第2話 チュートリアル2
制服に着替えて、部屋を出る。
食堂に行けって言われても、食堂はどこにあるんだよ。
「ルージュさん、おはよう」
女子生徒が廊下で私を追い越した。
同級生、だろうか。
「お、おはようございます」
他の女子たちも私に挨拶してくれる。
礼儀正しいというか、フレンドリーというか。
みんな同じ方向へ歩いているので、なんとなく彼女たちについていく。
階段を降りて一階へ。
お、ここが食堂なのか。
しかもバイキング形式。や、やった、カレーがある。
私は朝に食べるカレーが一番好きなのだ。
食堂の隅で一人寂しくカレーを食べながら、楽しそうに談笑している女子たちを眺める。
ここは女子寮だから、当然女子しかいない。
男子寮は別棟だ。
実はこのゲーム、攻略対象は男性だけとは限らない。
私もネットの情報しか知らないけれど、女の子、老人、子供、犬、出てくるキャラクターみんなに好感度が設定されているのだ。
つまり、いま私の視界に入っている女子たちも、攻略対象。
そのなかでただ一人だけが、ハッピーエンドルートへ繋がるわけだ。
それ以外は……幸か不幸か定かではないけれど、必ず死に至るのだとか。
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ゲームとしては初日らしいけど、学校的には初日ではないらしい。
入学して一ヶ月の時期からはじまっているようだ。
巨大な城のような魔法学校が、このゲームの舞台。
寮である塔とは渡り廊下で繋がっている。
在籍しているのは主に貴族や富裕層。庶民もいることにはいるが、数は少ない。
他の生徒についていって廊下を歩いていると、
「ルージュ」
後ろから男子生徒に声をかけられた。
「おはよう」
青い髪の、高身長イケメン。
通り過ぎる女子たちから羨望の眼差しを向けられながら、私に優しく微笑んでいた。
こいつ、知ってる。ゲームのパッケージにデカデカと描かれていた。
確か購入前に調べた情報によると、主人公ルージュの幼馴染みの男の子。
名前は、マウ。
庶民の男の子だ。
「どうしたの? 顔色悪いけど」
「そ、そうかな。は、はは」
「あれ?」
マウがスッと私に近づいてきた。
何事かと心臓が跳ね上がる。
「動かないで」
真剣な眼差しで私を見つめる。
女の子のように細い指が、私の頬に触れた。
「へ?」
「珍しいね、朝食はいつもパンなのに。……お米、ついてたよ」
ニコリと笑って、マウはハンカチで指先を拭った。
「あ、ありがとう」
やば。
やばやば。
めちゃくちゃドキドキしてる。
だ、だって、生まれてこの方、マトモな恋愛なんてしてこなかったし、なのに超絶爽やかイケメンに頬を触られたら、熱くなっちゃうよ。
なんか泣けてきた。
もしかして私、マウと恋愛できる?
できるとも、だって私は主人公なのだから。
画面越しの恋愛じゃない。実際に同じ空間にいて、実際に私が喋れる。
そうだ、普通に考えれば、幼馴染みなんて王道キャラ、絶対に正解ルートに決まってる。
優理、なんだか大変なことになっちゃったけど、お姉ちゃんは無事にこの世界で幸せになれそうだよ。
「天然なところは、相変わらずだね」
「へへへ」
「何食べたの? 定食?」
「カレー」
「カレー!? 朝から!? て、ていうか辛いのは嫌いだって……」
そんな設定だったんだ。
あー、確かに頭の片隅に記憶がある。
ルージュとしての記憶が。
「いやあ、好き嫌いはよくないなって思いまして」
「たとえ地獄の業火に焼かれても辛いものは食べないと宣言していなかった?」
「普通に地獄の業火の方が嫌だなと思いまして」
「ルージュ……僕は嬉しいよ、あんなに偏食だったルージュが……うぅ、ぐす、ぐす」
本気で泣かれた!!
どんだけわがままだったんだルージュは。
「もう、大袈裟なだなあ」
うふふ、楽しい。
イケメンと他愛もない会話をするの、楽しい。
これぞ恋愛ゲームの醍醐味じゃない!!
「こ、これからはいろんなことに挑戦しようかと思いましてね」
「そうなんだ。でも気をつけるんだよ、世間はいま物騒だから」
マウは目を細めると、黄昏れるように明後日の方を向いた。
「早く変わると良いね、こんな世界」
「……」
「じゃあ、またあとで」
「う、うん!!」
なんだろう、最後に見せたあの表情。
ものすごく、不穏なんだけど。
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魔法学校が舞台なだけあって、授業は主に魔法に関する座学。
あとはまあ、基本的な一般教養。
白ひげの男性教諭が教壇に立つ。
私の後ろの席で、女子生徒たちがヒソヒソ話を始めた。
「ババ先生休み?」
「なんか、民主化運動の組織にいるってバレて、捕まったらしいよ」
「え〜、魔物飼い慣らしてテロするような連中でしょう?」
民主化運動……。
ゲームのあらすじに書いてあった。
そもそもこの世界は、勇者が悪の魔王を倒してから50年後が経過している。
勇者はその後、大国『サンライズ』の王となった。
とはいえ、未だモンスターによる被害は跡を絶たない。
魔物と戦い、人類をより良い方向へ統治する者たちを育成する学校が、ここ『サンライズ魔法学校』である。
が、その裏で、共通の敵『魔王』を失った人類は、互いに争い合うようになった。
各国同士で起こる戦争は珍しくない。
そしてサンライズ国では……革命の火がか弱くも燃えていた。
国王勇者による封建政治を脱却し、民主化政策を推し進める者たちが現れたのだ。
「治安の悪い国か……どうりで死亡ルートばっかなわけだ」
でもいまのところ、さして死ぬ予感はしない。
チュートリアルだからなのかな?
とりあえず今日一日は、情報収集だ。
ゲームの世界に転生しちゃった以上、ハッピーエンドを迎えたいもの。
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