのかな?


「えっと、どうして休んでたの?」


「知ってるくせに」


「あ、いや、その」


「話しかけないで」


「……」


 なんじゃああああてめぇええええ!!!!

 そりゃいきなり話しかけられてビックリしただろうけどさあ、そんな態度取らなくてもいいんじゃあないのかなあ????


 あれか、この子はあれだ、恋愛ゲームによくいる『攻略が難しいキャラ』なんだ、きっと。


 おうおうおう、そっちがその気ならいいですよ。

 話しかけませんよ。


 死んだって攻略してやらないからな!!

 ムキーッッ!!


 優理、安心して、少なくともこの子の好感度が上がることは、未来永劫なくなったよ。

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