第十九話 病弱美少女、作戦会議

 開業から一晩明けた翌朝。俺達はダイニングに仲良く並び、朝食を頬張っていた。


「マイちゃん、マヨネーズ取ってよ」

「どうぞ。代わりに胡椒下さい」

「はいよ」

「あの、ノア先輩……りんごジュースのお代わりって……」

「すぐ出します」


 6人がけのテーブルに並ぶハムエッグ、シーザーサラダ、マッシュポテト……。人間良いものを食べないと上手く動かないというのがノアの持論らしく、彼女は食に関しては一度も手を抜いたことがない。大昔の激甘パンケーキだって今思えば味そのものは美味かったのだ。シロップが濃厚過ぎただけで。


「そういやマイちゃん、業者の人何時くらいに来るんだっけ?」

「えっと……9時です。今日は10時開店ですから」

「りょーかーい。あと1時間ちょっとってところかぁ」

「ですね」


 俺は豪勢にもアッツアツのトーストでハムエッグを挟み、そこにマヨネーズと胡椒をぶち撒けた病弱美少女殺しのアメリカンなサンドイッチを頬張る。カロリー爆弾は冷え性の身体によく染み込んだ。


◇◇◇


「またよろしくお願いします」

「こちらこそ、今後ともご贔屓にー!」


 パカラッパカラッと典型的な馬の足音と回る木製のタイヤの音が響く。道の向こうに去っていく馬車の背を見送り、俺はぐっと背伸びした。


「じゃあ、アメちゃんとノアは店内の陳列を。エメリーちゃんは在庫と在庫管理表の確認をお願いします」

「マイちゃんは何やるの?」

「私は……アイディアを練ってます」


◇◇◇


「……あ、良いこと思い付きました」


 そんな言葉が思わず口をついたのは、閉店後の片付け、売上を確認している最中だった。夕日の差し込む店内、カウンターで頬杖を突きながら在庫管理表を捲っていた俺に天啓が下りたのである。

 ちなみにこの日の売上は140万。初日ブーストがなくなった割には上々といった感じだ。ちなみに買い取りもちらほらと来ていて、中々中々悪くない。十分軌道に乗りそうだ。


「良いことって?」

「今ここで話しちゃっても良いんですけど……これだけでも1つのビジネスになりそうなんですよね」

「あー……じゃあ晩御飯食べながらで!」

「はい。ノア、今日の夕飯は?」

「肉でも焼くつもりですけど、何か?」

「いえ、最高です」


◇◇◇


「というわけでアーロトス商会、第一回作戦会議を行いまーす」

「わー!」

「お肉がこんなに……!」

「マイ様、何から焼きましょうか?」

「無論タン以外はあり得ないんですけど、それはそれとしていきなり新しいビジネスチャンスです」

「本当にいきなりですね」


 そう答えるノアやエメリー、アメにも見えるように俺は肉を乗せた熱い鉄板の隣にさっき「No.0054 プリンター」で用意していた事業計画表のようなものを提示する。無論、アメにも分かりやすいようにイラスト付きだ。

 焼き肉とプリントどっちを見れば良いのか分からずあわあわするアメ、焼き肉を頬張りながらも適度に配分しつつ、それに目を通すノア、パラパラと捲っただけで中身を理解したらしく、もぐもぐと肉を頬張るエメリーとこの状況だけを切り取っても三者三様。この個性が商売ではありがたく思える。俺は程よく火の通ったタンを舶来物の魚醤で頂きながら説明を始めた。


「この2日間、私は会計をしていてとあることに気が付きました」

「とあること?」

「はい。……物を持って帰るのは面倒臭い、ということに」

「まあ、そうですね。クッソダルいです。横を歩いてるだけのマイ様にはわからないと思いますが」

「なんで私ディスられたんですか?……まあ、そういうのはともかくとして、持ち帰りが便利になるようなサービスがあれば楽だな、と思いまして」


 「……確かに、意外とビジネスになるかも……」と次の発言を見越したように呟くエメリー。それに続けて「そういう話ですか」とノアは肉を飲み込んで答える。「えっと……?」と1人だけ首を傾げているアメの為、俺は一言でまとめた。


「つまりは、「使い捨ての安い買い物袋とかあったら売れそうじゃない?」という話です」


 これが何を意味するか。即ち、俺はこの世界に資本主義よりも先に「レジ袋」を持ち込もうというのである。

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