死亡エンドばかりの激ムズ恋愛ゲームに転生しましたっ!!

いくかいおう

第1話 チュートリアル1

「ーーちゃん、お姉ちゃん」


 んあ? 妹の声がする。

 もう朝か。


 ムクリと起き上がって、ぐいーっとあくび。


「ふわぁ〜」


 あれ、優理はどこ? 声は気のせいだったのかな。

 ってか……。


「なにここ」


 私の部屋じゃない。

 愛用の布団とは大違いのフカフカベッド。

 モダンなデザインのタンス。

 綺麗に片付けられた学習机には、インクとペンが置かれている。


 けど天井には……電球らしきものがぶら下がっていた。


「え? え?」


 ホ、ホテル?

 どこかに泊まってる?


 待って、私昨晩なにしてた?

 えーっと、えっと、思い出せ。


 記憶を全て掘り返せ!!


 私は天王寺瑠璃。ゲームが好きな女子高生。


 たしか気になっていた中古のゲームを買って、そのままバイトに行って、帰り道に……バイクに轢かれそうになって……。


「お姉ちゃん!!」


 ハッと、声がする方を見やる。

 姿見だ。


「優理?」


 鏡から声がする。


 近づいて鏡を覗いてみれば……知らない女の子がそこにいた。

 ウェーブのかかったクリーム色の長い髪。

 大きな胸。ふりふりの寝間着。


「うわああああ!!!!」


 誰!?

 私じゃない!?


「落ち着いてお姉ちゃん」


 鏡が、まるでモニターのように切り替わり、妹の優理を映し出した。

 背景はまんま、妹の部屋。

 リモート通話みたいだ。


「ゆ、優理?」


「お姉ちゃん、時間がないから、これから私が言うことを素直に聞き入れて」


「へ?」


「お姉ちゃんはバイクに轢かれて死にました」


「死んだ!?」


「イブオブレボリューションの世界に転生しました」


「それって……」


 私が買った恋愛ゲームだ。

 もともと10年前に発売されたマイナーゲームで、あまりの難しさから未だにクリア者が出ていない幻のゲーム。

 少数精鋭の開発チームによって作られて、彼ら以外クリアルート解放条件を知る者は誰もいない上に、その開発メンバーの行方も不明らしい。


 どんな内容なのか楽しみで購入したゲームに、転生したの!?


「ま、まじ……」


「マジです。お姉ちゃんはいま、主人公のルージュ・ザ・バイバルになっているの」


 信じられない。でも、夢って感じがしない。

 息を止めたら苦しいし、朝の肌寒さも……本物だ。


「な、なんでそんなこと、優理が知ってるの? 冷静に解説してるし……」


「そりゃね、もう3回目の説明だからね」


「3回目?」


「すでに2回もゲームオーバーになってるんだよ、お姉ちゃんは」


「は、はぁ……」


「私だってビックリしたよ。お姉ちゃんが買ったゲームを起動したら、画面越しに主人公と会話できるし、しかもお姉ちゃんを名乗ってるし、1回目は私も動揺しまくってた」


「ま、待って!! ちょっと整理させて」


「そんな時間はない!! このゲームにおける1日のはじまりは必ず6時から。私とはそれまでしか話せないんだよ!!」


 壁掛け時計を見やる。

 もうすぐ6時だ。


「よく聞いてお姉ちゃん。そこはゲームの舞台、魔法学校の学生寮。まずは食堂に行って。初日はチュートリアルで大したイベントは発生しないけど、幼馴染みのマウとはーー」


 そこで、鏡は再度知らない女の子を写した。

 知らないというか、主人公のルージュだ。

 思い出してみれば、イブオブレボリューションのパッケージに描かれて少女そのものだ。


「え、優理!?」


 通話が……切れちゃった?


 待て待て待て待て。

 待て待て待て待て待て待て待て待て。


 ゲームの世界に転生した?

 私がやろうと思っていた恋愛ゲームに。

 しかもイブオブレボリューションはただの恋愛ゲームじゃない。


 攻略対象が大勢いる反面、主人公が幸せになれるエンディングはたった一つ。それ以外はすべて死亡エンドのド畜生ゲームなのだ。


 ていうか私、本当に死んだの!?

 そりゃ友達も少ないし、学校行ってバイトして家でゲームするだけの寂しい人生だったけど、バリバリ未練だらけだよ!!


「と、とにかく、なにかしなきゃ」


 たしか食堂に行けとか言っていたな。

 クローゼットを開ける。

 黒い制服が掛けられていた。


「なにがどうなってるの……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る